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公爵令嬢は愛人となり、いずれは母となる  作者: 白根 ぎぃ


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23、コニーとヴィオレッタ②




「いかがでしょうか、コニーお嬢様」

「うわぁ……」


 コニーは思わず感嘆の声を上げた。

 鏡に映った自分が自分ではない、絵本の中から飛び出したお姫様のように見えたからだ。コニーはドレスの裾を掴むと、くるりと周り何度も見返した。


 その様子を微笑みながら見つめるサーラに、ベラが二人を促すように告げた。


「コニーお嬢様、とてもお可愛らしいですわ。さあ、ヴィオレッタ様もお待ちしておりますので、行きましょう」

「は、はい!」


 履いたことのないローヒールの靴で歩き出すと、コツコツと床にあたる度に音が響く。その音を聞くだけで、お姫様になった気分にコニーはなれた。

 ヴィオレッタが待っていた部屋に戻ると、頬を赤らめながらコニーはドレスの裾を摘まみ不器用に礼をした。


「お嬢様、終わりました」

「まあ、とても可愛いわ! お姫様のようだわ、コニー」

「あ、ありがとうございます!」


 ヴィオレッタの側まで行くと、鏡が用意されており再度自分の姿を眺める。



―――すごい、こんなドレス着たことない! 私、今、どっからどう見ても……お姫様だ!



 コニーの鏡に映る姿は、どこからどう見ても絵本のお姫様のようであった。

 ともに鏡に映るヴィオレッタと同じくらい、お姫様に見える。



―――私、ヴィオレッタ様と同じくらい可愛いわ!



 頬を赤らめ興奮気味に鏡を見ているコニーに、ヴィオレッタ笑いかけた。


「本当に可愛いわ、コニー。こう見ると私たち姉妹のようじゃないかしら?」

「そ、そうでしょうか……」

「ええ。それにあなたのおじい様が考案した髪飾りもとても似合ってる」


 照れながらコニーはドレスの裾をぎゅっと握りしめた。その仕草に気付いたヴィオレッタはコニーの手の上に己の手を重ねた。


「ヴィオレッタ様、コニー様、そろそろお時間のようです」

「あ、はい! あのドレスは……」

「全て謝罪の気持ちだから受け取ってちょうだい。お洋服は帰りに渡すわね」

「でも……あの、ほんとにありがとう、ございます……」


 ヴィオレッタとともにコニーが大広間へ向かうと、鬼の形相をした父親がコニーの方へ早足で向かってきているのが見えた。コニーはその表情を見た瞬間、ヴィオレッタの腕に触れた。



―――あ、忘れてた……お父さん、怒ってるっ!



 そう、コニーが思ったのも束の間だった。コニーの横にヴィオレッタがいることに気付くと、一瞬で表情を変えてヘラヘラと笑みを浮かべ速度を緩め歩み寄って来た。


「これはこれは……ヴィオレッタお嬢様ではありませんか! コニーがなにかしでかしましたか?」

「ジギタス男爵、ごきげんよう。私がコニーのドレスを汚してしまったから、私と一緒に少し席を外していましたの」

「なんと……! 娘がお嬢様にご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「いいえ、私のせいなの。汚してしまったドレスの代わりに、コニーには私のドレスを着ていただきました。ですので、どうかコニーを叱らないであげてください」

「まさか! 叱るなどそんなことは致しません。寛大なお嬢様のお心遣い、ありがとうございます」


 ヴィオレッタはにこりと笑うと、コニーに目をやる。そしてコニーのボロボロの手を握った。


「コニー、また会いましょうね」

「は、はい……ヴィオレッタお嬢様」


 ドレスの裾を持ち上げ、同じ年とは思えないほど優雅に挨拶をするヴィオレッタの美しさに、コニーは憧憬の念を抱いた。


 ヴィオレッタはサーラとベラを連れて、その場を後にした。父が横で何かを言っているが、コニーにはその声は耳に入ってこなかった。



―――とても、すてき。絵本の中から出て来たみたい……ううん、ドレスだけがすてきなわけじゃない。おきれいで、優しくて……私もヴィオレッタお嬢様のようになりたい。



 この時のコニーの気持ちは偽りではなかった。



 公爵夫妻の前に出て、両親と三人でコニーは挨拶をした。


「コニー嬢だね。とても聡明だそうじゃないか」

「そうねえ、それにとても可愛らしい子だわ」

「……あ、ありがとうございます」


 公爵夫妻は薄い笑みを浮かべ、コニーと両親を見つめていた。そしてコニーもまた公爵夫妻をジッと見返した。


「公爵閣下、公爵夫人、私たちの娘が先ほどヴィオレッタお嬢様にお世話になりまして……そのお礼を……」

「世話に……?」

「は、はい! どうやら、二人で色々と話をしていたようで、とても有意義だったとヴィオレッタお嬢様から聞きました」

「二人で……ああ、そういうことか。どうりで」

「どうりで?」

「ええ、そうなの、男爵。他の子たちのお話相手をヴィオレッタにはさせようと思っていましたの」

「そ、それは……その、コ、コニーが……」

「ああ、気にしないでちょうだい。あの子、困っている子を助けることが好きなんですもの」

「男爵、妻の言う通りだ。気にしないでくれ」

「は、はい」


 そのを話が出てから会話が弾むことはなく、すぐにコニーたちの挨拶は終わった。

 しどろもどろになりながら最後の挨拶をして去っていく両親に、コニーもまた意味も分からずに頭を下げると両親の後を追いかけた。


「ああ……あいつのせいで……」

「まあまあ、あなた。ここは落ち着きましょう。終わるまでお食事をして……あら、美味しいわ、これ。持って帰れるかしら」

「聞いてみるか、まだこんなに余ってるんだからな」


 大広間へ戻るとコニーを嘲笑していた子息令嬢たちが、再びコニーに目を向けていた。その瞳には先ほどの嘲笑の色はなく、驚きだけが浮かんでいた。



―――私のこと見てる! だって、今の私かわいいドレスを着ているもん。お姫様みたいでしょ! 私だってこんなドレス着たら、あなたたちよりかわいいんだから!


 コニーは子息令嬢たちに視線を向けて笑みを浮かべ、胸を張った。


「そうだ、違う……あんな子たちどうでもいいもん、私はヴィオレッタお嬢様とお話ししたいの……」


 憧れのヴィオレッタを探すという目的を思い出し、コニーは周囲を見渡すと人だかりができているところに目が行った。


 そこにヴィオレッタはいた。


 公爵夫妻と一緒におり、華やかな貴族たちに囲まれていた。ヴィオレッタの周りには、コニーのことを嘲笑した令嬢たちも、仲良くなりたいという雰囲気で遠巻きに集まっている。



―――もう一度、ヴィオレッタお嬢様と話したいのに。私、さっきちゃんとお礼を言えなかった。



 だが、あの場所にいく勇気はコニーにはなかった。


 両親が両手に多くの荷物を持ち出口に向かい始めたため、コニーはヴィオレッタと話すことを諦め、その場を後にした。


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