争わないための勉強
佐久間塾
――争わないための勉強――
「売り上げの一部で、塾を作る」
お父さんがそう言った時、
私は「え、宝石じゃないの?」と思った。
でも、永井さんはすぐ頷いた。
「それが一番、軋轢が減ります」
その言葉は、
子供の私には少し難しかった。
■ 貧乏貴族の子弟たち
佐久間塾に来る子たちは、
服はきれいだけど、靴が古かった。
名字は立派。
でも、家はもう強くない。
読み書き算盤は出来ても、
礼儀が「中途半端」な子が多かった。
・偉そうすぎる
・へりくだりすぎる
・場に合わない言葉を使う
それが原因で、
貴族同士の会話から弾かれていた。
■ 教える内容
佐久間塾は、少し変わっていた。
基本
読み書き
算盤
書類の読み方
貴族教育(中級・下級向け)
正しい礼の角度
言葉を濁す技術
断る時の表情
特別科目
時代のニーズを読む
それに合わせた「貴族らしさ」の演出
「今、求められているのは
強い貴族か、賢い貴族か」
そういう問いを、
先生たちは真面目に教えていた。
■ 日本の勉強
一番不思議だったのは、これ。
「やってみたい勉強があれば、
実費を払えば、日本で学べる」
算数が好きな子は、日本の算数。
物作りが好きな子は、日本の工作。
商売に興味がある子は、簿記。
先生は、元塾講師が三人。
説明が、異様に分かりやすかった。
「分からないのは、
あなたが悪いんじゃない」
そう言われて、
泣く子が何人もいた。
■ なぜ塾だったのか
ある日、私は聞いた。
「なんで、塾なの?」
お父さんは、少し考えてから言った。
「宝石だけだと、
貴族は“奪う側”になる」
「でも、教育を渡すと――」
永井さんが続きを言った。
「借りが出来る」
神部さんは、静かに補足した。
「恩は、刃より長く残ります」
私は、その時初めて分かった。
これは、優しさだけじゃない。
争わないための仕組みだ。
■ 設立時の体制
佐久間塾は、
元・日本の塾講師三人体制で始まった。
・教えることに慣れている
・成績で人を切らない
・保護者対応が出来る
冒険者より、
よほど貴重な人材だった。
■ 結果
貧乏貴族の子たちは、
不満を言わなくなった。
代わりに、
「どう立ち回るか」を考えるようになった。
上位貴族は、
露骨に手を出せなくなった。
「佐久間塾の子」に
無理をさせると、
評判が落ちるからだ。
■ 桃子の結論
私は思った。
お父さんは、
戦わない代わりに、
考える人を増やしたんだ。
宝石は、光るだけ。
でも、考える人は、
世界を静かに変える。
それが、
一番もめない方法だった。




