第三十四話 想い継ぐ夢、遊園地 2
「わぁーっ! たかーい! 陸ー! 海ー! 見てるー?!」
陸と海。案内役の金谷さん。地面に点々まるで豆粒。
表情は見えないけど、多分苦笑いか呆れてるか笑っている気がする。
陸はカメラを持ってきていたから、多分構えていると思う。
戦闘飛行機を模したアトラクション。
模した、というよりは、実際に機体は使われている。
ただし、安全装置として好き勝手な方向に飛び去らないように固定をされている。
その間で、好きなように操縦をすることができるアトラクション。
小さな子でも操縦ができるように、操作は単純化してあって、だれでも直感で動かすことができるようになっていた。
戦闘飛行機のシミュレーションは授業で行った。
それに伴う小テストも。
だけど、実際に機体に乗ったことは、実は入学前に一度。
私たちの行く末を案じた大人たちが、彼ら自身の持つ、ありとあらゆる知識や技術を叩き込んでくれた時に、一度。
それから、実技小テストのもう一度。二回だけ。
ああ、やっぱり
「たっのしー!」
私、飛行機に乗るの好きだなぁ!
私の目の前にはきっと、たくさんの選択肢があったはずなんだ。
私は。私たちは、結局自衛軍に志願したけれど。
私はキャビンアテンダントになれた。通訳者になれた。助手を経ての教授になれた。祖父の会社を継ぐことだってできた。きっと旅客機のパイロットにだってなれた。
多分、普通の人よりもたくさんの、本当にたくさんの選択肢があった。
この道を選んだことに後悔は一切ない。
だけど、たまに感傷に浸るときくらいはある。
感傷に浸って、選ばなかった未来を夢想して、そしてまた前を向く。
時折襲い来るルーティンが今来て、少し驚いた。
楽しいと思っている時に来るとは思わなかったから。
「たーのしかったぁ! カナさん、次は何があるの?」
そんな感傷をひた隠し、私は普通の女の子みたいに笑うのだ。
「次はー……。そうだなぁ、何がいい?」
「何かあるのかも分かってないのよ」
「だよなぁ。射撃射的、戦闘機ショー、潜水艦バイキング」
「バイキング?! お腹すいた」
「いや、食べ物のバイキングじゃないと思うぞ」
呆れた様子の海。
本気で勘違いした。ビュッフェだと思った。恥。
そんな私たちのやりとりを見て、金谷さんは豪快に笑う。
「そうかそうか! 確かに潜水艦の中で飯食えるのはいいかもなぁ! 飯処の案で出してみるな!」
「できたらまた来るねー!」
きゃいきゃい未来の展望にはしゃいでいる内に、件の潜水艦バイキングへ到着した。
大きなプールがあって、その中に潜る形で潜水艦が沈んでいる。
上部が出入り口になっているみたいで、私たちはそこから入り込む。
「それじゃあ、行ってきな!」
「あれ? カナさんは?」
「オレは操縦。これ、外から運転開始しないと動かないんだよ」
「遊園地のアトラクション方式で動かしているんだ」
納得声の海が頷く。
金谷さんは、そういうこと。と肯定した。
「オラ、席座れー。座ったら椅子に取り付けてある安全バーを降ろしてな」
「ジェットコースターみたいな拘束具だな」
安全バーを降ろして、陸が感想を呟いた。
「ちゃんと嵌っているか確認するぞー」
「アイサー」
金谷さんが降りてきて、一人一人の安全バーが動かないことを確認する。
他の座っていない席のバーも全て降ろし、彼は外へ出ていった。
「閉まったねぇ」
「閉まったな」
「ねえ、これさ」
「なんだい、海」
「こんな拘束具が設置されてるってことは……」
海がバーを前後に揺らす。
動かないように固定されたバーが、ガチャガチャ音を立てる。
「――絶叫系って、やつじゃない?」
海の懸念。同時。
動いた。
「お?」
「わ」
「き」
上がる。上がる。上がってく。
水の中から外に出て、空が窓から見えている。
天辺まで辿り着いた潜水艦は。
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
勢いよく後退して、水の中へ逆戻りした。
逆戻りした潜水艦は、勢いをつけて後ろへ後ろへ下がっていく。
そうして天辺まで辿り着いた潜水艦が、更に勢いをつけて真っすぐ前へ落ちていく。
そうしてまた天辺へ。
前へ後ろへ、行ったり来たりの軌跡を残すフリーフォール。
「速い速い速い!」
「うおおおおおお!」
「あばばばばば」
海が冷や汗を流し、陸が叫び、私はあばあば言っていた。
やがて、潜水艦は止まる。天辺で。逆さまになって。
「いーやな予感がすーるよー?」
垂れる冷や汗。飲む生唾。
――動き出す、潜水艦。
「うわあああああっ!」
「ぎゃあああっ!」
「あっはははははは!!」
一周回って笑えてきた。
散々グルングルン回った潜水艦は、散々叫んだ私たちを乗せて、ゆったりとその動きを止めた。
「つ、疲れた……」
普段叫ばない海がぐったりグロッキーに呟くと、安全バーの拘束が緩む。
同時に、出入り口から金谷さんが顔を覗かせた。
「どうだった?」
元気な声。
私たちとは対照的に。
乾いた笑いが口から漏れる私たち。
私は、ひとまず文句を言った。
「絶叫系なら、先に言えー!!」
「はっはっはっはっ!」
上機嫌に笑う金谷さんの手に掴まって、一人ずつ潜水艦から出る。
足がガックガクだよ。
「アトラクションとしてはどうだった?」
ほんの少し落ち着いた私たちに、問いかける金谷さん。
「絶叫系って分かっていれば楽しいと思う」
って、私。
「水の中を潜るのは新しいと思うけど、あんまり外の景色とか見る余裕はなかったかな」
と、海。
「あと金谷さん大変そうだったな、安全バーの確認。一旦降りてまた上がってって」
なんかうまいことできないかな。なんて、陸。
金谷さんはひとつひとつをメモに取り、そのメモをパタンと閉じる。
「……思っていたよりいい意見が出てきたな。よし。この意見は本番プレオープンまでに解消できるように相談してみるよ」
金谷さんは、満足そうな顔をした。




