第六十八話 祭りの賑わい 1
一般のお客さんが入ってきてからが忙しい。
そう瑪瑙先輩は言ってたけれど。
「空殿! これ二番テーブルに!」
「分かったっ!」
「空氏! 入口テーブル空きましたッス!」
「片付ける!」
「きみ可愛いねぇ。写真撮ってよ」
「申し訳ございません! 写真のサービスは行っておりません!」
「夏ちゃん! 五番テーブルのお客様に新しいカトラリー出して!」
「はいっ! ただいま!」
こんなに忙しいなんて聞いてない!!
「空殿、お昼の時間を乗り切れば今しばらくの休息でござる」
「その後おやつ時にまた混むけどな」
伊賀くんの励ましを無に帰す黒澤先輩の事実を口ずさむ茶々。
内心でべッと舌を出して、用意されたオムライスを運ぶ。
「お待たせしました!」
「おっ、きたー。メイドさん、萌え萌えキュンってやってよ」
「では美味しくなぁれの念を込めさせていただきますっ!」
ほぁぁぁぁぁ……っ! なんて波動砲でも発射しそうな格好で、「美味しくなれっ!!」と勢い込んで言う。
「なんか思ってたんと違う」
皿を見つめて何とも言えない複雑そうな顔。
そうは言われてもこれ、マニュアル通りなので。
実際のメイド喫茶のような真似事をすると、公序良俗……? だとか、風営法……? だとかに抵触する恐れがあるのだとか。なんかそんな事を言っていた気がする。
だから、お客さんに色恋と勘違いさせるような言動はNG。身体接触もNG。ハグなどは当然のこととして、ハートマークを作ったり、グータッチをすることも禁止。
写真に関してはあってもいいのでは? なんて意見もあったけれど、私たちを守るためにNGとなっている。
「変なところに写真なんて流出しちゃったら、ウチら女の子だかんね? 危ないよん?」
と、瑪瑙先輩に言われて危険性に初めて気が付いた。
と、言うわけで。
この喫茶では見た目がクラシカルなメイドさんに給仕をしてもらいつつ、サービスを求める場合はさっきのようにネタに走ることになっている。
小鳥遊くんは非常に不満そうだった。
時計の針は一時手前。
(あともう少し!)
気合を入れ直し、レトルトを温めたコーンスープとクラムチャウダーを運んで行った。
***
「お、終わったー……っ!!」
「まだ一休みだよ。それでもお疲れぃ」
お客さんがはけて少し。
お行儀悪く机の上に上半身を投げ出して、ぐったりグロッキーになっている私の傍に、コトリ、何かが置かれる音。
「炭酸だ」
「美味しそー!」
黒澤先輩が傍に置いたのは、出品メニューのひとつ、クリームソーダのソーダ部分に使われていた炭酸ジュース。
パチパチ弾ける爽やかな刺激と、よく冷えた冷たさが働き詰めで火照った身体に染み渡る。美味しい。
「こんなに混むなんて知りませんでしたー」
疲れを隠しきれずに、重いトーンで零すと、カラカラ軽い笑い声。
「クロちゃんのお陰だねん」
「黒澤先輩の?」
炭酸ジュースは飲みきって、底に残った僅かな液体が、ズゴーって音を鳴らして吸われていく。
「クロちゃんは情報のエキスパート。SNSなんかの情報媒体の宣伝は、クロちゃんに任せておけば集客は見込めるってワケよん」
「単純にフォロワーが多いってだけだ。さすがのオレも、フォロワー0のところからじゃ何もできないぞ」
「またまたぁ。一人でもフォロワーがいれば、そこからどうにかしちゃうくせにぃ。このこのぉ」
おちょくるような口調で、黒澤先輩に向けられる瑪瑙先輩の両手の人差し指。
その指が、手の甲側にぐいっと曲げられた。
「人を指さすな」
「あいだぁっ?! 指はそっちの方向には曲がらないと思うなぁ?!」
ぎゃんぎゃん痛みに喚く瑪瑙先輩を見下ろし、黒澤先輩は鼻で笑った。
「自業自得だ」
どこかスッキリとした様子の黒澤先輩を、意外な気持ちで見上げていた。
「何か言いたそうだな、天嶺の妹」
「空です」
「そうか、天嶺の妹」
「あっ、変える気ない感じですね」
そうですか。って呟いても、不思議な気持ちは消えないまま。
「で、なんだ? 不満や不平は後に持ち越されても困る」
「いやぁ、意外だったなって思いまして」
「何が意外なんだ?」
「だって……」
私が口を開こうとすると、突然開かれる教室の扉。
条件反射で立ち上がり、「いらっしゃいませ!」と笑みを作る。
「……って。なんだ、陸かぁ」
「なんだとはなんだ。せっかく来てやったのに」
「ありがと。お昼時じゃないから、おやつでも食べに来た?」
「いや、昼食い損ねた」
「がっつり系了解」
なんでもいい? 問えば、なんでもいい。と返る。
私は裏方に回っている桔梗院くんへ。
「がっつり食事系特盛でー」
「そういうお任せ量変更サービスは行っておりませーん」
出てきたのはこってりクリームのパスタとクリームソーダ。あとデザートにプッチンしてお皿に盛ったプリン。
量変更サービスはやっていないと返した割に、パスタの量は二人前になっている。
「あれ? 黒澤先輩、これ……」
「他の奴には内緒だ。……翠様のお気に入りだから、仕方なくだ」
黒澤先輩に優しい釘を刺された。
私は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます!」
「いいから早く持っていけ」
手をひらひら、しっしと追い払われるけれど、まったく気にならない。
(ツンデレさんだったかぁ)
黒澤先輩の属性が分かって、心がほっこり温かいから。




