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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘3〙文化の祭りに第二期試験
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第三十九話 始まりは掌握から

 朝起きる。

顔を洗う。歯も磨く。

髪を整え後れ毛ひとつ見逃さないよう、ゴムでキツく頭頂部ひとつ縛り。

制服に袖を通し、ボタンをキッチリ閉めて鏡の前で確認する。


 「……よしっ」


 今日も隙のない美少女ぶり。

久し振りの感覚に、身が引き締まる思いがする。


 今日から二学期が始まる。


 そう。二学期がやって来たということは、即ち。


「第二期戦闘試験……っ!」

「文化祭だぁー!!」

「えぇぇぇっ?!」


 ベッドから飛び起きた瑪瑙先輩。

寝癖でボサボサのままの頭で、開口一番文化祭と叫ぶ。

あ、噎せてる。


「寝起きの乾燥している時に叫ぶからですよ。お水どうぞ」

「良くできた子だねぃ、夏ちゃんや」

「瑪瑙先輩なんか老けました?」


 主に口調が。


 水を飲み干した瑪瑙先輩。

勢いよくベッドの上に立ち上がり、仁王立ちのポーズ。


「文化祭だよ! 夏ちゃん!」

「さっきも聞きましたよ。戦闘試験の前に行われるんですか?」


 床に落ちたコップを拾って、シンクまで置きに行く。

私の背中に、ノンノンと少し気取った否定の言葉。


「夏ちゃん知ってるかい? ウチの文化祭は、第二期の戦闘試験も兼ねてるんよ」

「……?」


 理解が追いつかない。

文化祭、イコール戦闘試験? 来客も巻き込むつもり?


 プチパニックとでも言うべき静かな混乱の中にいる私に、瑪瑙先輩はクラゲのような笑顔で説明をする。


「この文化祭では主に、売り上げ……。というより、お客さんの保有ポイントを奪い合って、ポイントを競うんよ」

「保有ポイントですか?」

「人気投票とも言うねん。公平性を期すために、お客さんは入り口で五ポイント分のポイントをもらうのよん。それを、回ってみていいなって思った出し物に投票してもらうのん」

「売り上げは関係ないんですか?」

「何十万円売り上げようが、五ポイントと十ポイントなら、十ポイント取ったグループが勝利するのよん」


 なるほど。私は頷く。

しかしそれでは、どうして戦闘試験に繋がるのかがまだ分からない。

だって。


「ポイント制ってところ以外、普通の文化祭ですよね」

「一見はねん。まず違うのは、出し物は被ってはいけないこと」


 どこかのクラスがお化け屋敷をやるなら、他のクラスはそれができないということだろう。


「次に、出し物の決定は先着順」


 曰く、これをやりたい! だけの口頭提出では弾かれてしまう。


 まず、責任者の教官他、責任の取れる大人の関係者を立てること。これはそれぞれ各人が交渉に行かなければならない。


 次に、出し物の企画書。

 どこの教室、あるいはどこの空間を利用するか。

その利用許可の写しの提出。

 出し物の内容、必要機材、当日用意する予定の詳細な材料等のリスト。

 予算はいくら、見積もりはいくら、当日の見込み利益はいくら……。


 これらすべては、例外なく()()()

企画書の提出までこぎ着けたとしても、先着で同じ企画を提出されていた場合、すべての企画は初めから。


 さらに企画が通らなければ、準備すら始めてはならない。

つまり通るのが早ければ早いほど、準備に時間をかけることができ、他のクラスよりも凝った出し物としてアドバンテージを取ることができる。


「やること多すぎません?!」

「そうなのよん。早い人は今日から始めるかもねん」

「早すぎません?!」


 だがしかし。

ふと、疑問が鎌首をもたげる。


「それのどこが、戦闘試験に繫がるんですか」

「およ? 夏ちゃん、夏休みで鈍っちゃたぁ?」


 からかう瑪瑙先輩。

少しむくれる私。


「ごめんごめん。簡単に説明するとねぇ、この試験は()()()を見られることになるのよん」

「情報戦?」

「そそ。スパイ活動とも言うよねん。時間を長く取るためには、さっさと企画を出して先着ゲットしたいわけじゃん? だけど既に出されていれば、その分タイムロスになるよねん」

「他のクラスの情報を収集する……ですか」

「そゆことん」


 にんまり笑顔は一学期の時と変わらない。


「だけどねん、こっちだって易易情報を取られてたまるかってことでねぇ、防衛が許可されてんのよん」

「防衛?」

「第一期試験の時のハンドガン、あるっしょ?」

「はい、ありますね」

「グループの一人までが、そのハンドガンを持つことを許可されてるのん」


 つまり、怪しい姿があれば、それで動きを拘束する、と。


「ま、準備期間中ずっと拘束できるわけじゃないから、見られそうになったら防衛! って感じだけどねん」

「中々殺伐としてますね」


 感想が零れる。

その感想に、瑪瑙先輩は意味深にうっそり微笑む。


「この試験の真髄は、ここからなのよね」

「真髄……?」

「そう」


 クラゲのような口調。だけどやや真剣味の増した瑪瑙先輩の表情に、迫力が灯る。


「この試験の勝利条件は、何かな? 夏ちゃん」

「……いかにポイントをお客さんからもらえるか。ということは、できるだけ多くの集客が必要ですね」

「そ。普通の文化祭であれば、パンフレットのうまさであったり、看板の派手さであったり……。はたまた、単純に売れるものを売って客を集めたり。そうなると思うんだけどねん」

「はい」

「この学校では、事前にお客さんを集めておくのよ」


 彼女は言う。

SNSを使って宣伝、地元の友達へのアピール、役所に掛け合いコラボ出し物……。犯罪以外であれば手段は問わない。


 手段は問わないということは、他の人達への妨害をしてもいいということ。


 デマ拡散。ミスを見つけて論う。炎上、鎮火、情報上書き、押し潰し。

炎上をうまく使えるのならそれで良し。うまく火消しに回れるのなら、それも良し。


 うまく立ち回れなかった者から消えていく。


「人々の言論を統制。同じ方向へ向かせる。注目させる。圧倒的なカリスマのもと、人々を纏め上げる。その資質が問われている」


 空気に当てられ、飲み込む唾。

強張った表情筋を動かして、なんとか苦笑の音を出す。


「瑪瑙先輩。流石に大袈裟に話してませんか?」

「およ? 夏ちゃんは知らなかったのかい?」


 丸く見開く目。口はニッコリ三日月の。

顔の目の前、指を組んだ。

瑪瑙先輩、うっそり笑う。


「戦争はね、情報掌握から始まるんだよ」

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