神の後悔
仲前佑太は、自分が弱いことを知らずに生きてきた。
幼稚園の頃、家は貧しかった。
食事は足りていなかったが、「空腹」が基準になっていたため、それを不幸だとは思わなかった。
成長しても、力が出ないのは「自分は運動が苦手なだけ」だと考えていた。
神社にだけは、なぜか足を運んだ。
理由はない。ただ、手を合わせると落ち着いた。
それを「信心深い」と呼ぶほど自覚的でもなかった。
普通に働き、普通に恋をし、普通に家庭を持った。
娘が小学校四年生になった年、彼は突然この世を去った。
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### ■ 神の後悔
目を覚ました佑太は、白い空間にいた。
「すまなかった」
神は、そう言った。
佑太の人生は「運が悪かった」のではない。
幼少期の栄養不良により、筋力・代謝・回復力が常人の半分しか育たなかった。
努力で補っていたが、それは「自分の基準が低かった」だけだった。
「お前は、与えられなかった側だった」
神は、彼を元の肉体に戻した。
ただし――**力は2倍**にして。
・筋力
・持久力
・回復力
・思考の持続性
すべてが「ようやく普通の人の1.2倍」程度になっただけだ。
そして、もう一つ。
**異世界往還スキル**
地球人を最大10人まで連れて行ける、制限付き。
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### ■ 佑太は冒険を選ばなかった
剣も魔法も学ばなかった。
勇者にもならなかった。
彼が考えたのは、ただ一つ。
「娘を、困らせない」
異世界の市場を見て、彼はすぐ理解した。
この世界では――**美しく、均一で、安定した宝石が存在しない**。
魔法石はあるが、不安定で希少。
加工技術も粗い。
佑太は地球から**人工宝石**を持ち込んだ。
・工業用合成サファイア
・レーザー用ルビー
・完璧な透明度のダイヤモンド代替結晶
異世界の職人たちは、息を呑んだ。
「神が削った石だ」と誤解された。
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### ■ 儲け方は、静かだった
佑太は独占しなかった。
・都市ごとに流通量を制限
・「子供用の護符」「学業成功のお守り」用途に限定
・貴族向けの過剰装飾は禁止
価格は高いが、法外ではない。
結果として――
**宝石市場は安定し、佑太だけが利益を積み上げた。**
異世界に連れてきたのは、地球で行き場を失っていた人間たち。
・宝石加工職人
・物流管理者
・会計士
・教師
全員が「戦えない者」だった。
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### ■ 神が見た結末
佑太は、異世界で王にも英雄にもならなかった。
だが――
・宝石価格の安定
・子供向け護符の普及
・教育資金の循環
それらは数十年後、「貧困による魔力暴走事故」を激減させた。
神は言った。
「お前は、救済を求めなかった。
だから世界が救われた」
佑太は笑った。
「俺は、ただ――
**娘に胸を張れる父でいたかっただけです**」




