第四十七話 泥棒猫の情報戦 1
「さぁさぁお集まりの諸君! これより第……。何回? クロちゃん」
「顔合わせも含めて四回目だ。何で覚えてないんだ」
「わはは。失敬、失敬。これより第四回目! 文化祭作戦会議を始めるよん!」
黒澤先輩の嫌味も吹き飛ばす快活な笑い声を、教室に響き渡る声で上げた。
「ちょーっと出遅れちゃった感じはあるけどねん。出し物決めていっくよぉ」
「ひとまずやりたい出し物を片っ端から上げていけ。そこから出店可能かどうか精査する」
黙る空間。
メンバー各々が、それぞれの顔色を伺っているような空気感。
「……では、恐れながら!」
「おっ。元気いーねぇ。尊くんどうぞぉ」
尊くん。
出た出た、瑪瑙先輩の不思議あだ名つけ癖。
だが、自分の名前と違う呼び名をされたにも関わらず、桔梗院くんは気にも留めずに意見を述べる。
「はっ! コンセプトカフェはいかがでありましょうか!」
「コンセプトカフェ?」
「はっ! 飲食系は利率がいいことが多いことに加え、目を引くコンセプトを全面に押し出すことにより、集客を狙う作戦であります!」
思った以上にしっかりした理由まで述べて、桔梗院くんは満足そう。
「ふんふん。結構いい作戦だねぇ。候補に入れてもいいけどぉ、コンセプトによっては被りそうな感じぃ。クロちゃん、コンセプトカフェはコンセプトカフェって括りでひとつだっけぇ?」
瑪瑙先輩の質問に、黒澤先輩が顎に手を当て黙考。
やがて開いた口から回答。
「……いや、コンセプトの部分が被っていなければ問題はなかったはずだ」
つまり、メイド喫茶と執事喫茶があったとしても、それは被りではないって判断をしていいということ。
……クラシカルメイド喫茶と和風メイド喫茶では判断が分かれるところではありそうだけど。
「……と、なればぁ。被らない、且つ分かりやすいコンセプトが必要だよねん」
「そ、それならオレっち、め、めめ、メイド喫茶、とかいいと思うんッスわ」
恐る恐る挙げられた手。
吃りながら発された小鳥遊くんの言葉に、瑪瑙先輩の片眉が上がる。
「それはぁ、分かり易すぎん? 被りを企画しているチームは絶対いると思うんよ」
「いやいやいや。この学校だからこそ、この企画は被らないと思うんッスよ」
突如、目が光った小鳥遊くんは、吃った口調はどこへやら。
ペラペラ立板に水を流すが如く、その口から言葉が回る。
「この学校の現在の男女比は、大体8:2の割合。2のほうが女性割合になるッスね。つまりおよそ四十人前後。これを今回作られた三十チームで割ると、一チームあたり約一人と半分ほど。対してこの第三チームには、三人も女性がいる。つまり、男ばかりのチームもあるということで、メイドという女性が給仕を行うコンセプトカフェであるのなら、意外にも競争率は低いと思うッス。且つ、第三チームに集まった女性陣は見た目がいい人たちであるため、集客力も抜群と」
突然の早口。
びっくりして目をまん丸に見開いた瑪瑙先輩の姿が見える。
ペラペラ回るその口は止まらない。
吐き出される言葉はメイド喫茶の素晴らしさについて。
彼のメイド喫茶に対する熱量は一体何なんだ。
「おぁっ、思うんッス……けど、ど、どど、どうでしょう……か?」
あ、口調戻っちゃった。
瑪瑙先輩の結論はどうか。
机に両肘をつけ、口元で両手を組み、思考している先輩。
「……言われてみればそのとおりかもしれないねぇ」
「えっ!」
期待の籠もった目で瑪瑙先輩を見つめる小鳥遊くん。
だけど。続けられた言葉に肩を落とす。
「人数配分はどうするんだぃ? 給仕三人はちとキツイかなぁ」
女子だけで給仕を行うと、裏方四人と表方三人。
きっと混んでくると大変になる。それは裏方も同じだけど。
「メニューをレトルト品にして数を絞ったり、デコレーションを工夫すれば、裏方仕事は多少楽になると思うのねん。学生のお祭りだし、そこまで五月蝿い人はいないだろうし」
「そうだな。冷凍パンケーキを温めて、それにクリームやカットフルーツを乗せるだけで形にはなるだろう」
「でっしょー? 飲み物も、ジュースとアイスコーヒー、アイスティーを大量に作っておけば、足りなくなりそうなときに追加するだけで済みそうだしねん」
温かい飲み物はインスタントを使用すれば、時間短縮にもなると瑪瑙先輩。
飲食店の裏側を見ているようだとこっそり思う。
「だけど、混んできたとき、表で男子諸君は手伝うことは難しいっしょ? コンセプトはメイドなんだからさぁ」
瑪瑙先輩がぶーん、と不思議な鼻息で、悩んだ音を表した。
「ああ! それなら問題ありません!」
悩んだ空気に一筋光明。
声を上げたのは桔梗院くん。
「小官が表と裏を兼任したいと思います!」
「表? 女装でもすんのぉ?」
胡乱な目を向ける先輩。
疑われているような視線を意に介さず、桔梗院くんは、はっ! と言いながら敬礼をする。
「幼い頃より最近まで、女として育てられていた身! 女性の装いは得意とするところであります!」
「ほんとぉ?」
疑いの眼差し。
無理もない。
桔梗院くんは、細身とは言え体格も骨格も男性。
喉仏も目立っているし、身長も高い。ゴリマッチョってほどではないけど、筋肉だってある。
明らかに男性であるそのシルエットを、どうやって女性に寄せるのか。
この場にいる誰もが、理解できないでいた。
「お、オレっち、ゲテモノは見たくない……ッス」
同感です。
心の中で同意する。
疑いの眼差しを崩さず、瑪瑙先輩が頬杖を突く。
「んまぁ、尊くんが女の子になれるって仮定したとしてぇ……。被ったらやっぱり話は最初っからになっちゃうことは覚えておいてねん」
桔梗院くんだけでなく、小鳥遊くんへも向けた釘。
どうやら、これしかない! と盲目的になっている小鳥遊くんへの注意もあったのだと思う。
「んー……。瑪瑙先輩!」
「ほい、夏ちゃん」
「私! 他のチームが今どんな出し物を計画してるのか見てきます!」
「……ほへ?」
瑪瑙先輩の静止が響く前。
私は教室から飛び出した。
「え、ちょ、夏ちゃあぁぁん?!」
ステイ! ステイ! なんて背後から聞こえた気がした。
多分気の所為って思うことにした。
十数分後。
瑪瑙先輩たちの待つ教室へ、私は舞い戻ってきた。
背中を丸め、お手々は前に。
首は項垂れ曲げた膝、浮いた足。
「おいゴラァ! 瑪瑙ぉ! お前んとこのバレッバレの泥棒猫の躾くらいちゃんとしとけぇ!」
「にゃーん」
……日向先輩に、首根っこを掴まれて。
「お花ちゃーん!」
「お花じゃねぇよ!!」
日向先輩はペイっと教室に向けてスローイング。
「ぶべっ!」
床に顔面ダイブをかました私。
さもありなんと、心底呆れた表情の黒澤先輩に見下ろされた。
「せめてスパイならスパイらしくしとけ!」
バァン!
大きな音を立てて、教室の扉が閉められた。
「怒られちゃったねん」
「うまく隠れられたと思ったんですけど」
「どうやってたの」
「扉の入り口でこそーっと。見つかったんで、スパイに来ました! って言ったら首根っこ掴まれました」
「そりゃそうだ」
黒澤先輩と同じ呆れの視線がチームメンバーたちから向けられる。
「でも、多分実りはあったんですよ!」
「ほぅ? なにが実りだ?」
苛ついた口調、黒澤先輩。
私は彼の背後、教室の入り口を指さす。
そこには。
「情報、取ってきました」
メモ帳を片手に携えた、伊賀くんがそこにいた。




