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第六話 女神と魚の意匠瓶



 リブラ大陸

 調整と慈悲の女神リブラの涙から生まれた大陸とされる


 風の国ミクシリディア

 大地の国マウリヤ

 炎の国ファーティマ

 水の国ミグラス


 そして黒の国


 主に五つの大国からなるリブラ大陸

 大陸中のほぼ全ての国が信仰するリブラ教


 黒の国はリブラ教の総本山であり、黒の国の女王はリブラ教の最高祭祀である


 黒の国は、全ての国の人々が生まれた足跡を捨て去り、黒の国の国民として新たな人生を送る権利を与えることができる。

 ただし、その権利を貰うにはとても厳しい審査がある



◇  ◇  ◇



 港町の外れ、ガラス職人の工房が並ぶ通りは、熱と砂と煤の匂いが立ち込めている。

 あちこちにある工房の窓からは、ガラスを吹く長い管と、赤く光る炉が見えた。

 アルルは何軒か覗いて回り、ようやくウルリカに教えてもらった手頃で頑丈そうな瓶を扱う店を見つけた。 店内には形も色も様々なガラス瓶や器やグラスなどが所狭しと並べてある。 


 「20本、いや……30本」


 アルルは近くの小瓶を手に取ろうとして、ふと気がついた。

 ロバの荷馬車に乗せても壊れないだろうか。

 頑丈で手頃な値段なんて都合の良いものがあれば良いのだけれど。

 などど店内でぶつぶつとアルルが呟いていると、奥から店主らしき白い髭を蓄えた老人が声をかけてきた。


 「見ない顔だね。旅の人かい。」

 「そうです。ギルドのウルリカさんからこの店を教えてもらって」

 「ああ、ギルドからの紹介か」


 店主はうんうんと頷いた。


 「それで、どういったものを探してるんじゃ」

 「私は水飴作りをしていまして、同じ形の瓶を50本くらい仕入れたいのです」

 「ふむ…」

 「ロバの荷車で行商しようと思っているから、できれば頑丈な作りのものが良いのですが」


 店主は少し考え込んだ。



「水飴なら口が広い方が良いかな。これなどどうかな」


 店主がいくつか口の広い瓶を持ってきた。

 アルルは並べられた瓶をじっくりと眺めたが、その中で1つ珍しいものを見つけた。


 「この瓶、何だか混ざり物がありますね」

 「ああ、これは失敗作ではないんじゃが、独創性がありすぎて売れ残ってな…頑丈な分オススメじゃ。人気はないが」



 新人のガラス職人が作成したという不透明なガラス瓶には、最近発見されたガラスの耐久性を上げる貝殻の粉が混じっているため、少し不透明ではあるが、それ以外は普通の瓶らしい。


 「在庫もあるし、50本なら安くしよう」


 店主は値段を見せる。普通のガラス瓶に比べ2割くらい安い。

 アルルは迷いなくそれを買った。


 「お土産用に工芸品のガラス瓶に入れた水飴もうろうと思っているの。綺麗な瓶も買いたいのだけどいくつか見せてくれるかしら?」


 その後アルルは店主に運搬に関して緩衝材の話や意匠瓶デザインボトルも紹介してもらい、店を後にした。

 


◇  ◇  ◇



 宿に戻る前に、ギルドに顔を出した。

 預けてきた水飴が売れたかどうか気になって仕方ない。

 扉を開けると、ウルリカがカウンターの向こうから片手を上げた。


 「あらアルルさん。いい瓶はあったの?」

 「ちょっと訳ありの瓶なんですけど、たくさん買ったらオマケしてもらえました」

 「あ、それ」


 ウルリカがアルルの持っている瓶を見た。

 

 「ええ、おすすめされたから買ってみたの。女神様の意匠瓶と、魚の瓶」


 アルルは店主に勧められて、女神リブラの意匠の瓶と、激流に逆らって川上りする魚を意匠した瓶だった。


 「素敵でしょう?このお魚、今にも動き出しそう」

 「アルルさん、それ絶対に女神様と抱き合わせで買わされたわよ…」

 「そうかしら?素敵じゃない。生命力を感じる意匠で素敵だわ。この街で売れなくても次の街で売れるかも」


 アルルは魚の意匠瓶をウットリと撫でる。

 ウルリカは奇妙なものを見る目でアルルを見やる。


 「…あ、そうだ、委託された水飴、あれから3本売れたから残り9本ね」

 「まあ!ありがとう」

 「ここは冒険者も沢山寄るから、旅先の栄養補給にって買っていってたわよ」

 「よかった…需要があって安心したわ。そうそう、今日買ってきた瓶を詰めたらここを出発しようと思っているの」

 「そうなのね。頑張ってね」


 ちなみにアルルはこの翌日、女神と魚の意匠瓶をウキウキで持ってきたが、魚の意匠瓶は旅へ持っていく事になり、長い間荷車の中で眠る事になる。



◇  ◇  ◇



 ギルドからの帰り道、アルルは日課になっている畜産市へ寄った。

 途中の屋台で新鮮なりんごを買って、ハナを預けている馬場へ向かう。

 ハナは今日も馬に紛れて草を食べていた。

 あの白黒は本当にどこにいても目立つ。

 アルルを見ると、顔を上げ、ふすんと鼻を鳴らす。


 「ただいま、じゃないけど……来たわよハナ」


 ハナは首を伸ばし、アルルをぐるりと見た。

 手に持っているりんごに向かって首と舌を伸ばす。鼻息も荒く、笑ってしまった。

 柵越しにりんごを差し出すと、ハナは大きな口を開けて丸ごと口に入れ、シャクシャクと食べはじめた。

 様子を見ていた家畜商の男が、奥から顔を出す。


 「よお姉さん、ハナは相変わらずだぞ」

 「ありがとうごさいます。あの…出発の目処が立ったから報告に来ました。あと3、4日くらいで次へ向かいます」

 「そうかい。順調に準備して出来たんなら良かったよ。荷車もそれまでに点検しておくよ」

 「何から何までありがとうございます」

 「いいって事よ。初っ端から挫けちゃ目も当たらんねぇ」


 畜産商の男は腕を組んでガハハと笑った。


 「よければ荷車を引く練習をさせてもらってもいいですか?」

 「いいさ。さっきオヤツ貰ったみたいだからな、その分動かないと」


 手綱を握り、荷車をつけて歩かせる。

 ハナは最初こそ落ち着きなく耳を動かしたが、すぐに素直に歩き出した。

 ポクポク、という蹄の音。

 それに合わせて、荷車が小さく揺れる。


 「もう少ししたら出発よ。長旅になるから頑張ってね」


 アルルはハナに話しかける。

 相槌を打つかのようにハナはフンっと鼻息を鳴らした。

 運搬係は大変元気そうで安心した。

 アルルは薄暗くなるまでハナと荷車引きの練習をして、宿に戻った。



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