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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
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第五十二話 祭りの準備 1

 風がずいぶん冷たくなった。

窓から見える校庭の木々も、緑色が無くなって、茶色や赤色、黄色へと、秋の色彩を纏って佇む。

昨日の夕ご飯。メニューはサンマと栗ご飯。あと豚汁。

食事にも秋の色。


(あ、イチョウだ)


 イチョウの周りは変わった匂いがする。

それを秋の匂いと呼称する人もいるけれど、私は金木犀の方が秋の匂いだと感じる。


 なんて、外の景色に思いを馳せることを、今だけは現実逃避と私は呼ぼう。


 ――この、左右に纏う騒がしい重みからの現実逃避であると。


「空ちゃーん! 今日の準備楽しみだね!」

「星羅殿! 貴殿、些か近付き過ぎではなかろうか?!」

「ふっふーん。わたしと空ちゃんはおんなじ女の子! このくらい近くても許されるの!」

「歩き辛かろう?! 空殿が!」


 どうしてこうなった。


 事の起こりは私が福岡さん、もとい星羅ちゃんの天気予報の技をすごいと捲し立てたあの日から。

そこからやけに、彼女はベッタリ懐いてくれるようになっていた。

慕われているということ自体は嬉しいのだけれど、些かやり過ぎな気もしてならない。


 尚、瑪瑙先輩に経緯を話したところ、星羅ちゃんのことをチョロインと呼称していた。

なんでもライトノベル発祥の、ヒロインの属性のひとつのことらしい。私、覚えた。


 あれから、伊賀くんは毎日隙あらば一緒にいることが多くなったけど、背後に控えるとか、荷物を持とうとするとか、そういったことを控えるようになっていた。

 その代わり、私が本当に重い荷物を両手いっぱいに抱えているときは一部を持ってくれているし、歩く距離はほとんど隣になっている。


 大きな変化としては、忍者口調を仲間うちでは隠さないようになってきたところだと思う。

授業や教官の前では隠すけど、気を抜いていいタイミングでは忍者になるから、多分教官の間にも伝わっていそうな気はする。


 普通の友達っぽい距離感には安心したけれど、伊賀くんと星羅ちゃんはウマが合わないのか、会うたびにバチバチ火花を散らしている。仲良くして?


 集合場所に指定された教室は、調理室に隣接している空き教室。

私たちが授業を受けている教室よりも一回り狭い場所ではあるものの、七人入ってもまだまだスペースはある教室。


「二人とも。集合場所に着いたよ」


 だから離れて中入ろう?

そう思って放った言葉を、どう勘違いされたのか。

我先に扉を開ける二人。すごい競ってる。


「ッシャアッ!」


 扉を開いたのは伊賀くん。

忍者の口調すら崩れ、雄叫びを上げていた。


「ささ、どうぞ! 空殿!」

「きぃぃっ! 負けたっ!」


 扉を開けて誇らしげな伊賀くん。本気で悔しがっている星羅ちゃん。

私は二人の攻防に、反射的にドン引いた。


「仲良きことはいいことだけどねぇ。三人、ちょっと騒がしいよ」


 教室の中から瑪瑙先輩。

顔だけ覗かせて、呆れた調子で注意をする。


「申し訳ありませんでした」


 三人揃って頭を下げる。

肩を竦めた瑪瑙先輩は、扉の前から退いて、入口という空間を開ける。


「早く入りなぁ」


 招かれた教室。

教壇には瑪瑙先輩、その脇に黒澤先輩。

教壇目の前の机には真ん中に桔梗院くん。少し離れて小鳥遊くん。

 小鳥遊くんと桔梗院くんの間にある机に三人横並びに座る。


 私たちの着席を確認した先輩たち。

おもむろに教壇をタンっと軽く手のひらで叩く。

 息を大きく吸って、ゆっくり吐く。

長い吐息野音だけが響く時間はやがて終わり、息だけを吐いていた瑪瑙先輩が、突然。


「チキチキ! 第何回目!」


 叫んだ。

びっくりした。


「数えるのは辞めたのか」

「クロちゃん細かーい」


 黒澤先輩のツッコミには呆れの色が滲んでいる。

その空気感には独特のコント感があった。

瑪瑙先輩の咳払いで空気が戻される。

戻された空気の中、先輩は続けて叫ぶ。


「文化祭! 準備開始ー!」


 と。


「やることを指示しろ」


 何をすればいいか分からんと、至極尤もな指摘をしながら黒澤先輩が持ってきたのは、紙の束をホチキス止めした冊子が人数分。


「こっちが接客班のマニュアル。こっちが裏方班のマニュアルだ。各自、担当の方を持っていけ」


 教壇前の机に几帳面に置かれた冊子を、近い人から取っていく。


「む! 質問をよろしいでしょうか!」

「構わない。どうした、桔梗院」


 冊子を取りに来た桔梗院くんは、重大な事案を発見したと言いたげに挙手。質問の許可を得た。


「小官! 接客と裏方を掛け持つ予定でありましたが、冊子が一冊足りないであります!」


 言われてみれば。

裏方の冊子はあるものの、接客の冊子は瑪瑙先輩が一冊取ってしまえばもう無くなってしまう。


 ちら、と見ると、どうやら忘れていたわけではなさそうな黒澤先輩。

問題ない。とまで言っている。


「その冊子は尊くんが持っていってくれい」


 相変わらず、出典不明のあだ名で桔梗院くんを呼ぶ瑪瑙先輩は、ひらひら手を振って冊子を指し示す。


「はっ! 恐れながら! 発言をよろしいでしょうか!」

「どしたん?」

「それでは先輩の分がなくなってしまうであります!」


 桔梗院くんの指摘。

しかし瑪瑙先輩は、カラカラ笑う。


「だいじょぶよん」


 ヘラヘラした笑みは、いっそ不敵。

彼女のその口から、人外染みた発言が飛び出した。


「一回見れば、覚えられるからね」

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