第五十九話 ミッション 6
「あ、戻ってきた」
「わたし上がり」
「すごーい。星羅ちゃん、また大富豪じゃん」
「フヒヒッ。大貧民も決まってしまいましたなぁ」
「ま、まさか……」
「上がりぃっ!」
「嘘だぁぁぁぁっ!!」
「……楽しそうでござるね」
先ほどまでの、ギスギスした空気は何処……。
伊賀くんが戻ってきて早々、遠い目をして呟いた。
彼に連れられて戻ってきた桔梗院くんは、思いつめたような、あるいは覚悟を決めたような。
複雑な表情を浮かべているものの、そのどこかに、サッパリとした清々しさが含まれていた。
「いい話し合いができたんだ」
伊賀くんに聞けば、彼もいい笑顔を浮かべる。
「男同士、腹を割って話すことができたでござるよ」
ところで。
伊賀くんはジト目で机の上の、トランプの残骸に目を向ける。
「そちらも随分仲睦まじく……」
「やっぱりトランプって友達できるね」
しれっと散らばったトランプをひとまとめに片付ける。
「なぜにトランプ」
「小鳥遊くんが持ってたから」
首を傾げる伊賀くん。
「普段から持っているのでござるか?」
「ふぇっ、ひ、ひひ、……っとぉ……」
挙動不審に視線を彷徨わせる小鳥遊くん。
まとめたトランプを脇に置き、頬杖を両手で突いて頬を置く。
そうしてしれっと私が答える。
「好きなアニメのキャラが、トランプタワーを作っては壊すキャラクターらしいよ。真似したかったんだって」
「空氏?!」
「なるほど。……して、トランプタワーの腕前のほどは」
「一組作ってすぐ崩れたって」
「なぜバラす?!」
唸りながら机に突っ伏す小鳥遊くんの耳が赤く染まっている。
「いいじゃん、好きなものがあるって」
「それをバラされるのは違うことッスよ?!」
伊賀くんたちが戻ってくるまでの間に、私と星羅ちゃんに対しての会話は、スムーズに行えるようになってきた。
言葉に詰まることもなく、普通のコミュニケーションを取ることができている。
こうして話してみると、話し方に癖があるだけで、好きなものがアニメやゲーム、特技が機械とかの電子系の普通の男の子であることが分かる。
単純に、今までコミュニケーションを取る機会が少なかっただけなんだろうな。なんて思う。
他人との距離感の取り方を分かっていない、みたいな。
(そう考えると、私の周りは距離感バグっている人多いなぁ)
それが嫌かと言われると、特にそういうことは感じない。
むしろ好意を分かりやすく伝えてくれるのは、なんとも可愛くて素敵なことではないだろうか。
「桔梗院くん」
こちらの輪へ寄っている伊賀くんの背後では、入り口から留まったままの桔梗院くん。
ずっとそこで固まっているから、さすがに声をかけた。
「こっち来て。ずっとそこだと疲れるでしょ? 椅子座って休んだら?」
呼びかけに、やはり直立不動のままの桔梗院くん。
彼はやがて、思い詰めたようにポツリと。
「……やはり、小官は規則を破ることはできません」
星羅ちゃんが立ち上がろうとする気配。
その手を握って膝に戻して、座った姿勢を維持させる。
「聞こう?」
不満そうに、それでも仕方ないな。って言いそうな雰囲気で口をモゴモゴ。
大人しく腰を落ち着けた星羅ちゃん。
彼女の着席と同時に、桔梗院くんの大きな声。
「ですが!」
彼は両の拳を握り、その手を背にやり胸を張る。
その姿勢そのままに、彼は高らかと宣言をした。
「小官は柔軟性というものを学びました! よって! これまでの作戦会議とやら、小官は聞いておりませんでした! これからやることも、小官は見えておりませぬ!」
「桔梗院くん……!」
その結論は、きっと断腸の思いで出したものだろう。
証拠に、今にも噛み千切らんばかりに唇を深く噛み締め、それでも己で決めた結論を、確かな決意を持って吐き出した。
「小官は臆病者であります。これしかできぬこと、どうかご容赦いただきたい」
静かな独白に、彼の両手を包み握る。
「ありがとう! とっても、とっても嬉しいよ!」
感極まって、包んだ両手に力がこもる。
彼は突然の行動に驚いた様子で、ピキンと氷のように固まっていた。
「あ、あああああ天嶺さん! は、早まらないでいただきたい!」
「はて?」
早まらないで、とは。
きょとんと首を傾げている間に、伊賀くんによって桔梗院くんと引き剝がされた。
桔梗院くんは何やら肩を叩かれ慰められているように見えた。解せぬ。
「空殿……」
「はい?」
「男の心は、秋の空より複雑なのでござるよ」
説教された。解せぬ。
***
「ふいー。戸締まり戸締まりーっと……。およ?」
気の抜ける口調で自身の行動を口に出しながら、瑪瑙先輩が教室へ帰ってきた。
しかし彼女は、中の様子を見て思い切り疑問に首を傾げた。
「待って待って待って! 桔梗院くんすごいすごい!」
「すごい。もうトランプタワー四段目……!」
「始めてから十分経っていないでござる!」
「ふっ。小官にとってはこのくらい朝飯前……」
「桔梗院氏、崩してもいいッスか」
「やめたまえよ?!」
瑪瑙先輩が出て行ってから、多分二時間くらい。
その間、彼女が教室にいない間に何が起こったと、きっと問いかけたくなるほどに、私たちは打ち解けていた。
トランプで、タワー作り勝負を始めるくらいには。
「君たち、まだ帰ってなかったのかぃ? そろそろ粘れるギリギリだけどぉ」
呆れたような瑪瑙先輩の声が聞こえた。
入り口へ視線を向けると、扉に凭れる先輩の姿。
彼女は呆れたように、しかしどこか可笑しそうに笑いながら、黒板の上に取り付けられている時計を指さす。
一斉に視線が向けられる。
打ち合わせは一切なしに、息の揃った首の集団行動。
発声した声は重なった。
「あっ」




