第五十六話 ミッション 3
(よし……。よし……っ!)
思った以上に驚いてくれている。
これなら、うまくいくかもしれない。
私は鉄仮面を装う裏で、勝利の確信を掴もうとしていた。
私は。私たちは決してイタズラでこんなことをしていたわけではない。
真剣だ。これ以上ないほど。
何せかかっているのは、自分と、それから沢山の生徒たちの退学危機。
私たちは、まず金庫から企画書を取り出し、それぞれの企画書が改竄されていないことを確認しなくてはいけなかった。
けれど制度がそれをさせてくれない。
だから、盗み出した。
企画書を盗み出した裏で、私たちは綿密に作戦を練っていた。
この、校内に白髪が闊歩することになった理由が、この作戦によるものであった。
なぜ、校内に白髪が大量増殖しているのか。
事の発端は、遡ること一週間前。
***
「ちょぉっと、ウチら、緊急ってことで他チームのリーダー巻き込んで話し合いしてくるわ。悪いんだけど、今日はみんな解散。片付けと戸締まりだけやっててねん。クロちゃんだけちょっと来て」
「分かった」
二年生二人が、慌ただしく足音を立てながら教室を出ていって少し。
足音が聞こえなくなった頃に、私たちは顔を突き合わせて円形に座った。
「どうする?」
開口一番。
見えるのは、チームメイトの難しい顔。
「先輩たちの結果を待つしかないのでは?」
桔梗院くんが小さい声で。
それは至極尤もな意見だ。
だけど。
なんとなく。なんとなくではあるけれど、不穏な空気を予感する。
ここでまごついていたら、本当に手遅れになりそうな。そんな予感を。
でも。ああ。どうしよう。
人は人の直感だけでは動かない。
証拠も真犯人の情報も何も無く、まして成功するかも分からず、成功させるための具体的な技術があるかも分からない、リスクばかりが高い作戦に乗る人間など、狂信者か頭のネジが外れている狂人だけだ。
先輩たちが、きっと妙案を出してくれるという期待と、手遅れになるかもしれない焦りで板ばさみにされたこの身で歯噛みする。
焦りは膨らんでいくのに、時間ばかりが過ぎていく。
そんな折。
「あっ」
突然上がった小さな声。
発生源は小鳥遊くん。
彼はどういうわけか、ノートパソコンを開いて、その前で固まっていた。
「どうしたの?」
「ウヒィッ?!」
奇声を上げて距離を取られた。悲しい。
小鳥遊くんが避けて初めて見えたパソコンの画面。
そこには、どこかの部屋の映像が映っていた。
「これ、何の映像?」
「い……。いや、お、おおオレっちが意図的にやったわけじゃなくって、たまたま繋がっただけっていうか」
「これ。何の、映像?」
何か悪いことをしてしまったのかなんなのか、私にはよく分からないけど、自己弁護を始めてしまった小鳥遊くんに強めの再確認。
彼は諦めたように肩を落とし、ボソボソ自白をし始めた。
「……金庫室内の、映像……ッス」
目を見開く。
監視カメラの映像なんて、こんな個人のノートパソコンで確認できるものなのだろうか。
「いや……、あの……、……はい。本当はできないんすけど、その、アクセス、しました。……不正に」
「……もしかして、これってこっちから映像を遮断させたり、差し替えたりって操作ができる?」
観念したように、彼は大きく頷いて。
「……できます」
小鳥遊くんの、他の人にはない才能を見つけてしまったかもしれない。
「もしかして、金庫のパスワード解除なんかも……?!」
「鍵穴式の鍵は遠隔じゃ無理ッスけど、電子パスワードならなんとかなる……かもしれない……ッス」
自信なさげにモジモジと。
彼の話を聞いて、私は確信した。
金庫室内に忍び込み、金庫の中の企画書を取り出すことを。
やるかやらないかじゃなくて、できるかできないかで言ったら。
「……できちゃうねぇ……」
「空殿、悪い顔しているでござる」
おっと。いけない、いけない。
頬をもにもに揉んで表情を元に戻そうと努力する。
「……ちなみにこの中に、鍵穴の鍵、開けることができる人っている?」
問いかけには、伊賀くんが手を挙げる。
「拙者が」
魔が差す時って、本当にトントン拍子に都合よく、それをするための準備が整ってしまうらしい。
昔、どこかで聞いた気がすること。
小さく息をする。
息を吸って吐く。その行動が段々と速度を上げていくのは、抑えきれない興奮を、この身に宿してしまっているから。
「それじゃあこの中に、私と一緒に、危険を冒してくれる人は?」
挙手はない。
代わりに、まずは伊賀くんが。
次に星羅ちゃん。
挙動不審に戸惑って、だけど最後には腹を決めた様子の小鳥遊くんが、私の傍に座り直す。
心強い。
だけど。
「小官は! 断じてそれを認めるわけにはいきません!」
目の前に残った桔梗院くんは、厳しい顔でそれを言う。
「私は嫌だって言っていることを、強制させるつもりはないよ。だけど、どうしてって、聞いてもいい?」
桔梗院くんは、当たり前のことを当たり前に口にする。
「それは、規則違反になるからです!」
生真面目な顔で、桔梗院くんは断固として反対していた。




