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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
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第四十五話 頼まれ事は停滞の中 4

「夏ちゃんってさぁ、ほんと勇者だよねぇ」

「ん?」


 夕飯も風呂の時間も終わって、自室でゴロゴロしているとポツンと感心したような瑪瑙先輩の呟き。


「どうやって鬼沢教官を懐柔したん?」

「どう……って」


 思い返しても特別なことはしていなくて。

ただ、雑務を手伝って、夕飯の時間も過ぎかけていたからチャーハンとプリンをご馳走してもらっただけだった。


 どう考えてもそのくらいしか、あの日は行動していない。

何が鬼沢教官の琴線に触れたかすら分からない。


「……やっぱり」

「やっぱり?」

「私が可愛いからですかね?」


 冗談めかしてくねっとくびれを強調する。

半笑いを浮かべた瑪瑙先輩に、ほっぺたを片手で挟まれてモニモニ揉まれた。


「なーまーいーきー」

「んおおおお」


 夏、扇風機の前で宇宙人ごっこする時のような、ビブラートのかかった声が出た。


「あの教官は人の美醜で評価を変える人じゃないよぉ」 


 私は目を見開く。


「意外でした」

「なにがぁ?」

「先輩は、ただ怖がっているだけのように見えたので」


 ああ。なんて、特に気を害した様子もない調子で、先輩は自分のベッドに転がって横になる。


「確かに、怖い見た目だし圧もあるし、ちょっとの言葉が一々恐ろしくて、本能的に避けたくなるような人だけどさぁ」


 体を投げ出して天井を見て。

それで顔だけ横に、私の方を見た。


「でも、評価を私欲に任せて付けたことなんて、一回もない教官だよん」


 少なくとも、ウチが入学してきてからはね。なんて付け足して、腹筋を使って体を起こす。


「だからさぁ、すっごい不思議なんよ。夏ちゃん、なんで、そんなに人に好かれるん?」


 とても不思議そうな顔をして、私の顔を見る先輩。

彼女の方へ目を向けると、心底不思議そうな目と目が合った。


「好かれ……てるんですかね?」


 何度も何度も頷く先輩。

確かに、すぐに仲良くなれる方だとは思う。

だけど、人並みじゃないかと自分を評価している。


「確かに、私は人が好きだから、どんどん話しかけには行きますけど、それだけですよ」

「いぃや。夏ちゃんのそれは何かがあると思うねん」


 名探偵のごとく、ビシッと両指で指してくる。

そんなふざけた動きには、苦笑するしかできない。


「やっぱり、瑪瑙先輩の勘違いだと思うんですよ」

「えぇー? そんな事ないと思うけどにー」

「だって、本当にそうなら……」


 本当に、先輩が言う通り、特殊な能力で人と仲良くなってるのなら、あまね先輩がなんで今もずっと怒ったままなのか、もうとっくにわかっていると思う。

今、あまね先輩は怒っているけど、本当にそのとおりなら。

もう、とっくに仲直りしていると思う。


「そうなら?」


 首を傾げた先輩。

ベッドから身を乗り出して――。


「!!」

「ゥゲップ!」


 先輩が、顔面から床に落ちた。

それは決して彼女の失態ではない。


「わっ、わっ」


 部屋が揺れる。

否。地面が揺れている。


 地震だ。


 机の下に避難する。

数十秒ほどもすれば、揺れは収まった。


「いやぁ、びっくりびっくり」


 揺れが収まったと同時、身を起こした瑪瑙先輩。

オデコが赤くなっている。相当強かに打ち付けていたらしい。


「けっこう大っきな地震だったねぇ」


 乱れた髪を手櫛で整えている様子はまるで猫の毛繕い。


「ここ、上の方の階なので、余計に大きく感じたのかもしれないですね」


 外を見ると、下の階の人たちが何人か外に避難している様子が見えた。


「次の揺れ来るかね」

「さぁ……。一回で終わる時も、何回も続く時もあるって聞きますし、なんとも……」


 やがて鳴り出す寮内放送。

安全を確保して、校庭に避難するように。


「ウチらも行くかぁ」

「外涼しいですし、上着持っていきましょう」

「そうねん」


 各々、クローゼットから秋物のコートなり、カーディガンなりを取り出して羽織る。


「近々大きい地震でも来るんかねぇ」

「やめてくださいよ。そんなの来ても困りますよ」 「言っても自然現象だしなぁ」


 人間は自然を操作できない。

特に災害。

 人間は、予測して訓練して、被害を最小限に留める努力しかできない。


「前、大きな地震が来たのって」

「んー。習った歴史だとぉ。二十年くらい前じゃなかったかなん?」

「二十年前」


 その数字に聞き覚えがある。

つい最近、聞いたことのある年数。


「たしかぁ、特に西の方が酷かったみたいねん」

「西の方……」


 あの写真立てにハッキリ写っていた高校名。

あれも確か、西の方の野球強豪校ではなかっただろうか。


 ……まさか、鬼沢教官のご家族は。


(……なんてね)


 頭に浮かんだ、妄想にも近い最悪の想像は、頭を振って否定する。

 ひどい妄想を振り払うため、現実の会話に意識を集中させる。


「……私は、まだ生まれてないですね」

「ウチもだよぉ」

「瑪瑙先輩ってお幾つでした?」

「誕生日がまだ来ない十九歳!」


 あと二ヶ月で成人年齢! なんて笑顔でピースサインを作る瑪瑙先輩。


「おめでとうございます」

「ありがとん」

「お酒の感想聞かせてくださいね」

「夏ちゃん、この寮お酒持ち込み禁止」


 和気藹々と足を踏み入れた校庭に、冷たい秋の夜風が漂う。

風呂上がりの暖まった肌を刺し、二の腕は鳥肌が立つ。


(冷えない内に部屋に戻れたらいいなぁ)


 そんなことを考えて、私は解放される時を、今か今かと待ち侘びた。



***


「ここに、天嶺海はいるかしらぁん?」


 一難去ってまた嵐。

昼休みに兄妹プラス先輩でお昼ご飯を食べている時。

 開いた扉から見えた人物。


「でっか……!」


 そこには巨人が立っていた。

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