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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
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第四十六話 総合成績第二位

「ここに、天嶺海はいるかしらぁん?」

「でっか……!」


 思わず零れた感想。思わず零れた焼きそば。

出入り口の天井から腰を屈めて入ってくる大男。


 そこにいた大男は、どれだけ低く見積もっても二メートルは確実に超えている。

その上、鬼沢教官が細く見えてしまうほど鍛え上げられた肉体。

多分腕の一本だけで私の半分くらいの太さがある。


 ちら。陸を見る。

陸も成長期が止まらずに、つい先日二メートルを数センチ超えたと報告があった。

筋肉だって確実に育っている。腕の一本で私の両腕を合わせた幅以上ある。


 それでも確実に、この目の前の大男の方が大きい。


 陸が立ち上がる。

ぬらりと効果音がつきそうなほど、ゆっくり滑らかに。


 大男も歩み寄る。ぬらりとゆっくり滑らかに。


 対峙する。

大男。両腕をゆっくり上げる。

陸。水平に上げた両腕を体の前で。


 力を込める。

体が膨張する。

互いの肉体を見せつけるように。


(さ……!)


 サイドチェスト――!!


 捲くられた袖から見える見事な上腕二頭筋!

制服の上からも分かるはち切れそうな大胸筋!

盛り上がった大腿筋! 多分割れてる腹筋! 見えない!


「肩にちっちゃい重機乗ってんのかい!」

「うぉっ?! いきなりどうした?!」

「仕上がってるよ! 肩メロン!!」

「夏ちゃんが壊れた!!」


 瑪瑙先輩にびっくりされた。

あ、腰抜けてる。


 続けてダブルバイセップス、アブドミナルアンドサイ、ラットスプレッド! ラスト、モストマスキュラー!


 互いの肉体を存分に見せつけ合った男たちは、滲んだ汗を振り払い、固い握手を交わす。


「いい……、筋肉ね。これからも大切に鍛えていきなさい」

「っす! ぁざっす!!」


 ブラボー、ブラボー。

教室に響く惜しみない拍手を送る。

感動の拍手を送る私の手のひらには、知らず汗が滲んでいた。


「いやぁ、手に汗握る展開でしたね」


 隣の瑪瑙先輩は、いっそ悟りを開いたように穏やかな表情を浮かべて。


「何これ」


 額に浮かんだ汗を拭い、大男はこちらへ歩む。

近付いてくるとよりわかるデカさ。それから威圧感。


 目の前で見下ろすことができる距離まで近付いてくる。

ずぅんと重い重厚な気配。思わず鳴る喉。握る拳。


 彼は私たちを見下ろして、そして。


「んもー! ここにいたのね! 探したんだから、カイちゃん!」


 顔色は変わらないくせに、げんなりした空気を隠しもしない海。

淡々と彼に言葉を返す。


「ご要件はなんですか、苅尾先輩」

「会いたかっただ・け・よ」


 語尾にハートマークが付きそうな声音で、んちゅっと投げキッス。

海はその軌道を手の甲でペンっと払い飛ばした。


「そうですか。じゃ」

「んもぅ! つれないんだからぁ」


 いきなりくねっと、女性らしい仕草をし始めた大男。もとい先輩。

 言葉の端々で薄らと察していたけれど、この人。


(オネエ先輩だ)


 唖然として見上げている視線に気が付いたらしいその先輩は、私の顔に目を向けた。


「あらあらあらぁん。かわいい顔があると思えば、カイちゃんの妹ちゃんねぇん?」

「あ、空です! 天嶺空。いつも海がお世話になってます!」

「空ちゃんね? アタシは苅尾っていうのよん。気軽にリオって呼んでねん」


 くねっとしなを作ってセクシーポーズ。

ここは素直に聞くが吉。

下の名前は追及しない方針で、私は両手に拳を握った。


「分かりました! リオちゃん先輩!」

「やだぁん、素直で可愛いわぁ! 瑪瑙ちゃん、このコもらってもいい?」

「だめに決まっているでしょうがぁ!」


 思わずツッコんだ瑪瑙先輩。

クラゲのようなふわふわした口調で怒鳴るという器用な技術を披露した先輩は、起こした上体を重力に従って椅子へと深く逆戻りした。


「ウチのこと見えてないと思ったわぁ。リオちゃん」


 ふわぁと緩やかに吐き出す嫌味。

受けてリオちゃん先輩、片手で口元を押さえる。


「ごめんなさいねぇ? 用事のあるコがいた上に、かわいいコまで二人もいたものだからねぇ」

「ふーん。ウチはリオちゃんのこと友達だって思ってたんだけどねぇ? 友達よりも後輩かぁ。そっかぁ」

「あらやだ。アタシだってそう思ってるわよ。んもぅ! 機嫌直してちょうだい」


 拗ねた瑪瑙先輩。

機嫌を取ろうとワタワタ手を右往左往させるリオちゃん先輩。

置いてけぼりの私たち。


(先輩、子供みたい)


 ここまで子供っぽく拗ねる瑪瑙先輩は、多分初めて見た気がする。

きっと、リオちゃん先輩は、瑪瑙先輩にとっての親友ポジションなのかもしれない。


「海。あの筋肉すげぇ先輩、誰だ?」


 ヒソヒソ内緒話、陸。

ヒソヒソ返す内緒話、海。


「苅尾……先輩。序列は第二位」

「第二位? あんなに目立つ先輩、見たことないけど?」


 ヒソヒソ、ヒソヒソ。

海が語るのはリオちゃん先輩のすごい話。


「発明家としての能力が突出しているから、既に自衛軍の研究所で色んな手伝いやなんやをしているらしい」

「そっちに出ずっぱりってことか? 学校は」

「特例で認めているんだと。なんでも、高校の時点でアルバイトとして同じようなことをしていたってことで、自衛軍からも強く求められているんだとか」

「すげー先輩だな」


 キラキラ。陸がリオちゃん先輩を見る目が、尊敬する眼差しに変化した。


「リオちゃん先輩は、なんで海を探してたの?」


 問いかける。

片肩を竦め、もそっと濁った音で海は言う。


「……僕のチームメイト。で、チームリーダー」

「お? てことは私たち、ワンツースリー?」


 確か陸のチームリーダーは、翠先輩だったはず。

そう、陸の目を見ると、無言で肯定。


「陸、また翠先輩と一緒のチームかぁ」

「コレでランダムってまじかよ」


 あ、頭抱えちゃった。ドンマイ。


 私は陸の肩を軽く叩いて慰めた。

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