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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
序章 青い花の咲く丘で 〘3〙三つ子、中学生編
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第四十五話 林間学校 4 〘陸の世界〙

 深夜、虫も寝静まる丑三つ刻。

六人、男子が雑魚寝するログコテージの中で、俺は一人眠れずにいた。


(どうするかな)


 正直、色々考えることが多すぎる。

空が、部活の監督に俺が嫌われている原因を知っていると、教えてもらったあの日から。

陸部マネージャーの遥がそういう目で俺を見ているって知ってしまったあの日から、ずっと悶々悩んでいる。


(マネ業を誰よりも頑張っているから、頑張り屋な女の子だとは思うけど)


 遥のことは嫌いではない。

だけど、そういう意味で好きかと言われれば、分からない。


(……いや! まだ告られたわけでもないけどな?!)


 一人悶々、想像しては否定してを繰り返す。

だけど、もし、もしを繰り返す。

もし、本当に遥の気持ちが本当だったら?

もし、本当に告白されたら?

そうなったら、俺はどうすればいい?


「だーっ! やめだ、やめやめ!」


 悶々としすぎて思わず叫んでしまう。

隣で眠る海がビクッと体を跳ねさせて、何事もなかったかのようにスヤァと安らかに眠りについた。


(考えても意味ないし)


 何か起こればその時に考えればいい。

そう考えて布団を被り直すと。


 カツン、カツン。

窓に小石が当たったような、小さな打撃音が響く。


「なんだ……?」


 気になり、窓に寄っていく。


「あ」


 見ると、小石を投げつけていたのは、ずっと悶々と考えていた遥だった。


「や。起きてたんだ」

「起きてるも何も、俺以外が出たらどうするつもりだったんだ」

「それって、あたしは陸に用があるって思ってくれてたってこと?」


 ニマニマいたずらっぽく笑うその笑みが、空と重なって見える。


「バカ言え。で、どうしたんだよ」

「ちょっと散歩に行かない? 天体観測」


 望遠鏡は無いけど。なんて戯ける遥に、俺は引き寄せられるようにして窓から飛び降りた。


「暗いねー」

「まあ、山の中だし」

「そうだね。街灯もないから、星がよく見えそう」


 ふたり並んで歩く山道。

消灯の時間もとうに過ぎているから、こんなところを教師に見られた日には、説教どころじゃ済まないだろ。


 そんな事を考えていたのも、遥にはお見通しだったようだ。


「怒られる時は一緒だよ?」

「巻き込まれた被害者です、って言っとくわ」

「えー、ひどーい」


 そんなこと、毛頭思っていなさそうなトーンで遥は笑う。


(……多分、コイツと付き合ったら楽しいんだろうな)


 高校別になっても、マメに会いに来てくれそうな感じはするし、気は利くし、料理は米炊いたところしか分からなかったけど洗濯は陸部で毎日していたし、掃除もよく率先してやっていたし。


(何より、空が懐いてる感じしたし)


 挙げれば挙げるほど、付き合わない理由は無いような気がしてきた。

だけど、どうしてだろう。


(遥の隣にいる俺が、全くイメージできない)


 漫然とした違和感。

それを明確に表す言葉も持たないまま、隣で話す遥の言葉をぼんやり聞いている。


「……あ、陸。見て。蛍」


 ふと脇道に目をやると、昼間に登った沢が流れている。

その傍らに、沢と寄り添うように飛ぶホタル。


「綺麗だね」


 しゃがみ込んでそれを観察する遥は、住んでいるところでは中々見ることのできない光景にうっとり魅入っている。


「……ねぇ、陸」

「なんだよ」

「空ちゃんって、いい子だよね」


 ふと唐突に、言葉を零す遥の視線は蛍の方。

蛍に照らされて浮かび上がる横顔は、真剣そのもの。


「皆と姿が違うのに、気にせずに振る舞って、周りを自然に惹きつけて、笑顔にさせて。陸と、海くんのことを大事に思ってて、でも、あたしにだって大事な友達って言ってくれてて」


 遥の指が蛍に触れる。

驚いて飛び立つ蛍の光が、扇状に散らばった。


「人目も気にせず大好きーって愛情表現もしてくれて。ねぇ、陸。空ちゃんのこと、可愛くて仕方ないでしょ」

「……まぁ」


 間を空けて、口ごもるように言う俺に、遥は苦笑を浮かべた。


「だよね。あたしも空ちゃんのことが可愛くて、可愛くて仕方ない。当たり前だよね。あんなに全身全霊で、大好きって言葉でも動きでも伝えてくれて。心の底からあたしのこと信じてくれて」


 蛍が明滅する。

たくさん飛んでいた蛍は、やがてひとつ、またひとつとその灯りを消していく。


「最強の愛嬌ってズルいよね。……あたし、そんなにいいやつじゃないのに、空ちゃんのこと、恨むに恨めなくて苦しい」


 羨ましい。

そう、ポツンと寂しそうな声色で遥は言う。


「陸。今、あたしを誰と比べてる?」


 言葉に詰まる俺に、自嘲気味に遥は苦笑する。


「知ってるよ。空ちゃんでしょ」


 いいよね、空ちゃんは。

どこか投げやりに放り出された言葉。


「陸も、海くんも……。海くんのお付き合いしてる人も、みんな、空ちゃんが大好きで、空ちゃんがいつも真ん中にいる」


 多分これは、一般的な付き合いをするうえでは明確な欠点であることは間違いない。

恋人になるのなら少なくとも、自分を優先して欲しい人が多いだろう。

 だけど、俺は――。


「でも、それでもいいよ」


 遥はようやく、蛍から顔を上げた。

顔は向き合うのに、妙に視線が合っていないように見えるのは、夜でも籠もる熱のせい。

視界が蜃気楼の錯覚を起こしているせい。


「あたし、それでも陸が好き」


 視線が合う。

蛍の灯りに照らされて、真っ赤に縋る遥は言う。


「……明日、キャンプファイヤーの時、また言うから。答えは、その時でいいから」


 遥は立ち上がる。

ふい、と逸らした視線は交わること無く、駆け出していってしまった。


(……あ、星)


 残された俺は、蛍の光がまばらになった上空を仰ぎ、満天にきらめく星を見た。

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