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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘2〙郷里、夏にて
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第二十八話 帰郷 1

「スーツケースよし、部屋の鍵よし、お土産よし」


 部屋に置いてある荷物を指差しで確認する。

抜けも漏れも一つもない。……はず。よし。


「なーつちゃん。荷物確認は終わったかい?」

「はい。待っていてくれてありがとうございます」

「いいってことよぉ。ほいじゃ、鍵閉めるねん」


 荷物を手に手に、部屋を出る。

部屋の責任者でもある瑪瑙先輩は、最後戸締まりを確認してから部屋の鍵を閉めた。


「んじゃ、ウチは寮長に報告してから行くからぁ」

「分かりました。いいバカンスを」

「んはは。夏ちゃんもねん」


 部屋の前で手を振り合い、先輩は寮長室へ、私は玄関口へ。


「あ、あまね先輩……」


 スーツケースを押して歩む道中、あまね先輩の背中を見かけた。

彼女の名前を呼ぶと、不意に振り返り、目が合う。


「……空ちゃん」

「えっと……」

「……実家? 帰るの」

「は、はい。祖父母の方に」

「そう。楽しんでね」


 あまね先輩との距離感は、まだ微妙なまま。

言葉少なに交わしたあと、あまね先輩から離れて歩いた。


 寮から出て校庭へ向かうと、もう既にたくさんの生徒が集っている。

 ……たくさんの、と言うには数が減りすぎている気もするが。

あの戦闘試験で脱落した半数に加え、日常の中で更に減った気がする。

 全ての人の顔や名前を覚えているわけではないけれど、よく食堂で見かける女の子の顔が見当たらないことに寂しさを覚えた。


(毎日アセロラジュース飲んでいたから、すごく印象に残ってるんだよね)


 ほんの少しの感傷に浸っていると、背後から殴打。

 挨拶程度に叩かれたの勢いではない。ど突かれた。


「っだぁ?!」


 誰だ犯人は。

背骨が折れたと錯覚するほどの痛みに、涙を浮かべながら振り返る。


「やあ。空さんもこっちのバス?」

「荒太先輩。……と」

「なにボケっとしてんだよ。向こうにお前の兄貴たちいたんだけど?」


 ど突いた犯人、日向先輩。


「あっち……って」

「ん」


 指差しで示された方向は、真逆。

こっちは北向き行きのバス。あっちは東向き行きのバス。


 間違えた。

このまま行ってたら北の方に行っていた。


「間違えました」

「だろうな」


 日向先輩の呆れたため息。

間違えたのは私だから言い返すこともできない。悔しい。


「お二人、一緒の方角なんですね」

「たまたまだよ」

「たまたま?」


 荒太先輩の言葉に首を傾げる。

面倒臭そうな日向先輩。以前よりも金髪が広がっている頭を掻いた。


「実家帰っても歓迎はされないだろうしなぁ。だったら、夏季休暇使って旅でもしてやろーと思ってよ」

「で、最初はオレの実家の方角に来るってことになったんだよね」


 苦笑い気味の荒太先輩。


「確か荒太先輩のご実家は」

「あ、瑪瑙から何か聞いた?」


 コクリと首肯。

彼は極めて穏やかに、そうだよ。と言う。


「オレの実家、ここからうんと北の方で農家やってるんだよ」

「牛とか育てているんですよね」

「そうそう。まー、牛は大体余す所なく資金源になり得るから、肉は滅多に自分たちで消費することはないんだけどね」

「そうなんですか」

「だから、オレは夏季休暇中はずっと家の手伝いかな。日向にも手伝ってもらうからな」

「あ? 面倒くせー」


 面倒臭いと言う割に、絶対やらないと言わない辺り、律儀と言うかなんというか。


「じゃ、オレたちそろそろ行くから」

「精々束の間の休暇、楽しめよぉ」

「ありがとうございます。先輩方も、いいバカンスを」


 二人に手を降って、東行きのバスへ駆けていく。


「やっと来たな」

「空、遅い」


 東の人たちが屯する中、一際目立つ私の兄たち。

まっしぐらに向かうと、安堵のため息とともに迎え入れられる。


「ごめん、お待たせ」

「何してたんだよ」


 私のスーツケースを受け取り、バスの下部、荷物入れに放り込んできた陸が聞く。


「北の方行ってた」

「何してるの」


 海から薄目で見られた。

多分これは呆れてる。


「間違えたの」

「いや、デカデカと文字書いてたよね?」


 あれ。と海が指さすバスの運転席。

大きく、『東行き』と書かれている。


「……気付かなかったの」


 正論に不貞腐れた。

二人は小さく鼻で笑う。

仕草がそっくりな兄たちに挟まれて、私はバスの中へ行く。


「今度は吐くなよ」

「何年前の話よ」


 未だに林間学校の話を擦られる。

大丈夫。対策はしているから。


「……それは?」


 取り出した袋を見て、海が訝しむ。

私は自信満々に言った。


「ゲロ対策セット」


 尚、中身は大量の袋。

これで吐いても誰も汚れない。


 胸を張って言うと、隣に座る海から錠剤と水と、あとアイマスクを渡された。


「はい、これ飲んで」

「なにこれ」

「酔い止め」


 さっさと飲む。と口に突っ込まれる錠剤。

次いで水。噎せそうになった。ひどい。


「んで、これ」

「アイマスク」

「着けて目的地まで寝てて」

「え、ひどい」


 私の車酔い対策に対する信用がない。

絶対車酔いするって別の信頼はある。ひどい。


「いいから寝てろ」

「ぷぎゃ」


 強制的に被せられるアイマスク。

海め。見積もりが甘かったな。

いくら私でも、視界が暗くなったからって、すぐに寝ることができるとは限らな。


「ぐぅ」

「寝付きいいなコイツ」


 おやすみなさい。

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