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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘2〙郷里、夏にて
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第三十七話 夏の夜の空、散る花に 2

「いたいた! 眞鳥さーん!」

「あっ、空ちゃん!」

「お待たせ! 眞鳥さん浴衣可愛いー!」

「空ちゃんも! 自分で着付けたの?」

「おばあちゃんにやってもらった! だから着崩れたら即アウトの真剣ミッションをやってるの」

「ふふ、なにそれ」


 小さく笑う眞鳥さん。

落ち着いた大人の雰囲気。

着ている浴衣もシンプルで、でもそれが眞鳥さんの色気を際立たせている。


「陸、似合ってるじゃん」

「おー」


 眞鳥さんは陸の着流しを褒めている。

そうだろ、そうだろ。海もめちゃくちゃ似合ってるんだぞ。

私はこっそり鼻高々と胸を張る。


「花火が七時から。それまで屋台で遊んだりつまみ食いして時間潰す感じで。いいな? 陸?」

「合点」


 腕を上げる敬礼を、おちゃらけて軽い調子で披露する陸。


「陸ってば、お巡りさんみたい」

「どっちかってーと軍人かな」

「……マジ?」


 眞鳥さん、固まった。

大人の雰囲気が崩れて、学生時代の顔がチラッと覗いてきた。


「大マジ。通ってんの、士官学校ってとこ」

「そうなんだ。……知らなかった」


 眞鳥さんが少し落ち込んでいるように見える。

彼女は顔を上げて、私たちを見渡す。


「もしかして、二人も?」

「そうだよ。我ら、士官学校一年生!」


 ブイサインとおちゃらける。

眞鳥さんが、心配そうな表情を浮かべている。


「危なくないの?」


 どうやら眞鳥さんは、軍に関してあんまりいいイメージは持っていないらしい。


「んー……。大変なこともあるけど、なんとかやってるよ」


 私はイエスともノートも言わずに、濁して伝えた。

眞鳥さんは多分察してる。困ったように眉を下げていた。


「それより、早く屋台行こ! 人気なところ、もう列できてるよ」

「そうだね。二人も行こう」


 聞かないことを選んでくれた。

そのことに内心で感謝をして、私は眞鳥さんの手を引いた。


「陸も海君も、射的上手いね!」


 眞鳥さんに褒められても、眉毛ひとつ動かさない海と、当然。と口に出す陸。


「授業で叩き込まれてるからな!」

「動かない的に当てるのは簡単だよ」


 あ、違う。

なんとも思ってないんじゃなくて、得意気になっていることを隠してる顔だ。私には分かる。


「空ちゃんは……。ごめん、荷物いっぱいだったね」

「欲張って買いすぎた」


 私の両手には、たこ焼き、焼きそば、フランクフルトとフライドポテトと……。

さっき眞鳥さんに、よく食べるねぇ。って呆れられた。だって、全部美味しそう。


「持っておくからやってみれば?」


 射的の模造銃を置いた海が、私の手から食べ物を取っていく。

もう既にお金払っているみたい。

屋台のお姉さんがニッコニコで待っている。


「……仕方ないなぁ!」


 見てろー! と銃の前に立つ。

照準を合わせて、合わせて……、合わせ……。


「陸ー」

「なんだ」

「スコープどこにある?」


 なんてことだ。

私はスコープがないと照準を合わせられなくなっていた。


「あるわけないだろ。試験どうしてたんだよ……」

「だってスコープ、超便利……」

「ハンドガンはスコープないでしょ」

「ハンドガンは対象が近いから……」


 二人から呆れられた。

そんな目で見るなー。


 二学期以降の課題を見つけつつ、私は射的を無難にこなした。

チョコ菓子もらった。やったぁ。


「射的のぬいぐるみって重いよね」

「そうだねー」

「涼しい顔してでっかいぬいぐるみ取ってる陸と海はおかしいと思うの」


 眞鳥さんと並んで歩く。

その後ろを二人が着いてきている。

眞鳥さんと私の腕には、それぞれ大きなウサギとクマのぬいぐるみが抱かれている。

陸が取ったウサギのぬいぐるみは眞鳥さんに。海が取ったクマのぬいぐるみを、私がもらった。


 腕にフワフワの感覚。

湿った夏の夜の空気。

じっとり汗ばんできた私は、目に入った屋台の前で立ち止まる。


「金魚すくい」


 見上げた屋台の文字を読む。

描かれた笑顔の金魚と目が合った。


「やるのか?」


 陸が財布のファスナーを開けている。

払ってくれるらしい。


「やってみよっかなぁ……」


 ふらふら、吸い込まれるように引き寄せられたそこには、白くて四角い容れ物に、色とりどりの金魚が泳いでいる。


 赤色、赤色、赤色と赤色。黒色、黒色、赤色、黒色。

多くが赤と黒で埋められているそのプールに、一点。真っ白な点が見えた。


「白い金魚だ」


 思わず呟いた言葉に、屋台の店主が反応する。


「ソイツな、オレがこの夏に屋台やってる間、ずっと捕まっていない、このプールのヌシだよ」

「ヌシ……!」


 キラキラ見上げる。

もう既に、陸が硬貨を店主に握らせているところだった。


 ポイを渡される。ひとつ。

袖を捲ってやる気の姿勢。

ポイを右手に、器を左手。

白い金魚の傍らに差し込んで――。


「あぁっ! 何この金魚!」


 ――力強く尾鰭をぶつけ、ポイを破って逃げていった。


「おじちゃん! この金魚人間が入ってる!」

「入ってねーよ。もう一回やるんか?」


 ニヤニヤ笑いがムカつく店主に、硬貨を一枚渡す陸。


「今度、俺やるわ」

「おっ。にーちゃんか。一回でいいか?」

「お試しだから、それでいいよ」


 陸がしゃがむ。

水面に映った顔は、結構真剣。


 さっきの白い金魚を探す視線は、あっちにこっちに行ったり来たり。


 やがてその目に捉えた白い金魚は。


「え、なんかこっち来てるんだけど」


 陸の目の前で止まった。

陸も気負わず、ひょいとポイを差し込んだ。


「なんか大人しく捕まってるんだけど?!」


 器の中でゆらゆら泳ぐ金魚は、時折首をもたげて水面から口を出す。

魚相手にこう思うのもおかしいかもしれないけれど、私はピンときた。


 この金魚、面食いかよ。

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