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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘1〙第一期戦闘試験
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第十六話 命を喰らう 3

 足音は立てない。

気配は殺す。

呼吸さえも、今は煩わしい。


 じっと待つ。

じっと、待つ。


 隣に潜む彼に動き。

緩慢な動作で気取られず、さりとてのろい動きでもなし。


 その瞬間を見極め。今。


「っし! 捕ったぞ!」


 驚いたような苦しんだような、小さな獣の鳴き声が目の前に。


 人力で縄を引き、獲物を捕らえる簡易罠。

成功率なんて然程高くないと思われたそれを、日向先輩はいとも容易く達成してしまった。


「一年」


 未だ暴れるソレを、日向先輩は掴んで突き出す。

私は彼と同じところを掴む。

逃さないように、力強く。


 生きるために暴れるソレを、私は地面へ押し付ける。

鋭く光るナイフを一閃。


「ごめんね」


 謝る私が映る真っ黒な宝石のような瞳の輝きが、ダクダク流れる血流と共に色を失っていった。


「……やったじゃん夏ちゃん!!」

「ぐぇ」


 背後から飛びかかられて、身体が前方に折れ曲がった拍子に腹部を圧迫する。

カエルの潰れた声が出た。


「どーよお花ちゃん。夏ちゃんの腕前はぁ?」


 ドヤ顔を浮かべて日向先輩を見る瑪瑙先輩。

釣られて彼を見る私の目の前で、ウサギを観察していた日向先輩は。


「絞めが甘い。十点」

「ゔぅゔ!」


 思わず威嚇しちゃった。

そんな私を鼻で笑い、彼はふい、と視線を背けた。


「昨日はゼロ点だった」

「ゔ?」


 威嚇の声で疑問の一音。

面白そうにニヤニヤ笑いながら、瑪瑙先輩がよく通る声で意味のない耳打ち。


「成長してるねって言ってんのよん」

「は」


 ツンデレすぎませんか?

日向先輩の意外な一面に言葉を失っていると、先輩の怒鳴り声。


「五月蝿ぇ瑪瑙! おい、一年!」

「はいっ?!」


 怒りの矛先か、突然の指名に咄嗟に背筋が伸びる。


「獣の捌き方教えてやる。来い!」

「〜〜っ!!」


 込み上がる、言いようのないムズムズ感。

叫びだしたくなる歓喜の波が胸に溜まって、堪らず走り出す。


「はいっ! よろしくお願いします!」


 日向先輩の背中を追ったその日から、私の周りが変化した。

 特に分かりやすい変化と言えば、先輩たちが様々な技を、事あるごとに教えてくれるようになった。


「空さん、罠の掛け方教えてあげようか?」

「は、はい! お願いします!」


 荒太先輩が罠の掛け方を教えてくれる時もあった。

原始的なものから、文明の利器に頼って作られるから、今は使えないものまで、様々な罠の種類を叩き込まれた。


 地面に仕込まれた縄罠に引っかかって、吊り上げられたこともあった。不覚。


「あの宝箱は開けられてる。あれは開けられてない。たまにこういう登りにくい木の上に……。ほら、あった」

「どうやって判別してるんですか? シールが貼ってるわけでもないのに」

「よーく見ると分かるんだよ。例えばあれは、ツマミタイプのカギが開いてるでしょ? そういうとこ」

「一瞬で判断するのきつすぎますって……」


 あまね先輩が宝箱の中身の有無を教えてくれることもあった。

先輩は、通りすがった横目で確認をしているという。

脅威の動体視力に驚愕。


「慣れればできる。がんばれ」


 ホントかなぁ?


「あの木の皮はダメだねん。硬くてさぁ……。あっ。この木の皮は比較的柔らかいのよん」

「木の皮……?」


 瑪瑙先輩は、木の皮の硬度を語り始めた。

かと思えば。


「何してるんですか?!」

「ん? 茹でてるんね」

「見れば分かります! 何を茹でてるんですか?!」

「木の皮」 

「木の皮ぁ?!」


 何故か木の皮を茹でていた。


「食べやすい木の皮を覚えておけばさぁ、お腹空いても飢えは凌げるじゃんのう?」


 ゆるーい口調でゆるーく笑って、ゆるーく口元に持ってこられたコレは全然緩くない。


「はい、あーん」

「ゔ」


 躊躇う姿勢を一瞬見せると、瑪瑙先輩は。


「おりゃ」


 無理矢理突っ込んできた。

口に。スプーンを。


 先輩たちが木を削って作ったスプーンから、きっと食べることを想定されていない物体が流し込まれる。


「ゔんぶぶぶぶぶ」

「ね。不味いよね」


 分かるぅ。なんて言う先輩の声はやっぱり緩い。

私のお口は緩くない。

硬いし。木の美味しくはない匂いが広がるし。ゴワゴワしてるし、命の危機を覚える味をしている。


 荒太先輩が動揺した風に手を挙げる。


「食えるのって一番内側じゃなかったか?」


 同意をするあまね先輩。


「外皮は消化できないんじゃ……」


 驚愕と何てものを食わせてくれてるんだという気持ちを込めて、私。


「ゔんぶ?!」


 キョトンとする瑪瑙先輩は相変わらずに。


「え? そーなの?」

「だめだコイツ胃袋までバケモンだ」


 日向先輩が打つ手無しとばかりに首を振った。


 無事かなぁ……。私の身体。


 日向先輩は、実はとても料理が上手いという事実を、瑪瑙先輩から聞かされた。

 だからなのか、料理当番の大半を日向先輩が、担うことが多いことに気が付いた。


 その発見があったその日、日向先輩が野営料理を教えてくれると言ってくれたのだけど……。


「ごらぁぁあぁぁぁっ! 一年いちねぇん!!」

「すみません!」

「んっでこうなるんだよ!! お前ちゃんと手順守ったか?!」

「すみません!!」


 料理の進捗を確認に来た瑪瑙先輩が、珍しくドン引きしている。


「わぁ。夏ちゃんが作ったお鍋が魔女のお薬みたいに……」

「もうてめぇは食材触るな!!」


 すごくキレてる日向先輩。


「す、す、す……」


 青筋立てて怒鳴り散らして、今にも血管切れてしまいそうな彼を前に。


「すいませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」


 私は全身全霊の土下座を披露した。

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