第十七話 宣戦密告
今日も今日とて先輩たちと宝を探しつつ、技術を叩き込まれる一日を送っていた。
試験が始まって六日が経過した。
つまり、明日生き残ることができれば、私たちのチームは脱落者を出すことなくクリアすることができる。
その矢先のことだった。
(この辺にあった気がしたんだけど……)
今日の拠点の付近で、宝箱を手分けして探している最中。
木の群れを挟んだ向こう側から、複数の話し声が聞こえてきた。
「ー! ー、ー? ー!!」
(誰?)
咄嗟に身を隠す。
こっそり様子を伺うと、どこかで見たことのある人たちが二人、何事かを話し合っている。
(あの人たち……。思い出した)
そうだ。
翠先輩のチームにいた二人だ。
陸ではない。黒って呼ばれていた人でもない。
あの、チラッと見かけただけの時には、名前も声も性格もわからなかった、翠先輩のチームメイト、残りの二人。
声質からして、二人とも男性。
彼らは隠れる私に気付かず、声を潜めることもなく話し続けている。
「……なあ、本当にいいのかな」
「バカ、お前、翠様の決定に逆らう気かよ」
「そんなつもりはないけどさ……。でも、おれたちのポイントは個人ポイントだけじゃないか。宝箱の捜索もさせてくれないし……」
「個人の順位を上げていけってお達しだったろ。……今年の一年は、運がなかったってことで」
私は訝しむ。
(今年の一年? ……あっちのチームだと、陸のこと?)
笑うというより嗤うが正しい鼻息を一人が吐く。
「翠様のお気に入りだかなんだか知らねぇけど、ずっと傍にいさせられて。あれじゃあ個人ポイントも稼げてないだろ」
「チームポイントも無し。……アイツ、終わったな」
息を呑む。
まさか、陸がそんなことになっているなんて。
(陸が……退学になるかもしれない?)
翠先輩が陸を傍から離してくれないということは、先輩の行動に陸の命運が左右されてしまうということ。
先輩が、陸のポイントになる行動をしてくれていればいいと、強く願うばかり。
「で、今日はこの辺で野営か」
「不寝番は、昨日と同じく、おれ、お前、一年の順だな」
「ちょっと待て。お前、翠様の話を聞いていなかったのか?」
男の一人が素っ頓狂な声で、信じられないと言う。
「今日はひと晩、ずっと翠様が不寝番を行うと仰っていただろ?」
「翠様が?! いつも朝までぐっすり快眠なさっているのに?!」
「馬鹿野郎! 翠様は最終夜くらい、おれたちがぐっすり眠れるようにと御心遣いを下さっているんだぞ!」
「なるほど! さすがは翠様!」
まるで宗教のようと評価した私の感覚は間違っていなかった。
この二人の男性は翠先輩を信仰対象のように崇めている節がある。
「じゃ、おれは食料探してくる」
「ならここでテントでも張っておこう」
彼らはどうやら、ここで別行動を取るらしい。
一人が木の陰に姿を消した後、無防備に背中を晒す男性を見て、ふと。
(今なら、気付かれない)
背後からダンっと一発。
それで仕留められる。
幸いこちらには気付いていないし、ちょうどよく一人、他所に消えたところだ。
私は腰に下がるハンドガンにそっと手を重ねた。
「誰だ?」
瞬間。
完全無防備に背中を晒していたはずの彼が、突然振り向いてきた。
(!!)
ビックリした。
出そうになった息を堪える。
「……誰もいないな?」
彼はこちらへ来ることも無く、再び作業に戻っていく。
(ビックリした)
まさか、音を立ててないのに、気取られるとは思わなかった。
なるほど。一年次の生き残りというわけだ。
私がほんの少しの隙を見たからといって、簡単に倒せる相手ではない。
(二年次は化け物ばかりか)
そっと銃から手を放し、隙を伺いながらこっそりその場を離れた。
抜き足差し足忍び足。
音を立てないように距離を取っていた体は、彼らが見えなくなってしばらく。
段々、段々急ぐように速度が上がっていく。
「夏ちゃぁん。どしたん? そんなに急いでどこへ行くん?」
「瑪瑙先輩!」
「おぉん? どしたん? どしたん? 瑪瑙先輩やでぇ」
「今日の夜、犬飼翠先輩は、ひと晩中不寝番を行うそうです」
飛び込む勢いで彼女の目の前に転がり出た私。
勢いに驚いた様子の瑪瑙先輩は、その目を大きく見開いて私の身体を支えた。
そこに飛び出した、私の情報。
先輩の動きが固まった。
「……どこ情報?」
「さっき、ここから南西の方向に一キロ先。そこで犬飼翠先輩のチームの人が話しているのが聞こえてきました」
私はさっき聞いたことを全て瑪瑙先輩に語って聞かせる。
その周辺で拠点を作ること。
翠先輩が今晩、ひと晩中不寝番を行うこと。
「夏ちゃん。カッコウくんのチームとエンカウントしすぎじゃないかぃ?」
「私もそう思います」
妙に多いエンカ率。
肩をガックリ落とすと、忍び笑い。
「つまり、彼の気を私が引けば、隙が生まれるはずです」
笑いを誘った私。
目の前の瑪瑙先輩の手を持ち上げ握る。
「チャンスです。先輩」
彼女の目を見る。
映る私の顔は興奮に上気する。
「犬飼翠先輩を、一発、ぶん殴ってやりましょう」
瑪瑙先輩は、コクリ力強く頷いた。
「……分かった。やろう」




