第六話 試験、開始まで 2
「な、つ、ちゃん!」
「わあっ! いきなりなんですか、瑪瑙先輩」
「んっふふふー。あんね、スタート地点に着いたら話す間もなく開始しちゃうから、今作戦会議しようと思ってねん」
スタート地点まで向かう途中、背後からいきなり飛びかかられて心臓が飛び出ると思った。
なんせ足音が全く聞こえなかった上に、飛びかかる気配すら感じられなかったから。
彼女はイタズラ成功した子供のように無邪気に笑う。
笑いながら、作戦会議などと言うものだから、私は先を急ぐ先輩たちの背中に視線を向けた。
「それなら先輩たちも交えた方が」
「彼らは大体承知してるよん。なんせ、ウチとはながーい付き合いだからね」
「以心伝心ってやつですね」
「ウソウソ。授業被ってるのが多いから自然に打ち合わせしてただけぇ」
ヘラヘラ笑いを浮かべる姿は、やっぱり掴み所がない。
鼻白む心地でいると、緩い雰囲気のまま、彼女は問いかけてきた。
「まず、今回の流れはだいたい知ってる?」
「戦闘試験って名前のサバイバルゲーム……ですよね?」
「そうそう、大まかにはそんな感じ! 偉いぞ夏ちゃん!」
大袈裟に褒める瑪瑙先輩。
少しの気恥ずかしさに、少ししかめっ面を返す。
「いいですから。作戦、教えてください」
私の照れ隠しが伝わってしまったのか。
緩い笑みを浮かべる瑪瑙先輩の顔が、ニマニマ面白そうなものを見た顔に変わった気がしたけれど、気の所為、気の所為と無視をした。
「あいあい。じゃあまず作戦の前に、今回の試験ルールのおさらいしようねん」
事前に説明されていた形式は、五人一組サバイバルゲーム。
と、言う名前の宝探しゲームと聞かされている。
試験で使われる敷地の中に隠されている宝箱を探し、その中にある宝を入手すれば、チームにポイントが入る。
……ただし、宝は直ぐ様ポイントに変換されるようなものではなく、宝を入手したチームはそれを終了まで守り抜かなければポイントにならない。
つまり、他のチームから奪い取ることが可能ということ。
「宝の形はその年その年で違うみたいよん。去年はコインだったねん」
ということは、持ち運びやすい形かどうかはその年の運次第。
持ち運びにくい物であるなら、持つ量を変えるとか、持ち方を変えるとか、色々な工夫が必要。
そういうことか、問いかけると、瑪瑙先輩はグッと親指を立てた。
「そゆこと」
そういうことらしい。
「宝を奪取されないように、抵抗をしなきゃならんわけじゃんね? そんな時に役に立つのが……」
「……補給ポイントにある、模造武器ですね?」
瑪瑙先輩の言葉を引き継ぎ答える。
彼女は満足そうにニンマリ笑う。
「せいかーい。補給ポイントには携帯食料やお水のほかに、模造銃や剣とか、いろんな武器があるんだけど、数に限りあり。早い者勝ちってことねん」
早い者勝ちは知らなかった。
全員に平等に分け与えられるものだと思っていた私は、想定を崩されて焦りを感じた。
「と、なると、一番先に補給ポイントに」
「行かないよ?」
「え?」
驚き顔を見上げると、キョトンと不思議そうな先輩の顔。
「一番近い補給ポイントなんて、みんな考えることなんて一緒なんだからよぅ。ぶん殴られて、もらった武器を取られて終わりだよん」
「近くの場所だとそうなんですか?」
「そ。だからウチらは、できるだけそこから距離を取る。奥へ奥へ目指して、人目に付きにくいところに拠点を作る。まずはそうするんよ」
「なるほど」
私が納得したように首を振る。
瑪瑙先輩は満足そう。
「で、チームとしての作戦なんだけどねん。基本的に積極的な応戦はしないこと。宝を探して、チームポイントを貯めるのを、期間中ひたすらやっていくよん」
「夏ちゃんもわかってると思うけど、宝探しはチームポイント。これは終わったあとに、チームメイトに均等に分配されるものねん。例え個人がゲームオーバーになったとしても、このポイントだけは貰える」
「敵チームの撃破は個人のポイント……でしたよね?」
「そのとーり! 敵チーム人員の各個撃破は、個人ポイントとして加算されていくのんね。ここで注意してほしいのは、敵から攻撃を食らってゲームオーバーになったときには、この個人ポイントはパァ。ゼロポイントになって、チームポイントしか手元に残らないこと」
しかも死んだあとだと、チームポイントも何割か削られての付与になるから、一気に不利になるのよねん。
おどけた口調のくせに、瑪瑙先輩の表情は困ったような顔だった。
「つまり、一度死ぬと……」
「足切りラインにうんと近付く。実質ゲームオーバーってことよねぇ」
軽い。やっぱり軽すぎる。
瑪瑙先輩の綿あめよりも軽い口調は、危機感がまったく含まれていないように聞こえて仕方がない。
だけど、話される内容はとてもシビアで、そしてこれがこの試験の現実。
瑪瑙先輩の話し方がいくら緩くとも、聞こえ方が軽く聞こえようとも、しっかり覚えなくてはいけないこと。
私は頭の中に、きちんと注意として刻みこんだ。




