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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
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第四十一話 始まりの作戦会議 2

 私たちが一瞬にして静かになった瞬間を見計らい、瑪瑙先輩は最後の一人にバトンを渡した。


「じゃっ、クロちゃんよろしくぅ」

「クロってあだ名は翠様だけが呼んでいい名前だ」

「細かいことはいいっしょー。相変わらず硬いんだからぁ」


 ぶぅぶぅ文句を言う瑪瑙先輩に、彼は舌打ちを吐き捨てた。


「黒澤安曇だ。いいか。軽々しくクロと呼ぶな。その名を呼んでいいお方は決まっている。以上」

「ちょっとぉ。今アンタ何年よ、クロちゃん」

「二年だ! 言わずとも分かるだろう! 名簿見れば!」


 黒澤先輩はやたらと瑪瑙先輩に噛みついているように見える。

私たちには分からない確執があったりなかったりするのだろうか。


 身体が硬直したままの私たちは、二人のラリーを見守ることしかできない。

何せさっき、ごんぶとの釘を刺されたばかりなので。


「よっし! 顔合わせおーわりっ。こっからは諸々決めていくお時間だー!」


 いやいや。そこで猛犬の如く唸っている黒澤先輩はスルーですか?

思っても言わない。だって私たち、学習能力のある一年なので。


「まずねん、出し物を決めていく……前に、出し物の顧問を決めないとお話にならないよねん」

「そうだ。顧問がいなければそもそも企画は通らない。アテはあるのか?」


 瑪瑙先輩の進行に相槌を打つ黒澤先輩。

うぅーん、と唸る瑪瑙先輩が。


「……頼みやすいのはひゅー教官。あの人、キャパが多いし、人当たりいいし、ちゃんとサインしてくれる」

葦原あしはら莧菜ひゆな教官のことか、もしかして。毎年人気の教官だけども」

「一番頼みにくいのはやっぱり鬼沢教官だねん」

「まぁ……。恐ろしい人ではある」

「それもそうだし、去年顧問欄にサイン頼みに行った子たちが玉砕して泣いてるの見たことあるよん」

「サインすらしないって噂もあるしな」

「ウチは鬼沢教官のキャパはゼロだと睨んでるわぁ」


 ポンポン跳ねるボールのような軽快な会話のラリーが繋がっているけれど、ところどころ知らないルールみたいなものが出てきて首を傾げる。


「……質問をよろしいでしょうか。瑪瑙先輩」


 そのまま流されるといけない気がして、挙手、次いで発言の許可を。

 周囲から信じられないものを見る目で見られている気がする。

 一旦無視。私は瑪瑙先輩の次の発言を待った。


 瑪瑙先輩はと言えば、にんまり面白そうな笑み。


「どうぞぉ、夏ちゃん」


 発言の許可が出た。

起立。姿勢を正して手は背後。


「先ほどから仰っている、キャパとはどういうことでしょうか」

「あれん。説明してなかったっけ」

「恐れながら」


 先程の衝撃がまだ抜けきれなくて、背中に隠した手は少し震えているけど、地に足を。腹に力を。恐れを隠して真っすぐ射抜く。


 私の力の入れ具合を知ってか知らずか。

瑪瑙先輩はゆるーく。


「ごめぇん」


 一言、謝罪。張り詰めた空気がいくらか霧散した。


「いやぁ、一年は分からんよね。うっかりうっかり」


 後頭部を搔いてテヘペロおどける先輩。


「さっきから言ってるキャパってんのはぁ、その教官が監督できる許容量ってことねん」

「監督できる?」

「そそ。要するに、その教官が平等に目を配らせて、責任を取ることができる許容量。十の出し物を見ることができる教官もいれば、いろんな理由で一個しか見れない教官もいるわけよ」


 本人の能力だったり、抱えてる仕事が多かったりとかね。

先輩はそう付け足した。


「で、鬼沢教官は毎年監督に立ってない。ということは、多分仕事忙しすぎてキャパがないんじゃないのん? ってウチは睨んでいるわけ」

「ありがとうございます。理解できました」

「いいってことよん。もっと口調崩したっていいんよ?」

「いえ……。今は、その」

「あっはっは。んじゃぁ、また後でフランクによろー」


 軽い調子で笑い飛ばした瑪瑙先輩の声に押され、私は椅子に逆戻りした。

誰も見ていなければ、机に突っ伏して大きなため息をながーく吐いていたい心地だ。

 隣からの視線が、お疲れって労っている気がする。

ありがとう。私はもう少し頑張ります。


「じゃあ顧問はひゅー教官にアタックしてみるねん」


 出し物を決める前に顧問についての話が纏まった。先に話をつけてくると瑪瑙先輩が立ち去り、ひとまず安心。かに思えたが。


「ダメだったよ」

「もうすでに埋まっていたのか」


 戻ってきて肩を落とす瑪瑙先輩に、結果が分かってしまった。


「まさかチーム分けの前に順番を取っていたチームがほとんどだったなんて」


 唖然とした様子で同調するのは福岡さん。

想定が甘かったと、先輩は顔をゆがめる。


「完全に出遅れた」

「でも、他にも教官はいますよね」


 伊賀くんが意見する。

これに黒澤先輩。左右に何度も首を振る。


「教官のキャパが、出店数を下回る可能性がある」

「……つまり、そもそも顧問を付けられない可能性が」

「ある。空いている人を探すのは、運によるが時間がかかる可能性が高い」


 頭が痛そうな眉間のシワ。

瑪瑙先輩にふと、問いかける。


「その時、他の教官はいらっしゃいましたか?」


 頷く瑪瑙先輩。


「聞いてもみたけど、みーんな埋まってた」

「なんと」


 聞いてないのは鬼沢教官くらい。

なんて、本当に苦そうな顔で無理やり笑う瑪瑙先輩。


 困ったねぇ。なんて言って、苦しそうに笑ってた。

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