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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
序章 青い花の咲く丘で 〘3〙三つ子、中学生編
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第三十九話 空、怪我をする 3

 ふたりの話はすべて聞いた。

そんな事があったのかと驚くと同時、まず真っ先に思い浮かんだことは、どちらに非があるか。

わたしは話を総合的に判断して。


「それは……。空が悪いね」

「ハイ。今日のことは全部空が悪いです。陸は何も悪くありません。陸は……」


 空はちらっと陸を見る。

未だ涙目の陸が、ビクリと肩を揺らす。

空はそんな彼を見て、視線を戻す。

そして告げる一言。


「……陸は、握力がゴリラだっただけです」

「またゴリラって言った!」


 わぁん! 声を上げて泣く陸の、身体の大きさに見合わず泣き虫なところ。

小さな頃から変わってないな、なんて思っていると。


「陸」


 陸の肩を叩き、海が豆知識を披露する。


「握力は、ゴリラよりもオランウータンの方が弱いとされている」

「う、うん?」


 少々混乱した様子の陸に構わず、海は続ける。


「陸。お前は暴れる森の賢者(ゴリラ)ではなく、手加減を覚えた森の人(オランウータン)を目指せ」

「なんの喩えを出してんだよ」


 泣き顔からあっという間に真顔になった。

陸を泣きやませた海は満足そうな顔をしているけれど、陸のツッコミには()()がなかったように思う。

正しくは、元気。そう、元気がない。


 やはり尾を引いているのは、空の骨折。

陸は自身が悪くないと言われても、空の骨を折ってしまったこと、そのことはずっと引きずり続けてしまうのだろう。


(母として、何かできればいいんだけど……)


 考える。考えて、考えて、考えても何も思いつかない。

好きな食事を作っても、楽しい場所に遊びに出かけても、陸の気分が晴れる様子が想像できない。

それだけ、骨を折ってしまった。相手にケガをさせてしまった経験は、陸の中に重くのしかかっている。


「と、言うことだから。陸。陸が反省すべき点は、力の制御。ちゃんと相手にケガさせない力の使い方を覚えること」


 まさか人生で、力の使い方が未熟な破壊兵をたしなめるセリフを言うことになるとは思ってもいなかった。

しかも、実の息子に。


(そもそも人の腕を折る握力ってどれだけ? 陸の握力が人間離れしているか、空が人間として生きていくのに困難なほどの虚弱かのどちらかじゃないと成立しない現象よ、これ)


 リンゴを潰すには、握力八十キロは欲しいと言われている。

明らかにリンゴよりも硬いであろう骨を折るためには……。


(陸の握力、三桁超えているのかもしれない)


 このままでは、触れるだけで全てを壊してしまう、心優しき怪物になってしまうのでは。


(せめて、せめてゴリラであれ)


 心の底から真剣に祈る。

そんな親の心情を知らぬ陸。

しょんぼりと肩を落としたまま、二階へ続く階段へ足をかけた。


「陸?」


 呼びかける。

彼は力なく笑いながら、首をゆっくり左右に振る。


「……ちょっと、頭冷やしてくる」


 そうして陸は、自分の部屋に籠ってしまった。


「どうしよう……」


 見守る方向にシフトして放っておけばいいのか、それとも干渉をして声掛けをした方がいいのか。

どうしたらいいのか分からずオロオロ頬に手を当てる。


「気が向いたら降りてくるでしょ。母さんが心配するようなことはもう起こらないと思うし、気長に待てばいいと思うよ」


 海はそんなことを言い、大あくびをひとつ。

勉強するからと言い残し、彼も自室へと戻って行ってしまう。


「むーん……」


 残ったのは空ひとり。

空は唸るように喉から音を出し、何かを考えこんでいる様子。


「何を考えているの、空?」


 問いかけるも、むーんと唸ったまま口をつぐむ空。

やがて。


「ねー、ママ」

「はいはい、なぁに?」

「明日って、空たちお休みだけど、何も予定とか入ってなかったよね」


 聞かれたのは予定の確認。

わたしはスケジュールを思い出す。


「そうだね。お出かけの予定は入ってなかったよ」

「そっかそっかぁ」


 うむうむ何度も頷く空の動作に首を傾げる。

どうも空は、何を企んでいるのかを話す気はないようで。


「じゃっ! 空もお部屋戻るね!」

「分かったわ。お風呂は入れる人から入りなさいね。上の二人にも伝えてもらえる?」

「はーい!」


 元気なお返事。

パタパタ、リズミカルに登って行った階段の先で発された、空の声がよく響く。


「ふたりともー! お風呂、空が先入るね!」

「大声出さなくっても聞こえてるって……」


 呆れた海の声も聞こえてくるけれど、陸の声は聞こえてこない。

相当落ち込んでいると察せられる態度。

しかし、陸の態度も構わない空は強かった。


「陸! お風呂! 空入るからね!」

「聞こえてるって!」


 部屋の扉を構わず開けて、直接声を届ける空に、陸も返さざるを得なかったようで。

語気を強めに張った返事を返された空は、満足そうな顔をして下の階まで降りてきた。


「ママ、入浴剤、空が選ぶね!」

「好きなものをどうぞ」


 マイペース。

普段通りのリズムを刻む空の態度に、救われているわたしがいること。

それは確かに感じていた。


(……ま、なるようにしかならないか)


 そんな空の様子に感化されたためか、そう考えることができるようになっていた。

ほんの少しだけ気持ちが楽になったわたしに、空が楽しそうに声を弾ませ問いを投げてきた。


「ママ! 入浴剤ブレンドしていい?!」

「それはやめなさい」

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