第三十五話 想い継ぐ夢、遊園地 3
潜水艦バイキングから離れてしばらく。
私たちは今。
「空、お前それ食えるのか?」
ギョッとした陸が指差す先は、私の両手と胸の真ん中。
「せっかく用意してくれていたんだから、食べないと申し訳ないでしょ」
「いやいやいや。社員の人たちも希望者が昼に買いに来るって言ってただろ?」
片手にたこ焼き。同じ手に焼きそば。
もう片手に袋に入ったフライドポテト、とん平焼きとエトセトラ。
首からはポップコーンバスケットが下がっている。このテーマパークのモチーフデザイン、飛行機、船、潜水艦。それから戦車とBEAST戦車の五パターンから選べるデザインバスケットは、飛行機の絵柄を主張している。
何を隠そう、ここはテーマパーク内の屋台街。
今回はお試しで、祭屋台で出てくる食べ物を揃えていると金谷さんは言っていたが、今後、食事にも改良は加えられるし、テーマパークのビジュアルなどに沿った企画メニューも展開する予定だとも言っていた。
屋台も、今は祭屋台っぽくテントを張っているけれど、今後は世界観に合うキッチンカーなどの箱を用意する、ってことも展望していたなぁ。
今度来る時が楽しみだ。
「あっ。あとチュロス食べたい」
「まだ食うんか」
半ば呆れ顔の陸。
塩味が効いた変わりフレーバーのチュロスを片手に、私、ご満悦。
「陸も早く買ってきたら? ショーが始まっちゃうよ?」
「わぁったよ。食えなくっても手伝わないからな」
「いいよー」
ひらひら振る手がないから、代わりに焼きそばとたこ焼きを持ち上げた。
「空」
「あ、海……。こーれはまた大量だぁ」
私なんか目じゃないくらい、海が買ってきたご飯の量は多かった。
私の買ってない物も買ってる。食べきれるのか、こんな量。
訝しんでいると、海は肩を竦めた。
「陸の分。どうせアイツのことだから、空の残飯処理に徹すると思ったし」
「えっ」
「え?」
私は恐る恐る屋台街の方を指差す。
「陸、自分の分買いに行っちゃったよ?」
「……」
海は二度、手の荷物と屋台に視線を彷徨わせ。
「……食べ切れるだろ、陸なら」
なんて潔い放り投げ方。
でも、多分。って最後に小さく呟いた言葉、私は聞き逃さなかったぞ。
「おーい。……まあ、こりゃ大量」
「同じこと言ってる」
陸も海の荷物を見て感じる感想が同じなこと、私は嬉しいよ。
「……あれ? 陸、それだけでいいの?」
戻ってきた陸を見て、目が点になった。
私のものより、海のものより大きく筋張った手に握られているのは、りんご飴ひとつだけ。
「さっき、海、色々買ってたの見てたからさ。どうせ食べきれないだろって思って」
「なんという以心伝心」
「空、りんご飴」
「ありがとー」
見事に噛み合って、結果ちょうどいい量になりそうだ。
私はりんご飴を荷物の隙間に挟んで持った。
腕から零れそうなくらいに大量の荷物を分け合い、三人で分担して持つ。
「早く早く、ショー始まっちゃうよ!」
やや駆け足気味に急かすと、海から冷静なツッコミが入る。
「まだ時間あるよ」
「でも、多分待ってくれてるんだよ?」
「あんまり早いと準備できてないんじゃないかー?」
海を急かし背中を押すけど、背後から陸の制止が入った。
はた、と止まった。
「そっか、準備の時間もあるもんね」
「本来の開始時間までまだあるんだから、のんびり行こうぜ」
「僕も最初に言ったよね?」
海にジト目で見られた。
視線を明後日の方向。
吹けない口笛まで合わせて、彼らの呆れの感情を助長した。
「……食べる? ポップコーン」
「誤魔化そうとしてる?」
「いやぁ、ははは。まさかまさか」
そういう考えもある。うん。
ショー会場までの道をのんびり、のんびり歩いていく。
テーマパーク。そういう名前の遊園地。
ここに、三浦ちゃんとか、眞鳥さんとか、茂庭さんも一緒にいたら楽しかったかな。
瑪瑙先輩は意外と絶叫系苦手かもしれない。
日向先輩はキレながら何回も乗ってそう。荒太先輩は……。多分笑いながら見ていそう。
あまね先輩は、どうだろ。
ワチャワチャはしゃぐ人たちの引率役かな。
(それから……)
ママがいたら、一緒にはしゃいでくれたかな。
パパがいたら、完成間近の園内を案内してくれたかな。
(なんて)
そんなもしもの、意味ない話。
「どうした、空?」
「お腹痛い?」
もしもを夢想していた私は、いつの間にか歩調がうんと遅くなっていたらしい。
立ち止まり、振り返る二人に、にっこり笑って首を振った。
「なんでもなーい」
二人は顔を見合わせて、そっか。とどちらともなく言った。
友達とは、きっとまた機会がある。
その時を楽しみに、私は二人の腕にじゃれついた。
ちなみにショーはすごく派手だった。
既にプロトではない獣型戦闘機、BEAST。
彼の大砲部分から花火が打ち出された時は、今が夜じゃないことをひどく悔やんだ。
金谷さんも、「この演出は夜パート向けだな」って言っていたのが耳に残っている。
はしゃぎ疲れて眠る車内。
私たちの夏休み。その一日が終わる音が、ヒグラシの声で寂しそうに彩られた。




