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公爵令嬢は愛人となり、いずれは母となる  作者: 白根 ぎぃ


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22、コニーとヴィオレッタ




 薄紫色の長い髪は癖もなく、その髪を飾る装飾品は数多くの宝石で輝いている。



―――さっきの子たちとは全然違う……。



「?」


 コニーを見ている翡翠色の瞳は不思議そうにしている。

 大きくくっきりとした双眸は髪と同じ色のまつ毛に縁どられ、薄い唇は桃色に艶めいていた。


 顔から視線を下へ向けると、少女の着ている服こそが本当のドレスなのだと、コニーは気付いた。



―――私のこれはただのワンピース、本当にただのワンピースでこんなとこに……はずかしい……。



 そう思った瞬間、恥ずかしさのあまり手が震えた。皿の上に山盛りに載せられていたケーキの一つがコロリと転がり落ちて、コニーのワンピースにべったりとクリームの線を残した。


「あっ」

「ごめんなさい、私が突然話しかけたから……もう、お父様にご挨拶は終わった?」

「……」


 コニーは涙をこらえながら首を横に振る。

 『お父様』が誰を意味しているのか、分からなかった。しかし、ここに来て誰とも挨拶をしていないのだから、誰とも挨拶はしていないことに間違いはなかった。


「そう、泣かないで。ねえ、ベラ、サーラ。この子にドレスを用意してあげて。私のせいでこんなことになったのだもの」

「かしこまりました。お嬢様はジギタス男爵家のコニー様でいらっしゃいますね」

「は、い」


 自己紹介もしていないのに、なぜ名前を知っているのだろうと不思議に思う。その純粋な表情に応えるように一人の侍女が微笑みかける。


「コニー様、こちらへ。まだ順番は回ってこないでしょうが、急ぎましょう」

「サーラ、私も行っていい? コニーの服を一緒に選んであげたいわ」

「まあ、お嬢様ったら……では内緒ですよ」


 コニーは訳も分からず、屋敷の中に入っていった。天井も窓も飾られている美術品のすべてが見たことのないものばかりだった。



―――『()()()』、そう呼ばれるだけの人物なのだ。自分とは違う、本当のお姫様……。



 サーラと呼ばれた人物に着いて歩く中、お姫様のような少女が声をかけてくる。


「私はヴィオレッタ。ヴィオレッタ・ナイトシード。あなたのお名前を教えてくれる?」


 その名前を聞いてきたが、恐らくこの少女は知っているのだろう。話すきっかけとして、名乗らせようとしているのだと思った。この少女がある意味で本当のお姫様だということに気付いた。


 コニーは街で生活をしていて、恥ずかしいという気持ちを今まで感じたことはなかったが、同じ貴族であってもここまで違うのだという感情が胸の中に芽生えた。


 容姿ではなく、立っている姿、話し方、作法。

 全てが今のコニーには持ち得ないものだった。


「コニー……ジギタス男爵家のコニーともうします」

「お顔も可愛いけれど、声も可愛いわ! 私のことはヴィオレッタと呼んで」

「え、あ、はい……私のこともコニーと……」

「ありがとう。コニー、着いたわ。ここが衣装室よ。コニーに似合う可愛らしいドレスを選びましょうね」


 ヴィオレッタは楽しそうに笑い、コニーの手を引いて侍女が明けた扉の中へと足を踏み入れた。


 その部屋にあるもの全てが、コニーには宝のように見えた。

 四方には様々な衣装や装飾品が用意されて並べられていた。子供用のドレス、髪飾り、宝石。呆けて眺めていると、ヴィオレッタと目が合う。


 自分のようなものが触れていいのかも分からず、手も伸ばせない。


「好きなものはあるかしら? コニーは可愛い顔をしているし、あなたのお祖父様に似たその赤い色の髪も美しいから今着ているワンピースと同じような薄緑のドレスはどうかしら」

「おじいさ……まを知っているの、ですか」

「ええ、もちろんよ! お会いしたことはないけど、様々なものに価値を生み出す天才だったと聞いてるわ。見向きもされないような石を加工して商品に、美しいガラスの入れ物を開発したりと素晴らしかったらしいの、ねえ、ベラ、サーラ!」


 少し興奮気味に話すヴィオレッタに、コニーは目を丸くした。


「はい。こちらの髪飾りの細工も先代男爵様がお考えになられたものです。この色が変わる部分に宝石を埋め込み飾りにするなど、素晴らしいものですわ」

「ベラ、その髪飾りでコニーの髪を整えるのはどうかしら?」

「で、でもそんな高そうなもの私には似合いません……!」


 慌てて首を振るコニーにヴィオレッタは微笑んだ。


「私があなたを驚かせたのが悪いんだもの。謝罪の気持ちだと思ってちょうだい。それに……コニーのお父様とお母様が汚れたお洋服を見て怒ってしまうかもしれないから、私のせいにしてちょうだい」

「あっ」



―――確かに、ただでさえこんな質素なワンピースで叩かれちゃったから……挨拶前に服を汚したのが知られると、叩かれるだけじゃすまないかもしれない……。



 コニーは頷いた。うるりと涙をためた目で少しだけ背の高いヴィオレッタを見上げた。


「あ、あああ、ありがとうございます、ヴィオレッタお嬢様」

「お礼を言うのはこちらよ! 私、同年代の子と話すのは久しぶりで嬉しいの。コニーのような可愛い子にこの中のドレスを着てもらえるのは嬉しいわ」

「ありがとうございます」

「気に入るのがあれば言ってね」


 ヴィオレッタと一緒にドレスを見て回ると、すぐに気に入るドレスがあった。ふんだんに使われた薄緑色の生地は、今着ているワンピースと同じようであったが質感も手触りもなにもかもが違うものだった。



―――すごい、全然違う! こんなにさらさらした生地の服は着たことないわ。



 恐る恐る触れた感触は柔らかく滑らかなものだった。今着ている服も、普段着ている服もごわついた生地である。本当の貴族という違いを自然と分からせられてしまう。


「そのドレスが気に入ったのかしら?」

「はい、とても……きれいで」

「きっと似合うわ。この生地は我が家の領地特産なの! 嬉しいわ。ベラ、このドレスでお願い」

「はい、お嬢様。では、整えさせていただきますね」

「お嬢様はあちらでお待ちくださいませ」

「ええ、楽しみにしているわ。コニー、また後でね」


 あっという間だった。


 素早い手つきで着替えさせられる。ピッタリとまではいかないが、浮いてしまう部分には二人が小物を付けて合わせてくれる。そして香りのよいオイルで髪を整えられ、最後には先ほど言っていたガラスと宝石の合わさった髪留めを付けられた。


「できました、コニーお嬢様。ご確認を」

「……はい。わっ」



―――これが、私……? うそ、本当にお姫様みたい! 絵本の中から飛び出したようだわ……。



 掛けられている鏡に映る自身の姿にコニーは驚いた。

 ただのワンピースから豪華なドレスに変わり、母親がしてくれたはたかれただけの白粉はとられ、薄化粧が施されていた。


 高価なオイルの香りに、着心地の良いドレス。髪飾りは光の反射で様々な色に変わり、その存在を示していた。コニーの美しい赤い色の髪に華やかさを出していた。


 全ての物を欲しいと思ってしまった。

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