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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
序章 青い花の咲く丘で 〘4〙三つ子、高校生編
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第四十九話 進路相談 1 〘空の世界〙

 ついにこの時がやって来てしまった。


 空は白紙の紙を握りしめて、教室の扉を開ける。


「陸ーっ! 海ーっ!!」


 叫んで二人の姿を探すも、中にはいない。


「陸くんは顧問に呼ばれて、海くんは図書委員の仕事してるよ」

「ニアピンだったか……」

「結構前だよ」


 代わりに声をかけてきたのは、クラスメイトの茂庭さん。

二年生にしてレスリング部のキャプテンを務める、背の高いカッコいい女の子。


「そ、そんなに慌てて、ど、どうしたの……?」


 おずおず控えめに聞いてきたのは三浦ちゃん。

なんと同じ中学校からこの高校に入学した、中学生からのお友達!


 後は別の学校だけど眞鳥ちゃんって友達もいてー。


「……って、それは今関係ないんだった!」

「いつも唐突だよね、空って」


 茂庭さんが苦笑する。

空は、茂庭さんに紙を見せる。

空が記入するところは何も記入されていない、白紙の紙を。


「んー? 進路調査?」

「提出はもう少し先のやつだよね……? 夏休み明けの」


 ふたりが紙を覗き込み、どういうことだろうと首を傾げている。


「空には、空には二ヶ月ばかりじゃ足りないの……っ!」


 将来なりたいものなんて、何も決まっていないから!


「えーん、助けてぇ! ふたりは将来どうしたいとか決まってるのー?」


 空の嘆きに三浦ちゃん。


「わ、ワタシは行きたい大学があって……。できるなら院まで進んで、研究職に就けたらいいなって……思ってるよ」

「頭いい。すごい。さすが未来のノーベル受賞者」

「んえぇ、そんなこと無いよぉ……。もっと頭のいい人なんて、いっぱいいるもん……」


 進学科で海と張り合うくらいに頭のいい三浦ちゃんは、照れたように笑って謙遜する。


「茂庭さんは?」

「私は……。多分将来的には実家の道場継ぐことになるだろうけど」

「道場? レスリングじゃなくて?」

「うん。うち、柔道場経営してるの」


 あ、でも。

茂庭さんは少し恥ずかしそうに視線を逸らしながらモゴモゴ呟く。


「……最近、メイクに興味が出てきたから……。専門学校、行けたらいいなって……」

「えー! すっごくいい! 茂庭さん、メイク絶対映えるし、背も高いから……。メイクまでマスターしちゃったら、モデルさんみたいにもっとカッコよくなっちゃうよ!」


 それに比べて空は。


「今日の夕飯なんだろな、とか、そんなことしか考えられないんだぁ」

「お腹空いたの? メイトゥー食べる?」

「食べる」


 うう、パサパサ。

茂庭さんからもらった、一本でカロリーをしっかり摂れると有名なメイトゥーを食べると、口の中の水分がカラッカラに干からびた。


「おなかすいたぁ」

「大喰らいめ」


 茂庭さんが触れる程度で頭を小突く。


「あっ、空ちゃん、ヒデ語……話せるんだよね?」

「ん? うん。去年の旅行も含めて、九ヶ国語話せるようになったよー」

「きゅっ?!」

「杏のこと頭いいとか言ってたけど、空も大概じゃないの……」


 だけど。空は不貞腐れて頬を膨らませた。


「でも、空は喋れるだけだもん」

「じ、十分すぎるよ?」

「カフウ皇国だと、何ヶ国語も喋れたって、意味ないもん」


 すごいね、だけで終わっちゃう。


 頬を膨らませたまま机に突っ伏すと、膨らんだ頬がつぶれて空気が抜けた。


「えっと、空ちゃんが嫌じゃなければだけどね」

「? うん」

「多言語に対応している大学とか行ってみるの、どうかなって……」

「多言語の大学」


 三浦ちゃんの言葉を反芻する。

彼女は強く頷く。


「そ、そう! そういうとこなら、他国の留学生とかもいるだろうし……。コミュニティも広がって、空ちゃん、楽しいかなって……」

「就職なら、通訳者とか、翻訳者とか……。あっ、キャビンアテンダントとかも言語力使いそう!」


 続けて茂庭さんも、三浦ちゃんを援護する。


「キャビンアテンダント……」


 毎年海外に行くとき、飛行機の中で笑顔を浮かべて、きびきび働く女の人たち。

カッコいいなぁって、見惚れていた。


「……カッコいいよねぇ」

「だよね?!」


 気分がやや上向きになった空を盛り上げるように、ふたりはやんやと肯定の嵐。


(でも)


 多分空は、キャビンアテンダントじゃなくて……。


「……決めた」

「え?」

「今の時間でもう決めたの?」


 戸惑ったような二人の顔を見て、空はにぃっと笑って見せる。


「今年の夏休み過ぎたら考える!」


 ふたりはきれいにずっこけた。


「空、いる? ……あ、いた」

「海ー」


 委員会の仕事が終わったらしい海が教室に顔を覗かせる。

よ、と手を上げれば、よ。と片手で返してくる。


「陸は?」

「なんか、顧問に呼ばれてるんだって」

「また何かやらかしたのか?」

「最近大人しかったのにねぇ」


 井戸端会議のように話す傍ら、海はふたりに、「空の相手してくれてありがとう」と言っていた。


「海、悪い、遅れた。空もいたのか」

「陸やほー」

「よ。茂庭さんと三浦さんも。空の相手ありがとな」

「ちょっと、兄弟で同じこと言ってるよ」


 けらけら笑う茂庭さん。

空は、お? って思った。


(茂庭さん、なんか嬉しそう?)


 ほーん、ほーん、ふーん?

空は理解わかってしまったねぇ。


「今、空たちと将来の話をしてたとこなの」


 茂庭さんが経緯説明をする。

陸は机に投げ出された空の進路調査の紙を摘まみ上げた。

それを後ろから海も覗く。


「白紙じゃん」

「夏休みが明けたら決まるの。きっとそうなの」


 からかう海に小さく対抗。


「そういう海は決まってるの? 進路なんて」

「うん。海洋かいよう大学だいがく

「それって県外……っ!」

「下宿するつもり。クジラの研究をしたくって」


 空は、既に将来展望が見えている海に焦る。


「り、陸は? 陸はまだ決まってないよね……?」


 陸は空の仲間だよね……?

縋る思いで見上げれば、バツが悪そうに頬を掻く陸の姿。


「ま、まさか……」

「あー、顧問から、さ。ある企業が陸上競技を続けるためのスポンサーになってくれるって話を聞いてさ……」


 その企業で働きながら、陸上選手続けるかもしれない。


「……う」

「う?」

「裏切者ぉ!!」


 空はわぁって泣いちゃった。

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