表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
序章 青い花の咲く丘で 〘4〙三つ子、高校生編
53/152

第五十話 進路相談 2 〘空の世界〙

「……さ! そろそろ帰るぞ!」


 ぴゃあぴゃあ泣いている空をスルーして、陸はひとつ手を叩いて場を仕切る。


「そうだな。そろそろ部活も終わり始めるから……。空、ほら、立てって」

「陸は空の仲間だと思ってたのにぃぃぃ」


 ノロノロ立ち上がって尚泣き言を言う空の両脇を、陸と海が掴み上げる。


「じゃ。俺等帰るから」

「うん。空ー、また明日ー」

「ま、また明日、空ちゃん……!」

「むんー。ばいばーい」


 ズリズリ引き摺られて廊下を歩く。

歩いているのは陸海のふたりで、空は引き摺られて進むのみ……。

 空は宇宙人になったのだ。


「海、県外出るの?」


 引き摺られ、視界に映るのは床しかない。

空は、雑談みたいに海に聞いた。


「さっきからそう言ってるでしょ。言っとくけど、自宅から通える範囲にあるならそっちを選んでたから」

「そっかぁ……。空たちと離れたくなったわけじゃないんだね」

「まさか。花もこっちにいるのにそんなこと思うわけない」


 海が鼻で笑った気配がする。


「花ちゃん元気? 最近会えてないから」

「元気。勉強頑張ってるみたいだよ」


 どうやらお付き合いは順調に進んでいるらしい。

空にお姉ちゃんができるのも、時間の問題ではなかろうか。


「お付き合い四周年おめでとう」

「ありがとう」


 引き摺られるまま靴箱へ。


「ほら、空。靴くらい自分で履きなよ」

「むんー」


 肩から外されてのたのた空の靴箱へ。


「天嶺、ちょっと」


 行こうとした所、背後から声がかかった。


「はい?」

「あ、空の担任の先生」

「……空、何かやっちゃった?」


 陸、海、それから空。

まるで打ち合わせたように綺麗に振り向き、綺麗に揃う空たちの返事を見て、空のクラス担任の先生は口元を引き攣らせていた。


「えぇっと、天嶺空だ。進路相談室まで来なさい」

「えっ、空、何かやった?」


 えっ? えっ? と戸惑う抵抗もむなしく、空は進路相談室へ押し込まれた。


「えっ、校長先生? ……と、誰?」


 中には最近頭頂部が寂しくなったことが悩みの校長先生と、その隣に明らかカフウ皇国の人間ではない、外国の風貌をした男性が座っている。


『はじめまして、空。会えて嬉しいよ』


 ヒデ語だ。

ヒデ語を扱う彼はフレンドリーに握手を求めてくるけれど、空は怪しいって思ったから拒否をする。


『え、誰ですか? なんで空の名前を知ってるの?』

『おっと失礼! 自己紹介を忘れてしまったね』


 彼はおどけて両手を大袈裟に上げる。


『ボクの名前はアルス。アルス=マオ=リザレン』

『……ヒデリアっぽくない名前だね?』

『おっ、分かる?! 僕の出身は、実はアビオ公国なんだ! さすが、花が言っていただけのことはあるね!』


 花ちゃん?

どうしてここで花ちゃんが出てくるのか分からなくて、空は思い切り首を傾げた。


【えーと、アビオならこっちの方が話しやすい? もしかして】

『わぁ! ウソ! 僕は今、夢でも見ているの?!』


 昔、トランジットで寄った国の名前が出てきて、もしかしたらと思ってその言葉を試してみたら、彼はヒデ語で大きく喜びを表現している。


【ごめんね、まさか、ここでアビオの言葉を聞けるとは思ってなかったから……。もう二度と聞くこともないかもしれないって思っていたから、嬉しくて】


 ガラリと言葉が変わった。

彼はアビオの言葉で話しかけてくる。


【これはどこで覚えたの?】

【昔、トランジットでアビオに少しいたから、その時に】

【トランジット? 数日滞在していたのかな?】

【ううん。あのときは、空港の滞在も含めて八時間くらい】

【……なんだって?】


 途端、彼は険しい表情を浮かべる。

少したじろぐ。


【八時間? 八日じゃなく?】

【は、八時間だよ。音を聞いていたのは】

【……空、君はどうやって言葉を覚えている?】


 彼、アルスの目に灯る色が変わったのを肌で感じる。

うまく言えないけど、狩人みたいな。


【どうって……。旅行で行く国が決まったら、その国の言葉を本で見ておいて、現地でたくさん音を聞いて……。それで覚えてるけど】

【……文字のインプットはどのくらい?】


 普段言葉を覚える時の予習を思い出す。


【その国の言葉で書かれた本を一冊】

【ふ……】


 彼は手で顔を覆い俯く。

その姿勢で肩を震わせ始めるものだから、空はちょっと離れた。


【……ふっふふ、はっはっはっ!】

【うわ、なに】


 いきなり大声で笑い始めた。

え、何この人。


【まさか、まさか! ボクは都合のいい夢を見ていると言われても信じてしまいそうだ! 現代に! ボクの眼の前に! 彼女のような人が現れるなんて!】


 額に手を当て高笑い。

空は空を連れてきた先生を盾にして隠れた。


「帰っていい? 先生、空、帰っていい?」

「いや、待て待て。一応校長に頼まれて来たんだ、もう少し待ってくれ」

「でも空、この人怖いよ」


 空、今、すっごくビビってる。

自分で言うのもなんだけど、肉食獣に追い詰められたうさぎみたいにプルプルしていると、ようやく笑いが収まった彼が、謝罪しながら手を出してくる。


【申し訳ない! 信の置ける学生からの情報とは言え、目の前で見るまで信じられなかったものだから!】

【信の置けるって、花ちゃんのこと?】

【そう! 今年入学してきた、ここの卒業生、和久井花から、君がいると聞いてボクはやってきた!】


 学生と聞いて、ピンときた。

この人、もしかして。


【ボクはチェーロ国際大学で教鞭をとっている、言語学教授のアルス=マオ=リザレン! 空。君をうちの大学にスカウトしに来たんだ】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ