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黄昏に落ちた魔法使い  作者: 花藤かえ


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第二話 リロウと書庫整理5

 父の葬儀がおわったあと、ヴァリムがレリアに言った。


『お前も、偉大なる魔法使いの孫として、自覚を持たなければならない』


 その言葉がひどくレリアの胸にのしかかっていた。

 もし、ヴァリム伯父の屋敷に住んだら、その圧力でぺちゃんこになってしまいそうだった。


「僕の家には本もたくさんあるし、勉強するにもいいところだと思うけどな」


 リロウは理解できないという顔で首をかしげていた。

 この読書虫の青年は、学問以外に興味がない。


「とにかく、その前に失敗したらどうするの? 蛙になって一生過ごすなんて私は絶対に嫌よ」

「大丈夫だよ。子供でも使えるって書いてあるんだから」


 レリアは本を確認しようとのぞきこんだが、すぐに読めないことに気がついた。


「古の子供が今の子供と同じとは限らないでしょ?」

「大丈夫だよ。僕だって失敗ばかりしてるわけじゃないんだ。簡単なまじない程度のものならちゃんと成功してる。たとえば、パンをアップルパイに変える魔法とか」


 と言って、リロウはしたり顔をした。


「まさか……嘘でしょ?」


 レリアは胃をおさえた。


「ちゃんとアップルパイだっただろう? 今の魔法じゃこうはいかないからね」

「古魔法だったの? てっきり、魔法が上手いだけかと……」


 急に気分が悪くなってきた。

 その顔を見てリロウが笑う。


「ね、おいしかっただろう?」

「でも、魔法で料理を作り出すことはできないはずでしょ? 私、何を食べさせられたの?」

「作り出した、というよりも、パンのかけらを媒体として、アップルパイを呼び出した、と言ったほうが近いかな」

「どこから?」

「古の都から、かも」


 リロウはおどけて言う。


「人を実験台にしたのね?」

「人聞きの悪い! 僕はただレリに喜んでほしくて」

「白々しい」


 レリアが詰め寄るとリロウは両手をあげた。


「内緒にしたのは悪かったよ。でも、僕を信じてよ」


 のんきに笑うリロウの笑顔に言いたいことは山ほどあったが、レリアはあきらめた。

 リロウ・クラリウスとはこういう青年なのだ。


「それでも、移動魔法はパンのように簡単にはいかないと思うけど」

「通常の移動魔法が高度なのは、肉体が空間を移動するためにたくさんの魔力が必要なことと、その魔力が地力と干渉し合うからなんだ。その制御が並の魔法使いにはとても難しい。でも、古魔法は妖精の力を借りるから、問題ないんだよ」

「妖精の力は地力と干渉し合わないの?」

「妖精の力は地力と同じものだからね。もっとも、僕たち魔法使いだって、もとは地力から生まれたものだし、本来なら干渉しあうことはことはないはずなんだ。だけど、僕たちの魔法は人の理性や知恵を媒介することによって進化し、さらに……」

「あー、もう、そういうのはいいの」


 レリアはあわててさえぎった。

 リロウのうんちくに付き合っていたら、三ヶ月と言わず、いつまで経ってもここから出られなくなりそうだった。


「古魔法は妖精の力を使うってのは分かった。でも、妖精はどうするの?」


 そのときちょうど、小間使い妖精が食事を運んできた。


「ありがとう」


 とリロウは言い、すばやくその髪をひきぬいた。

 小間使い妖精は蚊にでも刺されたかのようにきょろきょろとして頭をかいたが、そのまま帰っていった。


「パンをケーキにする程度ならこれで十分なんだ。でも、移動魔法に使うには弱すぎる。小間使い妖精は人工的に生み出されたものだしね」

「それじゃあ、どうするの?」


 リロウはにやりと笑い、レリアの胸ポケットをに視線を移した。


「駄目に決まってるでしょ」


 レリアは慌てて胸ポケットを手で隠した。


「まだ赤ん坊なんだから。それに、何かあったらどうするつもり?」

「だから、危険な魔法じゃないんだって」

「そんなの分からないじゃない」

「それに、シーは特別な妖精じゃないか」


 突然の言葉にレリアはゆっくりと息を吸った。


「どういう意味?」

「昔、キアラン叔父さんに聞いたことがあるんだ。おじい様がドラゴンの遺跡から卵をひろってきたって」

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