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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
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第五十三話 祭りの準備 2

「一回見たら……?」

「うん。覚えられるよねん」


 瑪瑙先輩は天才側だった。


 瞬間記憶能力のある人がいるってことは、話としては知っている。

でも実際に見るのは初めてだった。


「そ、それはし、瞬間記憶って、てやつでは……?」

「ううん。瞬間記憶ってやつじゃぁ、ないねぇ」


 小鳥遊くんの質問に対する答えに、訳が分からなくなった。


「……さすがであります!」


 桔梗院くんも言葉を失っていて、どう返答するのか成り行きを見守っていたところ、当たり障りのない称賛ひとつ。


 これ以上話を広げる気もないのか、いつもの通りヘラっとクラゲのような笑顔で「あんがとぉ」なんてそれを受け取り、彼女は既に切り替えていた。


「さて、マニュアルももらったね。みんな行き渡ったね、よきよき」

「そのマニュアルには当日の流れと、裏方は出すメニューの種類と作り方、接客は裏方への注文の渡し方とウケのいい接客態度などを記入している」


 恐らく黒澤先輩お手製のマニュアルは、これでもかと細かく記載されていて、端的に言えば分かりやすい。

このマニュアルに沿って過ごすことができれば、問題が起こることなく無事に文化祭を過ごすことができそうだと感じるほどに、分かりやすい。


「んじゃ次ー。裏方班と接客班に分かれてー。あ、尊くんは一旦接客班に来てちょーだい」

「承知いたしました!」


 裏方、接客と言いながらも、男女に分かれるチーム分け。

女の子の方には一人男の子がいるわけだけど。


「まずねん、こっちは制服……。メイド服ねぇ、作っていくんだけどぉ」

「あの、わたし、裁縫できないです……」


 挙手をした星羅ちゃんが、とても申し訳なさそうに小さくなっている。


「私もミシンは壊してました」


 かくいう私も、裁縫は大の苦手で、家庭科の壊滅エピソードを挙げた。


「だいじょぶよん。服はウチが作ってあげよう」


 自信満々に胸を叩く瑪瑙先輩に目を開く。


「瑪瑙先輩、服を作れるんですか?!」


 驚いて聞けば、彼女の右手にVサイン。

すごい。この人、できないことがないんじゃないだろうか。


 そう思うほど、瑪瑙先輩は実に多才であった。


「だから採寸をしてくんだけどぉ……。尊くん」

「はっ!」

「女の子の格好できるって言ってたじゃんね?」

「左様であります!」


 私は桔梗院くんの姿を、頭から爪先まで見て、やっぱりどうやって女の子になるのかが理解できなかった。


「服作るにあたってさぁ。どんな格好で女の子って言ってるのか分からんもんでねん。悪いけど、今から女装ってしてこれるかぃ?」


 そう言って差し出されたのは大きなエコバッグ。

その中に、メイク道具と髪の毛が見えた。


「ウィッグとメイク道具なぁ。ウィッグは買ってきたやつ、メイク道具はウチの使ってー」

「お借りいたします!」

「服はどうするぅ? オーバーサイズの女子制服持ってきてるけどぉ」


 準備が良すぎる。

どうするのか桔梗院くんを見れば、是。と頷く。


「ありがたくお借りいたします!」


 桔梗院くんが出ていってしばらく。

メイド服のデザインをキャッキャと話し合っていると、突然教室の扉が開いた。


「え……。どちら様ですか」


 クラゲの口調が外れた瑪瑙先輩。

私も顎が外れるほど、あんぐり口を開けてしまった。


 恐らくそこにいるのは桔梗院くん。

桔梗院くんのはずである。


 なのにそこにいたのは大和撫子の美人さん。


 身長は高い。モデルさんみたい。

さっきエコバッグに入っていた髪の毛の、真っ黒な色が艶めかしい輝きを放ち、腰の辺りまで揺れている。

制服の着方も実に巧み。喉仏も筋張った四肢も隠れていて、男性特有の広い肩幅も、女性仕草に隠れている。


 何より驚くことは、顔が全く違うこと。

どんなメイク術を使ったのだろう。

桔梗院くんはつり目気味の目元で、生真面目そうなキツめの顔立ちをしているけれど、()()はタレ目。

雰囲気が柔らかい、優しい顔立ちをした、()()()が、その入り口に立っていた。


「桔梗院静江! 着替えてまいりました!」


 背中で手を組む敬礼姿勢をすると、なるほどたしかに男性であることがわかる。

けれどその姿勢を解いてすぐ、女性的な姿勢、仕草に戻った瞬間、女性に見えるのだから、彼の女装術は凄まじいものがある。


 多分私の顎ってもう外れていると思う。

そのくらい、とってもとっても驚いた。


「えーっと……。尊くん?」

「はっ!」

「……の、お姉さん?」

「本人であります!」

「だよね。声がそうだもんねぇ」


 桔梗院くんの周りをウロチョロ。

三人揃ってウロチョロ、ウロチョロ。


「女の子だ!」


 星羅ちゃんが感動したように私の方を見る。

私は無言で同意する。

声がもう出ない。びっくりしすぎて。


「ここまでのクオリティなら、立派なメイドになれるよ、尊くん!」


 瑪瑙先輩が総評を。

グッドサインを出した彼女に、桔梗院くんは敬礼した。


「はっ! 期待に恥じぬ、立派なメイドを勤め上げてみせます!」


 声高らかに宣言した桔梗院くん。

その顔は非常に誇らしげな顔をしていた。

どこからどう見ても、女の子に見える格好で。

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