数十年後の記録
名前だけ残った塾
――数十年後の記録――
王都の古文書庫に、
薄い冊子が一つ残っている。
表紙には、こう書かれている。
「佐久間塾 概要」
発行年は不明。
著者名もない。
■ 記録の内容
中身は、驚くほど地味だ。
・在籍者数
・設立期間
・教科内容
・閉鎖理由
英雄譚も、
理念の説明も、
ほとんどない。
最後の一行だけ、
線で囲われている。
「本塾は、
特定の思想・派閥・
忠誠関係を形成しなかった」
■ 歴史家の評価
後世の歴史家たちは、
首をかしげた。
「なぜ、この塾だけ
悪評も称賛もない?」
多くの教育機関は、
必ず賛否を生む。
だが、佐久間塾は違った。
■ 見えない影響
調べると、
奇妙な一致が見つかる。
・要職に就いた者が、
極端な改革をしない
・不正を告発せず、
事前に潰す
・争いを大きくしない
共通点は、
佐久間塾の短期受講歴。
だが、
本人たちは言わない。
「そこで学んだ」と。
■ ことわざになる
いつの間にか、
こんな言葉が残った。
「それは、
佐久間塾的だな」
意味は、曖昧だ。
・派手ではない
・無理をしない
・一線を越えない
誰も正確には説明できない。
■ 塾の終わり方
閉鎖理由の欄には、
こうある。
「設立目的、達成のため」
理由になっていない。
だが、
それ以上の説明もない。
■ 名前だけ残るということ
多くの塾は、
制度になる。
制度になれば、
必ず歪む。
佐久間塾は、
制度になる前に消えた。
だから、
名前だけ残った。
■ 最後の記録
文書の余白に、
後世の書記が
小さく書き足している。
「佐久間塾出身者は、
判断に迷った時、
必ず一度、立ち止まる」
理由は、
誰も知らない。
■ 終わりの言葉
英雄の名は、
石に刻まれる。
だが、
佐久間塾は違う。
名前だけが、
静かに残った。
それで、
十分だった。




