表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
132/152

第六十四話 ミッション 11

 人もまばらになってきた放課後の廊下。

こっそり影に潜み、監視カメラの視界を掻い潜る。


 片耳に装着したイヤホンから音が聞こえてくる。


《えー、ただいま福岡、教官室に入った模様。どーぞ》


 ノイズ混じりの音声は小鳥遊くんのもの。


「了解。こちら潜入組、所定位置に待機。いつでもいいよ」


 マイク越しにこっそりと返す。

ノイズ音が耳の中に鳴り響き、遅れて《了解》の声がした。


 潜んだ角から見える教官室の扉。

そこから二人の人影が出てくるのが見える。

星羅ちゃんと、鬼沢教官だ。


「教官、申し訳ありません。手が届かないところに取りたい荷物があったのですが、足場の場所が分からずに」

「構わない」


 鬼沢教官は相変わらず無愛想。

見た目も相まって威圧感も強いけど、星羅ちゃんは平気そう。


 きっと、チームの顧問として何度かやり取りしている内に、緊張は解れたのだと思う。


 星羅ちゃんが教官を誘導する。

彼らが背を向けた瞬間、私たちは目を合わせることもなく、息を揃えて教官室に滑り込む。


 無人の教官室。

外側から鍵が掛かった。


《入り口のセンサーは切ったッス。監視カメラも今、無人の映像を延々と流し続けているッスよ》


 耳元から聞こえてくる合図。

返事をすることなく、伊賀くんがこそこそ金庫室の鍵を開けようと、細い針金を取り出した。


 金庫室の扉の鍵を、何度かカチャカチャ弄って開けようと苦心している伊賀くん。

それから私の耳元に、焦ったような一声ポツリ。


《……あ、まずいッス》


 一言、後に扉の向こう。


『すまない。忘れ物をしてしまった』

『えぇっ?!』

『なんだ? 忘れ物でなにをそんなに驚く?』

『あっ、いえ、ええっと……』


 まずい。

これは非常にまずい。


「扉、開きそう?!」

「もう少し、もう少しだけ時間は稼げないでござるか?!」


 焦っていても、外に聞こえないように、慎重に潜めた小声の会話。


 鍵が開く音がする。

それは目の前の伊賀くんではなく、教官室の入り口の。


(まずい。まずい、まずいまずいまずい!!)


 扉の外で星羅ちゃんが頑張って意識を逸らそうとしてくれている。

 伊賀くんの手元、鍵が開いた。

だけど、ああ、一瞬、遅い。


 ドアノブが回された。





「鬼沢教官!!」


 鋭い声、一閃。

教官室入口、ドアノブが固まる。


「入れ!」


 小さな声の、どちらからともなく出た合図。

金庫室へ転がり込み、その扉を元のとおりに閉め直す。


 扉越しに耳をそばだてる。


「む! 福岡殿も鬼沢教官に用事でありますか!」


 桔梗院くんだ。

作戦に加われないと言った、桔梗院くんだ。


「えぇっと、わ、わたしは、高いところにある荷物を取りたいのに足場が見つからなくて」

「なるほど! 小官も似たようなものでありますな! 教官殿しか鍵を持ち得ない場所に鍵を落としてしまったのであります!」

「分かった。どこに落とした」

「冷暖房機械室であります! 隙間より、滑り込んでしまいました!」

「両方対処する。……後でいいか。忘れ物は」


 諦めたようなため息の音。

閉じられた教官室。続いて鍵が閉まる音。


 三つの足音が耳をそばだてても聞こえなくなる距離まで離れたとき。

私は深く大きなため息を吐き、床に座り込んでしまった。


「お……っ! 終わったかと思った……っ!!」

「危機一髪でござったな……!!」

「桔梗院くんのおかげで命拾いしたよ」

《フヒェァァ! ちょおぉ、心臓に悪いんッスけど!》


 桔梗院くんの介入があって、ようやくスタートラインに立つことができた私たち。

もしかすると、本当に用事があったのかもしれないし、……助けようとしてくれたのかもしれない。その真意は分からない。


 だが、拾った命。拾った機会。

私たち三人が、ギリギリの生還に安堵する十数秒間。

抜けそうになっている腰をなんとか立ち上がらせ、この機会を無駄にしないと意気込んで、頬を両手で小さく挟んだ。


「よし。やるよ」


 見据えるは金庫の扉。

私の身長よりもはるかに大きいそれから、電子的な解除音が聞こえてきた。


《フヒヒッ! 電子パスワード、解除完了ッス。鍵穴は任せたッスよ》

「承知でござる」


 先ほど金庫室の扉を開けるときにも使っていた針金を、伊賀くんは躊躇いなく鍵穴に差し込み、右へ左へ。解を探る。


 そうして案外すんなりと、その扉は開かれた。


「開いたでござる」

「さすが」


 分厚い一枚目の扉を開き、次の扉。

そこにはもう一つの鍵穴と、タッチパネル。


《指紋の解除はできなかったッスから、空氏の指紋を登録しておいたッス。後で解除するんで、今はそれを使って侵入ヨロ》

「ありがとう」


 伊賀くんが再び鍵を開ける。

開けた瞬間に立ち上がったパネル画面。

【指紋を認証してください】の指示に従い、私はパネルに指を置く。


 一秒、二秒、三秒。

たったそれだけの短い時間は、永遠にも思えるくらい長く感じた。


【認証しました】


 機械的な音声。

それが外に聞こえてやしないかと緊張が走る。


 耳をそばだてることしばらく。

教官室の中に人の気配も音もしない。

そのことに胸を撫でおろすほどに安堵する。


「……さて」


 私たちは向き直る。

金庫の中、無数に存在する扉の数々に。


「この中から文化祭の企画書を探して、封筒ごと持って行く。中身は絶対に見ずに、それぞれの班のリーダーのロッカーにこっそり返却していく。で、よかったよね?」

「そうでござる」


 伊賀くんの肯定を得て、私は頷く。

場所は分かっている。小鳥遊くんがスキャンしてくれたから。

後は。


「教官が戻ってこないうちに回収する。やるよ、伊賀くん!」

「はっ! 承知いたした!!」


 私たちは駆け出した。

学校に残る、未来のために。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ