「やっぱり」の教え
「やっぱり」の教え
――聞こえていた声――
お父さんは、
何かを決めるたびに、
少しだけ立ち止まった。
すぐには、動かない。
それから、こう言った。
「やっぱりそうはいっても、
すべきだよ」
また別の日には、
「やっぱりそうはいっても、
これはしちゃいけないよ」
理由は、
いつも長くなかった。
■ 異世界の日常
異世界では、
「出来る」が「許される」になる。
力があれば、
やっていい。
立場があれば、
押し通せる。
それを、
子供の頃から見ていた。
でも、
お父さんは違った。
■ すべきこと
困っている下級役人に、
書類の書き方を教えた。
見返りは、取らない。
「やっぱりそうはいっても、
すべきだよ」
それだけ。
■ しちゃいけないこと
貴族から、
裏取引を持ちかけられた時。
条件は、
良すぎた。
「やっぱりそうはいっても、
これはしちゃいけないよ」
父は、
即座に断った。
説明もしない。
■ 桃子の耳に残ったもの
私は、理由を聞かなかった。
理由を聞くと、
言い訳になる気がしたから。
雄太も、同じだった。
私たちは、
判断の前に、
あの言葉を思い出すようになった。
■ 二人の成長
桃子は、
教える時に使った。
「分かるけど、
やっぱり、ここは守ろう」
雄太は、
改善する時に使った。
「出来るけど、
やっぱり、ここまではやらない」
誰にも教わっていないのに、
二人とも同じ言い方だった。
■ 異世界で育つということ
異世界は、
答えをくれない。
正解も、
失敗も、
結果が出るだけ。
だからこそ、
基準が要る。
父は、
基準を残した。
■ 後年の理解
後で気づいた。
あの言葉は、
禁止でも命令でもなかった。
最後に自分で選ばせるための、
止まり木だった。
飛ぶ前に、
一度止まる。
それだけで、
落ちないことが多い。
■ 終章の一文
異世界で育った私たちは、
強くなったわけじゃない。
でも――
戻れる場所を、
心の中に持っている。
それは、
父の声だった。
「やっぱりそうはいっても――」
その続きを、
私たちは、
自分で決める。




