表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は愛人となり、いずれは母となる  作者: 白根 ぎぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/33

25、コニーと青年




 十六歳になって数か月、コニーはすでに貴族令嬢というよりかは、庶民の娘と同じで働きに出ていた。


「私、お店行ってくるね」

「おい、コニー。今日帰ってきたらお前に話があるから、遅くなるなよ」

「はーい」


 コニーは両親に声をかけて家の外に出た。

 あの日以降、ナイトシード公爵家からは何の音沙汰もなかった。

 ジギタス家は父親は王宮での勤めを辞め、コニーがヴィオレッタからもらったドレスを売った金と、金がなくなれば宝石を売りに行くことで暮らしていた。


 それほどあの時もらったドレスには、多くの宝石が装飾されており、数年経った今でも多くが手元に残っている。


 男爵家の暮らしぶりは以前と変わらず、両親のギャンブルと酒が無くなれば裕福に暮らせる。だが、両親は手元にある宝石を売り払うだけで金ができ、売れば当分贅沢ができるため、何も考えずに暮らしているのだ。


「おや、コニー。今日は早いんだね」

「うん、家にいてもやることないから、早く働きに来ちゃった」

「うちは嬉しいよ、コニーが来てくれると売り上げ上がるからね」

「やだぁ! もう! 褒められたら頑張っちゃうわ!」

「あははは、まあ、時間までは茶でも飲んできな」


 コニーの働く先は、王都の街中にあるカフェだった。昼はカフェ、夜は簡単な軽食と酒を提供する店であり、王都の中でも人気のある店である。


 この店を一人で切り盛りしていた店主は女性であり、名をルイーズと言った。七歳の頃、街中をうろついていたコニーをたまたま見つけると食事を与え、手伝いという形でもいいから雇ってほしいと泣きついてきたコニーを不憫に思い、わずかばかりの賃金を渡す契約で雇ったのだ。


 コニーは七歳の祝いの後すぐから裏方として皿洗いなどで働き、ルイーズが出してくれる賄いおやつ、近所の住人の施しで食いっぱぐれることもなく、十三歳で年相応に見えるようになってホールに立つようになった。


 カラン、と店の扉が開く音がする。時間はカフェが開くまだ前である。


「コニー、ごめんよ。あんたに惚れてる坊ちゃんが来てるんだけど、行けそうかい?」

「うん、行けるよ。お茶も飲み終わったし! でもね、あの人は私に惚れてなんてないよっ」

「またまた! まあ、良かった。じゃあ、頼んだよ」

「はーい」


 両親のどちらにも似ていない容貌は愛らしく、十六歳になったコニーはそれについても上手く利用していた。


 幼い頃はコニーを不憫に思い、近隣住人が与えてくれていた食事や衣服は、年齢を重ねるごとに若い青年や父親と同じ年齢、それより上の男たちからのプレゼントへと変わっていた。


「また来てくれたの? でも大丈夫? 毎日来てるけどお店の食事飽きないの?」

「コニーちゃん! 飽きない、全然飽きないよ!」

「そっか、ビルが来てくれると話し相手もできて、私も楽しいよ! 注文は決まった?」

「うん、あ、でも待って……これ……この前コニーに似合うかなと思って」


 ビルと呼ばれた青年が差し出したのは流行りの甘いお菓子と、小さな宝石があしらわれているブレスレットだった。


「え、ビル! こんな高価なもの貰えないよ! だって……私は貰っても何もしてあげられないもの……」

「や、いや……違うんだ、別にコニーに何かしてもらおうなんて思ってない! 命に懸けて誓う! ただ、僕の店にこの商品が入って来た時に、君に似合うと思って……」

「あ、これ……この石、ビルの目の色みたいで綺麗な石だね! でも、本当に貰ってもいいの?」

「えっ!? あ、うん……貰ってくれると、その嬉しい、かな」

「そっか…ありがとう。じゃあ、これ……」


 コニーはビルが持ってきた花の形をしたメレンゲ菓子の箱を開けると、一粒取り出してビルの口元に近づけた。


「はい、ビル。あーん、して?」

「え!? いや、それは……」

「なんで? 私ができるお礼なんてこの程度だもん。ほら、ね、 はい、あーん?」

「…………っあ、あー……ん……」

「どう? おいし?」

「う、ん……凄く美味しい……」

「ふふ、良かった! 後でルイーズさんたちと食べるね、ありがとう! あ、注文は?」

「いつもので……」

「はーい、待っててね」


 コニーは踵を返すと、そのままキッチンの方へと足を向ける。その後姿をビルはいつまでも顔を赤くしながら見つめていた。


 コニーはビルのプレゼントを贈る行為に、下心がないとは思っていない。だが、全てにおいて知らないふりをして、無垢な少女の姿を演じることが一番だと分かっていた。


「コニー、あんたも罪な女だねえ」

「えぇ? やだっ、ルイーズさんったら……でも、私はこういうのどうしたらいいか分からないから……」


 オーダーの書かれた紙をルイーズに渡すと、ルイーズから視線を逸らして足元を見た。


「あ、ああ……ごめんね、コニー。そんなつもりで言ったわけじゃないんだよ」

「ううん、ルイーズさんの言う通りだよね、私……お父さんとお母さんの言いつけを守って生きて来たから、恋愛とか……そういうのよく分からないの」


 カウンターからビルのいる方を振り返ると、少しだけおどおどとしたビルと目が合う。ビルはコニーと視線が合うとすぐに逸らし俯いた。


「……そうだね、それにコニーは男爵家……親が結婚相手を決めるんだろう?」

「一応、男爵家ってだけだよ。本当の親はルイーズさんみたいなもんだけどね」

「あら、嬉しいことを言ってくれて……もし、いろんな男からモノを貰うのが嫌だったらいつでもいいな。とめてやるから」


 その言葉にコニーは顔を上げて、横に首を振るとルイーズを見つめて笑った。


「お返しできないけど、下心がないんだったら貰うよ。だってお父さんとお母さんに渡さないといけないから……。それがあれば、ここで働いてもらった給金は渡さなくていいの」

「なんだい、そりゃ……人様の親にケチをつけるわけじゃないけどさあ……」

「いいの、いいの! 私、皆が気にしてないって言ってくれるから貰ってるの。それに最近は下心っていうのが分かるようになったもんっ」

「……本当かねえ……まあ、いいよ。なんかあったら絶対に言うんだよ」

「うん」


 もちろん、嘘である。

 コニーはこの店で客から貰ったプレゼントを両親に差し出したことは、一度もない。



―――渡すわけないわ。売り払われちゃうから、趣味が悪いモノは売って、それ以外はずっと隠してる。私が貰ったモノは、私のモノ。私が好きにするの。どうせ、結婚相手だって勝手に決めてくるだろうから、今のうちに稼いでおかないと。



 両親はコニーがわずか七歳で手伝いとしてカフェで働くことに、反対もしなかった。むしろ『余りものを貰ってこい』と言い出すほどだった。


『手伝いか……余った飯でももらって帰ってこい。お前の食費が浮くな』

『ええ、そうね。でも料理屋でしょ……? いい、コニー。変な男と仲良くしては駄目よ』

『はい』

『そうだぞ、それから絶対に恋仲になどなるな。男と寝るなど言語道断だからな?』

『はい、わかりました』


 まだ七歳のコニーには、分からない言葉の意味もあったがとにかく頷いた。近所の家に行って食事を貰うことをしなくてもよくなり、なにより家にいなくてよくなるからだ。


 ただし『男と恋仲になり処女を捨てるな』と、これだけはきつく忠告されていた。

 両親の言葉に反発する、などという気持ちはコニーの中にはなかった。年を重ねるごとにその言いつけは厳しくなり、一応男爵家という爵位があるため、コニーの結婚相手は両親が選ぶだろうとも思っていた。



 見目も良く金を持っている貴族の男と結婚がしたいと、コニー自身も思っていたからこそ、言いつけは破らなかった。



「はい、お待たせ、ビル。あのね、いつもありがとうね。私、あなたのこと大好きよ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ