第七話 試験、開始まで 3
「だから、ウチらはなるたけ多くの宝を探していく、これが作戦」
「承知しました。……ちなみに、伺いたいのですが」
「はいよん。何でも聞いて?」
「模造武器で撃破って、どうやって判断すればよろしいでしょうか。動けると、いわゆるゾンビ作戦なども可能になってしまう気が……」
サバゲーを行うと聞いて、個人的に調べたことがいくつかある。ルールとかマナーとか、強ポジって言われる場所だとか。
そのうちのひとつに、ゾンビ行為があった。
ヒットをしたのにしていないと振る舞い、撃たれど撃たれど攻撃を行う、ルール違反。
私の疑念に、瑪瑙先輩はいい着眼点。と言った。
「この試験で、ゾンビ行為ができるくらいの気合の入ったフィジカルがあるのなら、教官も総合一位に躍り出るくらいのポイントをあげたい気持ちになるだろうよ」
意味が分からず首を傾げる。
瑪瑙先輩はニコリ、笑う。
「撃破の判断は、相手が動かなくなるまで。模造武器には特殊な加工がしてあってね。武器の攻撃が人体に届くと、電撃が走る」
「電撃?!」
「実際に死ぬほどじゃあないけどねん。だけど、相当痛い衝撃が流れるから、急所ならたいていは一発。そうでなくとも数発入れば、痺れて動けなくなるんよ」
倒れたら、負け。
なんてシンプルなルール。
加えて、ゲーム性と言える余裕のないほどの、戦場としての臨場感。
「まあ、そんでな、倒れた人間からは、コレ、剥ぎ取るんよ」
コレ。そう言って瑪瑙先輩が指で摘んだのは、首に掛けられたドッグタグ。
私も先日、試験に必要なものとして配られた。
裏には試験番号が刻印されていて、私は171番と書かれていた。
「これが、撃破した人間の証明タグ。これがついてない人間は倒されたものとしてみなすから、どれだけ頑張ってゾンビしたって、個人ポイントが入ることはないよん」
「……ん? でも、ゾンビ行為をして、新たにタグを奪えば偽装することはできません?」
「自分の試験番号が無いことがお察しだろうがよ」
「あ」
そうだった。
一度死んだ場合、自分のタグは相手に取られるものだった。
「あとなー、個人ポイントでひとつ、漁夫の利ってんのがあってねん。倒した相手が、たくさん人を殺していた場合、その戦利品のタグはぜーんぶ、勝った人のものだよん」
「倒した人間のポッケとかも漁らないとダメですね」
「そゆことん」
指をパッチン。
ソファーに座った男性三人組が盛り上がる、外国のネットミームのような格好をしている。
「ウチらは一気に奥を目指して、可能なら誰もいない補給ポイントで武器と食料の確保。ほんで、サーフィンくんもお花ちゃんも織姫ちゃんもウチも、襲ってくる敵を迎撃しつつお宝探しぃ」
(織姫ちゃん?)
新しい名前が出てきた。
でも話の流れ的には、きっとあまね先輩のことだろうと考えている間に、瑪瑙先輩は私の役割を話し始めた。
「その間夏ちゃんのやることは……」
「はい!」
「逃げること。隠れてもいい。何もしないで生き延びること」
一瞬、世界から音が消えた。
瞬間、頭の奥の方からチリッとした熱い痛みが走る。
この痛みは、あのお葬式の時に感じたものと似ている。
怒り。
軽んじられていることに、私は怒りを感じている。
「……なめてるんですか?」
「なめてないよ」
間髪入れずに被された言葉は、慌てている様子など一切なく、真剣に、本当に心の底からそう思っていることを察せられた。
「なめるわけない。一年の段階で、小テストとは言え、全校生徒が一斉に同じ内容の小テストを受ける、学年合同実力テスト。その航空学科テスト一位を取った人間を、なめるわけがない」
瑪瑙先輩の視線が、真っ直ぐこちらを射抜いてくる。
「だけど、夏ちゃんはあまりにも無知なんだよ。経験不足で済ませられないほどの無知」
平時であれば失礼と捉えられる言い草を、当たり前の顔をしてこの人は語る。
それは経験に基づく重みを持って、次々投げかけられていく。
「実際、数日間補給なしのサバイバルで、どれだけの緊張感をずっと持ち続けなきゃいけないのか」
彼女は片手の指を折って数えるように、ひとつひとつ、噛み締めた声音で吐き出していく。
「食料も水も確保できない時の空腹感、渇き、不安に不満。文字通り、草も木の根も木の皮すらも食べて糧としようとする惨めさ。模擬銃で撃たれた時の、二度と御免だって叫びたくなるような痛みだって……」
動き続けていた瑪瑙先輩の歩みが止まる。
倣って止まると、彼女の顔がよく見える。
普段の穏やかにおちゃらけている、クラゲのように掴みどころのない顔は、どこにも無い。
「すべて。夏ちゃんは何も知らない」
空がゴロゴロ慌ただしい。
さっきまで晴れていたのに、一気に暗い雲がかかり始めてきた。
梅雨の変わりやすい天気ってやつかもしれない。
雨こそ降らないものの、妙に不穏さを漂わせるそれに、この試験が過酷になりそうな気配を察した。
「でもね、それを知る前に……ううん。知って尚、足切りにかかって潰すことがいいことだとは、ウチは思えない」
瑪瑙先輩の言葉はずっと真剣で。
茶化す雰囲気も、脅かす雰囲気も何もなくて。
「だから夏ちゃんには、まず生き延びてもらう。生き延びて、学校に留まって、それで自分で選択して進退を決めてほしい」
それは未来を憂う人の顔。
私のものよりもずっとずっと先に進んだ覚悟を決めた人の顔。
「チーム一丸、みんなの願い。他でもない、君を生かすための作戦だ」
この世界を歩む覚悟を決めた人の顔を、瑪瑙先輩は持っていた。




