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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘1.5〙夏休み 前日譚
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第二十三話 甘い誘惑に毒は隠れ 2

 ほんとにほんとにごめんねぇ!

そんな瑪瑙先輩の声で寝ぼけ眼を叩き起こされた今朝。


 今日は私にとって勝負の日。

決してポジティブな意味ではないけれど。


 ついこの間、お昼ご飯を、瑪瑙先輩含む兄妹で食べようと思って教室に迎えに行った時。

 陸に会いに来たと言っていた翠先輩と、瑪瑙先輩が一触即発のお話し合いをしている横で、早くお昼ご飯食べたいなーとか呑気に考えていたら、いつの間にか決まっていた翠先輩とのデート。


 何故。

疑問に疑問を重ねて固まることしかできなかった私に二人がしてくれた説明は、ジャンケンをして勝ったほうが、次の休日、私とお出かけをする権利を得る、というもの。


 人のプライベートを勝手に景品にするんじゃない。


 あの時は大真面目に説教をした。

先輩だろうと関係ない。

説教の間、しょんぼり項垂れていた瑪瑙先輩と対照的に、翠先輩はどこか楽しそうにしていたのが印象に残っている。


 結局、賭けは賭けと言い包められ、休日の一日昼間だけならという条件で、渋々その賭け事の結果を飲んだ。


 大欠伸をひとつかまして、洗面台に行き洗顔をする。

歯も磨いて、ようやく視界がはっきりしそうになってきたかな。

そんな時、鏡を見て歯磨き粉を飲みそうになった。慌てて吐き出した。噎せた。


「は?!」


 どこから侵入してきたのか、兄二人が部屋に入ってきて目玉が飛び出しそうになった。

曰く、身嗜みを手伝いに来たとのことだけど。


「ここ、女子寮だけど?!」


 思わず叫んだ。

瑪瑙先輩は何をしているのか。


 よくよく見ると、鏡のうんと奥の方。

テヘペロと舌を出す、お茶目顔を作る瑪瑙先輩が見えた。

手引きした犯人は貴方か。


 うがいをして、口の中の歯磨き粉を全て外に排出する。

続け様に振り返る。

いた。幻覚じゃなかった。


「……ここ、女子寮だけど」


 もう一回言った。

大事なことなので、もう一回。


 どこから入ってきたんだと胡乱な視線を向けると、二人揃って窓の方へ視線をやるものだから。


「登ってきたの?!」

「おう!」

「おう! じゃないのよ、このゴリラ!」


 長兄()、すっごくいい笑顔。


「ん。これ」


 次兄()、紙袋を突き出してきた。


「……なにこれ」

「今日の服」


 端的に伝えられた紙袋の中身をズルリと取り出してみる。


「……なにこれ」


 同じ文句が違うニュアンスに。


 出てきた服は、原色の組み合わせ。

明るい✕明るいで目が痛い。

しかも肩パッド入り。スカートはタイト。

かなり古い、バブル時代のボディコンスーツを連想する服装で、一言で言えば。


「ダサい」


 逆にこの服どうやって仕入れてきたんだろう。

これ以上ない疑問を抱え、二人に振り返る。


「これ、選んだのどっち?」

「俺!」

「陸」

「センスなさすぎ」


 呆れてものも言えないとはこういうこと。

文句はちゃんと言うけれど。


「もらった以上は着てみるけどさぁ」

「あ、着るんだ」

「なんだと」


 意外と言いたげな海の呟きを拾い、思わず口を出してしまった。


 洗面台の扉を閉めて、その中で着てみるけれど。


「……これ、ぶっちゃけどう思う?」


 みんなの目の前に出た瞬間、瑪瑙先輩が笑い潰れた。


「あははははははははははっ!! 夏ちゃ、夏ちゃん、似合いすぎ!!」

「化粧濃くしたら確実にその時代の人にしか見えないな」

「なんで似合うんだよ」


 笑い転げる瑪瑙先輩。

冷静に分析する海。

呆れる陸。


「ふむ……。くせ毛がソバージュっぽく見えるのか」

「ヒーッ! 夏ちゃんもうやめてぇ!!」


 自分の髪が意外と服装とマッチしていて、私は自己分析を口に出した。

それが瑪瑙先輩のツボに入ったらしく、いつまで経っても笑いの渦から戻って来ない。


「……しもしもー?」


 試しに携帯を耳に当てる素振りをしながら、その言葉を呟いてみたら、瑪瑙先輩のチョップが脳天に入った。痛い。


「はーっ、はー……っ! ……ようやく収まった」


 私が元の服装に着替えて戻ると、ちょうど瑪瑙先輩が回復した頃だった。


「お兄ちゃんたち」

「ハイ」

「あの服、禁止で」

「ウッス」


 陸と海は、瑪瑙先輩の圧に負けていた。

私も正直、あの服を着て出かけるのは嫌だ。嫌すぎる。

似合っていても浮く。確実に周りから変人奇人の類を見る目で見られる。嫌すぎる。


「なんであんなセンスのかけらもないネタ服持ってきちゃったの……」


 呆れてジト目。

バツの悪そうに視線を逸らす兄二人。


「……今日、翠先輩とデートの日って言ってたから……」


 口籠り、聴き取りづらい声で陸。

私は片眉を上げて彼に問う。


「それでどうしてあんなバブル時代みたいな派手な服を?」

「奇抜な服装なら、どんな美人でも百年の恋も冷めるし、隣歩きたくないだろ?」

「考えが短絡的。却下」


 バッサリ切って捨てるのは陸の意見。

呆れたため息は本日何度目。


「そんなまどろっこしい事しなくても、今日のデートやる気ないですって見せたいだけならさ、スッピンでこの服でー……」


 手櫛で適当に髪を梳き、白いTシャツ、ジーンズという、ラフにラフを重ねたファッションで目の前に出た私に、海が一言。


「なんでそれでサマになるんだ」

「美人てツライね」


 私はおどけてそう言った。

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