父が距離を引いた日
もう教えない
――父が距離を引いた日――
父は、突然そう言った。
「もう、教えない」
声は、いつも通りだった。
■ きっかけは、数字
永井さんが、帳簿を閉じた。
「コネは、もう十分です」
それは、
成功の合図だった。
佐久間塾の卒業生は、
役所、商会、地方管理職に散っていた。
推薦状がなくても、
話が通る。
名刺を出せば、
門前払いされない。
それだけで、
役割は終わっていた。
■ 塾をたたむという話
「続ければ、
もっと大きく出来ます」
誰かが言った。
父は、首を振った。
「それは、もう違う」
塾が続けば、
派閥になる。
派閥になれば、
争いが始まる。
父は、
そこまで見ていた。
■ 子供たちの反応
私は、止めた。
「まだ、必要な人がいる」
父は、静かに言った。
「いる」
「でも――
俺がやる必要は、ない」
雄太は、黙っていた。
雄太は、
分かっていた。
■ 父の本音
夜、二人だけで話した。
「お前たちに、
教えたかったことは、
もう教えた」
「決断の段階」
大・中・小。
それを、
使えるようになった。
だから、
父は引く。
■ 最後の日
塾の看板を、
外した。
佐久間塾
木の看板だった。
派手じゃない。
でも、
多くの人が立ち止まった。
「ありがとうございました」
それだけ言って、
去っていった。
泣く人はいなかった。
それで、よかった。
■ 神の視点(短く)
神は、記録した。
「彼は、
権威になる前に去った」
それは、
多くの者に出来ないことだった。
■ 桃子の理解
後になって、分かった。
父は、
人を育てるのをやめたんじゃない。
依存させるのを、やめた。
コネは、
もう十分。
あとは、
自分で歩ける。
■ 終わり方
父は、
宝石の仕事にも、
少しずつ距離を取った。
前に出ない。
名前を出さない。
笑健は、
笑健のまま残した。
私は思う。
教えないという決断は、
一番、難しい。
でも――
それを選べたから、
父は最後まで、父だった。




