閑話 会合
長期休暇を楽しんでいたオレの元にその手紙が届いたのは実に一週間前。
『序列三十位 新野知也 下記指定日にて指定会議室まで集合されたし』
第一期戦闘試験以前の序列は三十七位。
それが前回の試験、並びにその後の自主退学と……。
この夏季休暇で色々と羽目を外した連中が退学措置を取られ、繰り上がっての三十位。
正直手紙をもらうまで、順位が上がっていることに気付かなかったし、オレが七位も上がったということは、上位陣の顔触れだって変わっている。
(なのに、一位から三位は変動なし?! 四位と五位も、お互いの順位が入れ替わっただけで五本指には入ってるし、どうなってんだよこれ!)
更に業腹なことに、オレより順位が下だったはずの日向葵とかいうやつが、今はオレより順位が高い。
下の順位は往々にして入れ替わりが激しい。
それはわかっていたけれど、それでも三十位以降はほぼ固定だって聞いていたのに。
(コイツ、あの試験で何やったんだよ)
涼しい顔して会議の開始を待っているコイツ。
まるでこの会議室内のプレッシャーを感じていないような振る舞い。
それに、オレでも知っている上位陣は、軒並み順位が上がっていた。
粟原荒太。以前の序列は第十五位。現在第十位。
二階堂あまね。以前の序列は第二十位。現在第十四位。
そして日向葵。
以前はオレも曖昧だけど、多分第五十位とかそんなもんだったはず。
それが今では、第二十位と大幅に繰り上がってやがった。どうなってやがる。
それに、おかしい。
本来ならいるはずの席が、一人分空いている。
その事を序列上位者たちは、意にも介していない。
まるでそのことが当たり前と言うように。
「皆様、お揃いでしょうか」
序列四位の女が喋る。
空席は見えていないかのよう。
「この会議の司会進行、及び書記を務めます、春野 朋美です。どうぞよろしく」
拍手はない。同意の言葉もない。ただ粛々と進むのみ。
……と、思われたが。
「ねー、なんで朋美が司会も進行もあと記録係までぜーんぶやってるわけぇ?」
不満そうな、独特の間の取り方。
ギャルっぽい口調と言えばいいだろうか。
「木乃美。会議中ですよ」
「あーしは朋美がぜーんぶやってるのが可笑しいって言ってるだけなんだけどー?」
序列五位。春野 木乃美。
四位と五位の春野二人は、双子だと言う話。
一方は真面目な優等生タイプ。もう一方はメイク濃いめのギャルで、双子と言っても似てはいない。
ああ、嫌なやつを思い出してしまった。
オレの彼女を奪ったあの色男……!
天嶺の三つ子。その長男。
結局彼女とは別れたし、その上でアイツと付き合っている姿も見たことはない。
(それに最近、序列一位から目をかけられてるみたいだから、下手に文句も言えなくなってきたしな)
なんて、歯痒い。
こっちの心情は一切察されることもなく、四位の春野が場を取りなす。
「それでは本日の議題から。本日お集まりいただいたのは、二学期に行われます、第二期試験の組分けのお話し合いとなります」
組分け?
はてなと頭に疑問が浮かぶ。
「本日、初めてこの会議に上がる方もいらっしゃいますので、その方々向けに説明をさせていただきます」
四位の春野が説明をした事柄は、なんと今まで全く知らずに、悟ることもなく行われていたこと。
なんと、上位三十名は、試験における一部決め事の決定権があった。
流石にルールや方法、評価基準は教官が決め、厳重に情報は管理されているらしいが、それ以外の細かな、例えば今回行われる組分けのメンバー決め、とか。
「今回行われる組分けに関しましては、戦力の分散を目的としています。上位三十名が集まると、戦力差に不公平が生じますので」
「今回は、みんなそれぞれ一名のみ、二年、それから一年の中からドラフト式に選び、残りはここにいる人以外でランダムで組み分けを行うよ」
うっそりと色を含んだ笑みを深める、序列一位。犬飼翠。
彼に対して、手を挙げる者が一人。
「第一期の時は、一部に上位三十名の内何人かが固まったグループができていたけどよ、それに関してもそういう話をしたのか?」
日向葵ぃぃぃ!!
おま、お前! 怖い物知らずか?! 何意見してるんだよ、十位にも入ってないのに!!
傍から見ているだけなのに、思わずビクビクしてしまう。
しかし、それに気を悪くした様子もなく、四位の春野は淡々と答える。
「それに関しましては、その当時の話し合いで完全ランダムで組み分けを行うと決定いたしました。その当時に今回のようなドラフト式と決まっていれば、そのとおりになっていました」
「そゆことー。まさか、まだ入学していない一年生のことを選ぶわけにもいかないしねん」
緩い口調で相槌を打つ、序列三位。音成瑪瑙。
掴み所のない雰囲気を持つ彼女は、なぜか手で狐の形を作っている。
「今回ねぇ、ウチ、夏ちゃんもらいたいな!」
「夏ちゃん……?」
初めて、優等生の四位に、困惑の色が見えた。
「んっとねぇ、天嶺空ちゃんよん」
四位が目の前のノートパソコンをカチャカチャ弄る。
その中に生徒情報でも入っているのだろうか。
やがて見つけたらしい個人情報に、彼女は「ああ」の納得声。
「一年の天嶺空さんですね」
「そそ」
「最近お気に入りのようですものね」
パソコンに何事かを再び打ち込み始める四位。
「妹ちゃんか。いいね、ボクも立候補してもいい?」
「は?」
こわ。
さっきまでのゆるふわ口調はどこに行った、三位。
「なに、喧嘩売ってる? 買うよ?」
「ふふふ。そんな事あるわけないじゃないか」
「同じ人を取り合うとなると、決定権は犬飼さんにありますが、どうしますか」
淡々と事務的に進めていく四位。
彼女の言葉に、一位は大袈裟に肩を竦めてみせた。
「そうだね。……まぁ、今回は辞めておこうかな。なにより妹ちゃんには嫌われているようだからね」
「ザマァ」
煽ってる煽ってる。やめてくれ、その影響はこっちにまで波及するんだ。
「それならボクは陸を指名しようかな。同じ天嶺の陸。今回は見た目も武器になりうるから、天嶺の誰かは欲しいよね」
「天嶺陸、決定でよろしいでしょうか」
「それでいいよ」
「ウチ、そのまま夏ちゃんでよろしくぅ」
理解ができない。
二人のやり取りもそうだけど、周りにいる人たちの反応が。
こっちはまるで、目の前に着火済みのダイナマイトが投げ込まれた心地でいるのに、どうしてそんな平然としていられるんだ。理解ができない。
「序列二位は……」
「ウチ伝言預かってるよん。もし間に合わなかったら、後回しにして決めてくれって」
「承知いたしました。では次はわたしが……」
四位の春野が指名をしようとした瞬間、会議室の扉が開いた。
室内の視線が一斉にそちらへ向かう。
「あーっ! リオちゃんやっと来たぁ!」
「遅かったね、リオさん。今回の案件、難しかったのかい?」
三位と一位が、口々にその人物へ向かって声をかけている。
(絶対リオちゃんって風貌じゃねぇ!)
戦々恐々とする。
『リオちゃん』と呼ばれたその人物は、筋骨隆々。もしかすると、天嶺の長男よりも、ガタイがいいかもしれない。
身長だって、二メートル超えていると思えるほどの巨漢。
研究職として期待を寄せられているこの人物は、普段は自衛軍の研究室に入り浸っている。
学校側も、特例でそれを認めている、稀有な人物。
そのため、普段姿を見ない、言葉を選ばず言うなら『レアキャラ』。
(序列第二位……! 苅尾 大五郎!)
オレは彼を初めて目にする。
多分片手で頭くらい潰せるだろう屈強な肉体から、野太い声で。
「瑪瑙ちゃぁん! 翠ちゃんも久しぶりねぇ!」
……女言葉が、飛び出した。
(オネエかよ!)
思わず机に突っ伏しそうになるギャップ。
奇行はなんとか堪え、成り行きをただ見守る。
「遅れてごめんなさいねぇ。ワタシの番は過ぎちゃったかしらん?」
「はい。先に序列第三位、音成瑪瑙が指名したところです」
「あら、思ったよりも進んでなかったのね」
良かったわぁ。
安心した風に胸を撫で下ろす二位。
「どなたかご希望の方はいらっしゃいますか」
「うーん……。それなら少し調べてほしいんだけど」
二位が四位に、何事かを告げている。
コクコク頷きながらパソコンを操作する四位。
やがて、ひとつの情報を二位に見せていた。
「あらぁ。このコいいじゃない」
「こちらの方でよろしいでしょうか」
「いいわよ」
ひとつウインク。
少し胸が詰まりそうなその行動。
後の言葉に、会議室が少しさざめく。
「ワタシは天嶺海を指名するわ」
これで、天嶺の姓を持つ三つ子が、序列一位から三位までに独占された。
(天嶺って、何者だよ……!)
上位陣と同じくらいの得体の知れなさを、吐き気すら伴って、鳥肌が立つ感覚を感じることしかできなかった。




