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公爵令嬢は愛人となり、いずれは母となる  作者: 白根 ぎぃ
第二章

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40、カルミアの教育結果




 ローゼが直接指導に訪れる回数は減った。

 カルミアに伝えられたのは、耳触りのいい上辺だけの言葉であったが、カルミアは疑うことはしなかった。むしろ、疑うという考えにすらならなかった。



―――お義父様とお義母様が何か言ってくれたに違いないわ。公爵家の娘に対する態度ではなかったもの。



 ふふ、とカルミアは笑みをこぼす。


「ローゼ伯爵夫人はカルミア様が緊張せずにゆっくり覚えていけるように、訪問する回数を減らしてくださったのです。もちろん、私どもが夫人からお勉強の指示は聞かされておりますので、ご安心ください」

「まあ、あの夫人にもそんな気遣いができるのね。ありがたいわ」


 本来であればローゼから授業をしてもらえることは、貴族令嬢にとっては誉れである。


 この国にいる多くの令嬢は、彼女(ローゼ)から指導を受けたいと思っている。

 ローゼは生徒に対して、貴賤を問わない。

 彼女(ローゼ)が問うのは彼女が()()()()()()()()()か、だけであった。


 名門貴族出身でもない、名ばかりの男爵令嬢であったカルミアはそのことを分かっていない。

 今回は侯爵夫人であるビンセンティアとローゼが知り合いであり、婚家である伯爵家がナイトシード公爵派であったからこそ、特別に教えてもらうことができたのだ。


「まあ! 凄いですわ、カルミア様! 背筋がスッと伸びていて、とっても美しいですわ!」

「え、本当? えへへ、私もやればできるんです。今までは夫人の圧が強くて……緊張しちゃってたの、私」

「ふふ、今までとは見違えるほどですわ。こんなに美しく伸びた背筋は、すぐにはできませんもの」

「ありがとう、みんな。あーあ、あちらの家がもっと私に淑女教育をしてくれていれば、夫人にあんなに馬鹿にされなかったのになぁ」


 十六歳の少女にはあまりにも大げさな誉め言葉であるはずだが、カルミアはこの扱いの変わりようを何も思わずに受け入れた。


 むしろ、この褒め方こそ当然だ、と思っている。


「そうでしたのね。男爵夫妻はなんて酷い方たちなのかしら。こんなに才能のあるカルミア様に教育も与えなかったなんて」

「ええ、ええ、その通りよ。本当に酷いこと……」

「ありがとう、そう言ってくれると報われるわ。私も本当は学びたかったのだけど、あの人たちがね……。でも、これからは公爵令嬢として胸を張って礼儀作法を学んでいきますわ」



 カルミアは得意げに胸を張った。



―――あのおばさんがいないだけで、気分が晴れやかだわ! 最初からこれで良かったのに。こっちの方が覚えやすいし。みーんな優しくて、凄く簡単にできちゃう。やっぱりあのおばさんが厳しすぎたのね。でも、あのおばさんも反省したから、私に特別な紅茶を差し入れたんでしょうね。珍しくて美味しいなんて、私にはピッタリだし、最高だわ!




 結果として、半年の間で単純なマナーや歩き方は身につけることはできた。

 しかし、そのレベルは幼い令嬢でも三か月もあれば覚えることのできるレベルであった。


 マナーは食事の時にどの食材にはどのナイフとフォークを使うか。


『そうですわ! まあ、もうどちらを使うのかを覚えられたのですね!』


 歩き方は膝を曲げずに小さな歩幅で歩くこと。


『まあ、ゆっくり小さな歩幅で美しいですわ。私見惚れてしまいました……!』


 とにかく、カルミアに付けられた侍女たちは大げさに褒めそやした。

 カルミアは半年間、かなり自分は成長したと思っているだろう。当然のように幼子のような授業、褒美の菓子や宝石を受け取りながら、ローゼが訪問した日に胸を張りながら見せる。


『夫人、ご機嫌麗しゅうございます』


 腰の高い位置で手を合わせ、優雅な笑みを浮かべる。

 ローゼはその仕草を見て、ニコリとほほ笑んだ。カルミアは夫人に認められたと思い、侍女たちと喜んだ。


 半年のマナーと歩き方の授業がひと段落すると、他の家庭教師たちも少しではあるが、授業を再開するようになっていった。


 いつも穏やかな笑みを浮かべ、微笑みながら全てを肯定する。


 他貴族の領地のこと、国の歴史や政治、そしてナイトシード公爵家の事業など、知っておかなければいけない話に関しては何一つ身に付かなかった。


 身に着ける気がなかった、ともいう。


「カルミア様。公爵家の領地についてですが……」

「ああ……ええっと、ごめんなさい。私、刺繍のお勉強をしないといけないの」

「…………左様でございましたか」

「そうなの。刺繍の先生って凄く真面目で、ハンカチの隅っこに小さくする刺繍なんて、買えばどうとでもなるものなのにね」

「そうですか」


 多くの教師陣はカルミアを生徒とは見なくなった。

 とりあえず、見れる形になれば付け焼刃でもいい、下手なことをしなければ良いのだ。


『どうせ、カルミアが自身で考えて動くことなど、ほとんどないのだから』



 授業の再開から、一年という期間は決して短いものではなかった。カルミアへの授業の成果を家令、家庭教師陣それぞれが公爵夫妻へと話した。



「閣下、一年を通しての成長はご報告通りです。礼儀作法はほとんど通用する者ではないと思いますので、期待はしないでください。ただし、ガワだけは見れるようにはしております」

「構わん。そうだな……娘たちがよく読んでいるという小説のように、記憶喪失になった娘を預かったということにでもするか?」

「まあ、あなたが冗談を言うなんて……ふふ、でも、そう言ったところで殿下は何も言えませんものね」

「その通り。カルミアは傀儡として動いてくれればいい。余計な知識も知恵もいらん……ただ、ヴィオレッタの代わりになれば、それで良い」


 ナイトシード公爵は首元を少しだけ寛げ、ゆっくりと息を吐いた。

 ビンセンティアも主人である公爵の言葉に頷き、報告した家令に視線を流して続きを促す。


「人形として動いてもらうには適任かと。カルミア様の護衛騎士は中身を知っておりますので、惑わされることはありません。しかし、散歩と称しては庭に繰り出し、庭師の男と話しておりますが……大抵の男は勘違いはしております」

「まあ、私には真似はできませんけれど、順調ね」

「そうだな。できるだけアイバンに会わせるまで、今の状態を保ちつつも教育は続けてくれ」


 公爵のその言葉に家庭教師たちは一同頷いた。

 むしろ、それ以外にカルミアが役に立てることはないだろう。娘であるヴィオレッタの代わりは、無能で無知、そして健康的な娘を一番欲していたのだ。


 見目がよく、無知で、政治には興味がない野心家。



「お前たちには苦労を掛けるが、あの娘こそ……私が求めていた娘だったか。先が楽しみだ」


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