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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
序章 青い花の咲く丘で 〘3〙三つ子、中学生編
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第四十四話 林間学校 3 〘海の世界〙

「今日疲れたねぇ!」

「全っ然疲れてないように見えるけど」


 空が元気に言った隣で、呆れたような陸が言う。


 五人一組、飯盒炊爨はんごうすいさん

 当然のように僕たち三人はセットになっている。

残りの時間は、空いた二人を決める時間。


「なんか……女子ギラギラしてないか?」


 僅かに怯えた様子で陸がそっとこちらに身を寄せてくる。

気の所為ではないだろう。

残り二枠の同じ班を狙って、女子たちがじりじり輪を狭めてきている。


「お、男で一人か二人でいるやつ探そうか! な、海!」

「そうした方がいいね。……空?」


 気が付けば、一緒にいたはずの空がいない。

一瞬の隙を突いてどこかに消えてしまった。

アイツは何をやっているんだ。

頭を抱えそうになったその時、女子の輪の外から、聞き慣れた声が響き渡る。


「あっ! 眞鳥さーん! 組む人いなかったら一緒しない?」

「えっ、空ちゃん?! いいの? クラス違うけど」

「先生クラスの指定してなかったもん。何か言われたらそう言えばいいよ!」

「そうしたらもう一人、一緒にお願いしたいんだけど……」

「あっ! 三浦ちゃん! いいよー、大歓迎!」


 枠が埋まった。

空と仲のいいらしい女の子たちで固まった。

空、ナイス。


 ホッと一息ついていると、女子の輪を掻き分けて三人が姿を現した。


「陸ー、海ー、女の子決まったよー。だれか組みたい人とかいたー?」

「いないー! ナイス、空ー!」


 思わず叫び返してしまった。

それくらいに、空に称賛を贈りたい。


「あ、紹介するね! 陸は知ってると思うけど、まず眞鳥まとりはるかさん! 陸部のマネージャーで、顔良し性格良し成績よしの三拍子!」

「やっほ陸。海くんもよろしくねぇ」


 紹介された眞鳥さんは、控えめに手を振って挨拶する。

話したことはないが、あちらもこちらのことを知ってはいる、そんな感じ。

たしかに陸を見る目が、こちらに向ける目とは違っているけれど、それでも空を踏み台ではなく、友達として大切にしているような姿勢も見られて好印象。


「で、もう一人が三浦みうらあんずちゃん! 本の知識がすごい物知りさんで、空にチーズくれた、チーズ恩人!」

「あ、あれ安物……なんだけどな……」

「でも空、チーズって初めて食べたんだよー。美味しいことに気付かせてくれた三浦ちゃんは空の恩人!」

「大袈裟だよ……」


 三浦さんは、眞鳥さんと正反対の大人しめな子。

大きなメガネに三つ編みおさげ。

典型的な文学少女。

林間学校のしおりで顔を隠して、その裏でブツブツ呟きが聞こえてくる。


「ムリムリムリムリ、顔面国宝? マ? なんで私は推しの目の前にいるんだ頼む認知はされずに遠くで拝むだけの生活に戻してくれ……」


 ……いわゆる限界オタクのような呟きが聞こえてきた。

空がニッコニコで、「三浦ちゃんは面白い子なんだよー」なんてのんびり言っている。


「まあ……そうみたいだね」


 ベクトルが違う方向で面白い子だった。


「じゃあ、グループも決まったし、カレー作りますか」


 外野から聞こえるブーイングを聞こえないふりをして、先生にグループが決まったことを報告する。


「じゃあ、そこの材料と道具を持って行ってね」

「陸、道具頼んだ」

「あいよ」


 手分けをしてグループの作業場に戻る。

女子たちが和気藹々と話していた。


「おーい、作業始めるぞ」

「カレーだぁ!」


 ぴょこんと跳ねて立ち上がった空。

続けて眞鳥さんと三浦さんの二人も立ち上がる。


「じゃあ……どういう分担にしようか?」

「あ、あわ、ワタシ! 野菜切らせていただきます!」

「空もやるー」

「それならあたしはお米の方やろうかな」


 女子の間で淡々と担当が決まっていく。

どうする? 陸と目を見合わせる。


「あー……俺、火、熾す役やるな」

「なら僕はカレーを作るね」


 あっさり役割分担が決まり、ひとまず僕は待機の姿勢に入る。


(ちょうど、空の方と陸の方の会話が聞こえてくる位置なんだよなぁ)


 陸の方は洗った米を飯盒に入れて持っていく眞鳥さんの姿が見える。

傍らにしゃがみ込む眞鳥さんの視線の先で、陸は細い枝から太い枝に火を移そうとしていた。


「……ゆっくり話すのも久しぶりだよね」

「……まあ、部活辞めてから話す機会もそうなかったしな」


   ダンっ! ガンっ! ゴンっ!

  「まってまって、せめて野菜の皮むいて……!」


「……元気にしてた?」

「姿くらいは見るだろ。……まあ、元気でやってるよ」


   ギッコギッコギッコギッコ。

  「ニンジン切るのになんでノコギリみたいな音が出せるんですか」


「そういえば蒼栄高校、ほぼ確定なんだってね。おめでとう」

「ありがと。運がよかったよ」

「あたしの頭だと行けないなぁ。部活枠でもすごいよ、本当に」


  「ぴゃーっ!」

  「空さん! 猫の手! 猫の手ェェェェッ!」 


「……悪い、遥」

「うん。言いたいことは分かるよ」

「行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」


 陸が立つ。

空を見ていた限り、怪我は無い。

だから静観していたけれど、雰囲気のある会話をするには些かノイズが過ぎた。


「空は……役立たずだ……」

「元気出して」


 陸が怒鳴り込んだ結果、空はカレーが出来上がるまで料理に手を出すなと厳命された。

端っこで座り込んで、じめじめキノコを育てている現場を、三浦さんに慰められていた。

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