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空は、まだ咲いていた  作者: 宇波
第一章 自衛軍士官学校 〘2〙郷里、夏にて
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第三十三話 想い継ぐ夢、遊園地 1

祝☆100話目到達です!

「あっ! カナさーん! 久し振りー!」

「おお! 嬢ちゃん! 元気してたかー?」

「元気元気ー! 糸井ちゃんは?」

「子供の連休に合わせて長期連休取得中なんだよ」


 白髪が思い切り増えて老人然としている金谷さんが出迎えてくれたのは、祖父母の会社の出入り口。

確か、定年退職一歩手前だったか、シルバー雇用で働いているか、どっちかだった気がする。


「そろそろ身体労ったら?」

「嬢ちゃん、本当に母ちゃんに似てきたな、その物言い……」


 呆れたように呟いて、次いでハッとその言葉を止めた。


「悪い」


 やっぱり、大人たちは私たち(子供)を気遣っている。


「大丈夫だよ」


 そう返した私の表情に、いったい何を見たのだろう。

へにゃり、情けなく眉を下げた金谷さんに、私はそれより、と振り返る。


 金谷さんを見た瞬間、脇目も振らずに走ってきたから一瞬忘れていたけれど、放り出して置いてきた二人のことを思い出したのだ。

みんなで揃って挨拶をするって約束を忘れてた。

荷物も持ってもらってる。反省。


「そーらー……?」


 地の底から響くような声が聞こえてくる。

ピャッって跳ね上がって、恐る恐る視線を上げる。

笑っているのに笑っていない、陸の顔がそこにいた。


「ぼ」

「なんだ?」

「暴力はんたーい……」


 なーんて……。って言うと、拳骨が降ってきた。痛い。


「おーい、陸坊、暴力は良くないぞ」


 金谷さんが呆れてる。

そーだそーだーって囃し立てると、ギッて睨まれた。黙った。

 陸は頭を掻いて、ほんの少しの反省を滲ませた声音で金谷さんに返す。


「すみません。いつものノリで」

「いつもこんなノリなのか?」

「手加減は覚えたので……。ご心配には及びません」


 金谷さんに頭を下げて、謝罪と弁明を行う陸。

私は陸が丁寧な物言いをしていることに驚いた。


「翠先輩仕込みか」

「なんか言ったか」

「なーにも」


 すんって口を噤んだ。

口は災いのもと。私、覚えた。


「二人とも、先に挨拶」


 背後から海の声に促される。

私たちはハッとして、姿勢を正す。

ザッと揃った動きに、金谷さんがびっくりした表情を浮かべている。


 代表して、陸。


「金谷さん。本日は我々の見学を受け入れていただき、感謝いたします」

「感謝します」

「ありがとー」

「空」

「感謝いたします」


 ちょっと空気を和らげようと思った挨拶は、さすがに咎められた。

言い直した。ごめんて。


「……ご迷惑をお掛けしますが、ご指導のほど、何卒お願い申し上げます。敬礼!」


 私たちは腰を曲げてお辞儀四十五度、最敬礼。

揃った動きに、金谷さんはいっそ感心したようにため息を吐いた。


「鍛えられたなぁ」


 染み染み呟かれた言葉に、たっぷり五秒。

私たちはにんまりと顔を上げた。


「入ってすぐは毎日これでした」

「敬礼の腕を上げるの、何十分も上げっぱなしの時もあったよね」

「多分腕の筋肉はあれで鍛えられた」


 思い出してげんなりすると同時、敬礼の形は身体に染み付いていることを自覚する。

敬礼の号令があれば、いつ何時、揃った敬礼を披露できる自信があるから。


「……ま、でも、ここにいる間くらい、肩肘張らずに気兼ねなく過ごしても許されると思うぞ?」

「えっ、いいの? やったー」

「適応が早い」


 金谷さん、苦笑気味。

そうして彼は、隣の二人に視線を向ける。


「童心に返っている嬢ちゃんもいることだし、二人も少しくらい気ぃ緩めてもいいんじゃないか」


 二人は私を挟んで視線を合わせている。

やがて、遠慮がちに、なら。と呟く。

呟いたのは、どちらが先かは分からないけど、さっきまで敬語だった陸はあっという間に仮面を崩した。


「金谷さん! お世話んなります! 随分小さくなったなー!」

「わっはっはっ! 遠慮なさすぎ」


 縮めー! なんて金谷さんと陸がじゃれている。

屈めさせられた頭を無遠慮に撫で回されている陸は満面の笑み。

満更でもないようだ。


「金谷さん、陸のやつ、確か二メートル超えました」

「マジかおめぇ……」


 海のリーク。

ギョッとした顔で、金谷さんは陸を見上げた。


「言っても、海坊も身長伸びたかー?」

「まあ、はい」

「平均より高いだろうからよ。誇っていいんだぞ」


 金谷さんは、海の頭もぐしゃぐしゃ撫でた。

その視線はそのまま私に。


「嬢ちゃんは……」

「えっへん」

「縮んだか?」

「がーん」


 冗談だよ、と笑いながら、金谷さんの手が私の頭も撫でる。二人にしていたみたいに、無遠慮に。


「でも私、腹筋割れたんだよ!」

「おおーっ?! 全然イメージつかないな?!」

「でも陸はもっとムキムキ。シックスパック超えてエイトパック」

「なんとなくイメージつくな?」


 キャッキャ話しながら、昔よりも歩調が遅くなった気がする金谷さんの歩幅に合わせて歩く。


「金谷さん、あれからどれくらい進んだの?」


 私が彼に問いかけるのは、この会社で企画されていた、軍需生産によるテーマパークの建設。

戦車も戦闘飛行機も、戦う以外の道を示したい。

亡き父が抱いていたそんな思いを、形にしたテーマパーク。


 質問を受けて、金谷さんはにやりと笑った。


「聞いて驚け。……今日はこの三人のための、プレオープン日だ」

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