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公爵令嬢は愛人となり、いずれは母となる  作者: 白根 ぎぃ


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20/33

20、コニーという少女



 カルミアはナイトシード公爵家の養女だった。


 元の実家はナイトシード公爵家の遠縁で――それもかなり昔の分家で、今は全くと言っていいほど交流はない――領地も持たない、名ばかりの貧乏男爵家だった。


 父は王宮の事務官で、母は王宮に出入りしている商人の娘で、父方の祖父の紹介で出会った。男爵家も祖父の代までは領地がなくとも、祖父の商才のおかげでかなり裕福であったと聞くが今は見る影もない。

 けれど、祖父と祖母が相次いで亡くなると、ただの事務官だった父はギャンブルに酒、母は酒と散財で祖父母の残した遺産はすぐになくなり、あっという間に貧乏生活になった。



 そんな時に生まれたのが、カルミアだった。

 当時の名前はコニーと名付けられた。



 5歳くらいまでコニーは外に出ることも許されず、ただ部屋の中で両親の帰りを待ち、二人の食べ残しを食べて生活していた。


 ただ、年を重ねるごとにコニーは―痩せ細っていても―愛らしい女の子に育った。両親はその外見を利用して、『産んでやったのだから、自分の食い扶持は自分で稼げ』と冷たく言い放った。


 食事も満足にできず、教育も与えられず、欲に溺れた両親は幼い少女の将来を楽しみにしていた。しかし、幼い少女が物乞いのようなことをさせられていたため、憐れんだ周囲の人々がコニーのためにと、少しばかりの食事や使わなくなった本、服などを分け与えてくれた。


「こんな可愛い女の子をほったらかしにするなんてなんて親だい」

「コニー、夜遅くで歩いてはだめだよ。あんたは可愛いのだから、攫われちまうよ」

「うん?」


 言われていることの意味はほとんど分かっていなかったが、コニーは首を横に傾け笑う。

 両親には似ずに、父方の祖父に似たくすんだ赤い色の髪に、色白と言えば聞こえはいいが、青白い肌をした少女はこの時に自分の愛らしさを学んだ。



―――わたしはかわいいんだわ。



 そんな時だった。七歳を迎える年の出来事である。


「コニー、ナイトシード公爵家で縁者を集めた祝いがある。お前も行くから服を借りておけ。いいか、できるだけ高そうに見えるようなドレスだぞ」

「いいかい? 男爵家とは言え私たちは貴族なの。立派なドレスを借りなきゃ駄目だからね」

「……は、はい」

「借りれなかったら、お前は連れて行かんからな」

「…………」


 コニーは近所の家を回り、ドレスを貸してくれないかと話す。

 だが、ドレスなど平民が持っているわけもなく、貸せるはずもない。ましてや、コニーが住んでいる地区は裕福な平民もいないような場所だったのだ。


「ドレスをかしてほしい……お父さんとお母さんがかりて来いって……」

「ドレスだって? そんなものこんなところにあるわけがないだろう! 相変わらずあんたの親は馬鹿げたことを言うねえ」


 古ぼけた絵本の中で見るようなドレスしか見たことのないコニーにとって、それが現実的にどのようなものなのかは分からない。コニーは一生懸命にドレスを貸してほしいとお願いするが、周囲は『そんなものを持っている平民はここにはいない』と優しく教えた。


 一人の老婆がコニーを呼んだ。


「コニー、こちらへおいで」

「おばあさん……うん」

「これはうちの孫娘の着なくなったものだけど、持っていきなさい。いつもあんたが来ているそのボロよりもドレスのようにきれいだよ」

「わあ! ほんとね、すごくきれい! おばあさん、ありがと」


 辿々しい言葉に老婆は頷いた。

 薄緑の飾り気のないワンピース。しかし、いつも擦り切れ、汚れの目立つ服を着ていたコニーには、それがドレスのように綺麗な服に思えたのだ。



―――これならお父さんもお母さんも、ゆるしてくれるわ!



 家に帰るとすでに両親は戻ってきており、コニー抜きで夕食をとっていた。

 コニーは老婆から貰った薄緑色のワンピースを両親に見せると、父親は静かに手を上げた。コニーは撫でてもらえる、褒めてもらえると思っていたが、その手はコニーの頬を強く叩いた。


 頭がガクリと揺れて、視界がぼやける。

 あまりの衝撃に、コニーには何が起こったのかも分からなかった。


「お前は馬鹿か! こんなただのワンピースをドレスなどと騙されやがって! 公爵家に行くんだぞ! ほかの奴らはもっといいものを着ているに決まっているだろうが! お前はものの意味も価値も分からん出来損ないだな!」

「ご、ご、ごめ……なさ……」

「あなた、いいわよ、これで。道中にこの子が転んで汚してしまったから、仕方なくこの服を着せたってことにしましょう。私たちの服はあるんだし、問題ないわ」

「チッ……役立たずが。気分が悪い、酒を飲みに行くぞ」

「ええ。コニーあんたが悪いのよ、あんたがお父様を怒らせたの。今日はご飯抜きで、反省なさい」

「は、い……ごめんなさい」



 コニーは何が悪かったのか分からなかった。

 その晩は床に敷かれただけの布にくるまって、一人で泣きながら寝た。

 両親が帰ってくることはなかった。


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