第三十一話 記憶の面影 2
「変わってないねぇ!」
スーパーに入って一声。
変わらないレイアウトの店内を感嘆の声で見渡す。
本当に変わってない。
入ってすぐ右手側に並ぶレジ。真っすぐ行った先に野菜売り場。
コーナー曲がって鮮魚コーナー、精肉コーナー。真ん中の棚に調味料とかお菓子とか。
「あそこのお菓子売り場でよく駄々こねてたよな」
「陸が?」
「ちげぇよ、空が」
「えぇーっ?! 私そんなことしてないよ?!」
思い出話に咲かす花。
カートを引くのは海がしている。
祖父母は更に背後をついてきている。ちょっと振り向いたらニコニコしてた。
女三人寄ると姦し。
そんな言葉があるけど、男が交じっていても喧しいことはある。うん。
横を通り過ぎる見知らぬおばちゃんが、強めの咳払いをして、すみませんー。なんて言いながら、三人そろって小さくなった。
「怒られちゃった」
「空の声がデカすぎ」
「ごめん」
「ねぇ、僕巻き込まれただけなんだけど」
ヒソヒソ話しながら野菜売り場を進んでいく。
「今日何作るの?」
「うーん……。カレーとか」
「やったぁ」
ニンジン、ジャガイモ、タマネギとトマトと……。
「海」
「何、陸」
「ピーマンだけはやめてくれ」
「はっ」
わかりやすく鼻で笑った海が、容赦なくピーマンを籠の中に入れた。
「あ゛ああっ?!」
陸からは絶望の声が聞こえてきた。哀れ。
「ナスも入れて夏野菜カレーするぞ」
「ヴヴヴ」
陸が唸っている。
嫌いなものでもちゃんと食べるのは偉いと思うよ、私。
「トウモロコシも入れる?」
「……トウモロコシ?」
緑色の葉っぱに包まれた、黄色のつぶつぶが見えたから聞いてみた。
海は訝しんだ。
「美味しそうじゃない?」
しばらく考える海。やがて、私の両肩に手を置いて、生暖かい笑みでゆっくり首を振った。
「美味しいかもしれないけど、今日はやめておこう」
芯の処理が面倒臭い。
海の言う面倒臭いの意味が分からなかったけど、料理のできない私は、できる海の苦悩に口は出さない。
その面倒臭さが分からないから、せめて海のやりやすいようにやってもらいたい。
「わかったー」
だから了承と答えると、海は心底安心したような顔をした。
そんなに面倒臭い工程なんだ、トウモロコシの芯。
「海ー」
「なんだ陸」
「チョコ入れるか?」
「入れない。返してこい」
ちぇーっ。て、口を尖らせて、手に持った板チョコを返しに行く陸。子供みたい。
「肉行くぞ、肉」
「おー。何肉?」
「豚だろ。塊肉買っていって分厚く切って入れる」
「やったぁ」
やったぁ。
陸と二人、手を取って喜んでいると、海が噴き出して笑った。
「子供みたいだな、お前ら」
「む。それは陸の方でしょ?」
「は?! 空のほうが子供っぽいって!」
「僕から見れば両方子供だよ」
噴き出し笑いを呆れに包んで、海が先導する。
鮮魚コーナーをスルーして精肉コーナーに行く途中。
「……あれ? もしかして、眞鳥さん?」
見たことのある気がする背中が、刺身をじっと見比べていた。
その背中はこちらに振り向き、みるみるうちに驚愕の表情を浮かべた。
「空ちゃん?!」
「眞鳥さんだー! 久し振りー!!」
「本当に久しぶり! え? 今、何してるの?」
キャッキャと手を取り合い再会を喜んでいると、背中に重量感。
「陸も! 海君も久しぶりー!」
「よー、遥。元気してたかー?」
「元気だよー! みんなはこっちで何処かに進んだの?」
「いや、帰省」
呑気に会話をしている眞鳥さんと陸。
私は一言物申したい。
「私の……」
ぐぐぐ、と背中に力を入れる。
「私の背中で喋るな陸ー!」
弾き飛ばすように大きく起き上がる。
何かを察知したのか、起き上がる前に背中は一気に軽くなった。
「あはははっ。相変わらずだね、二人とも」
眞鳥さんが笑う。
ふーふー吐息で威嚇していたのが、それだけでどうでもよくなった。
眞鳥さんはまた一段と美人さんになっていて、笑い方ひとつ取っても華があった。
メイクの使い方もとても上手くて、都会の香りがする女性に変身を遂げていた。
彼女は一頻り笑うと、落ち着いた笑みを浮かべて問いかける。
「みんな知ってるかな。今週の土曜日にお祭りがあるの」
「お祭り? 二人とも知ってる?」
「いや、僕は知らない。陸は?」
「俺もちょっと……」
地元について情報収集を怠っていたツケが回ってきた。
三人揃って首を傾げていると、彼女はチラシを一枚手渡してくる。
「駅で渡されたやつ、あげる」
花火の写真が大きく写ったポスターに、お祭りの名前がプリントされている。
「あ、最寄りから五駅向こうでやるんだ」
受け取った私が言うと、眞鳥さんはこっくり頷く。
「あたしの実家が近いの。……良かったらみんなで、遊びに行かない?」
私たちは顔を見合わせる。
「土曜日って何もなかったよね」
って、私。
「うん。今から予定を入れなければ」
そう、海。
「なら行けるな。俺、焼きそば食いたい」
リクエストを、陸。
「おじいちゃん、おばあちゃん。土曜日行ってきていい?」
「構わないわよ。楽しんでらっしゃい」
「確か使ってない浴衣があったよな? 着ていくか?」
乗り気な保護者。
「……ってことだから、ぜひいっしょに行かせて!」
まとめた回答を伝えると、返ってきたのはいい笑顔。
「うん。待ってるね」
夏休みの予定がひとつ埋まって、私もにんまり、笑い返した。




