09. 遊び
2歳になった。相変わらず誕生日祝いなどは特にない。遊び相手はライアンに加えて、最近はほかの家の子供とも遊ぶようになって世界も広がった。
村の女性たちの寄合所に母セレナが俺と弟のオーシャンを連れて行ったためだ。そこでは集まって針仕事や洗濯をしながら、子供をまとめて面倒を見ている。それまでうちの母セレナは文字を読めることもあって、父の手伝いを主にしていた。だが、俺に加えて先日生まれた次男オーシャンの世話も増え、乳母メアリーの勧めもあって子育ての集まりに顔を出すようになったのだ。
村には意外にも子供が多くいた。今までの記憶で言えば、俺の村の規模はせいぜい百人くらいだったはずだ。そのなかで子供は十人くらいの男女がこの場には集まっていた。つまりほぼ全員といえるだろう。
俺はやり直しの影響で表情筋の死んだ不愛想な子供の自覚があるのだが、その子供の中でも年下のせいか自然と遊ぶ相手に囲まれていた。一緒に遊ぶ子供はもちろん身体強化は使えないため、ライアンとやっているような遊び方はしない。普通の遊戯だ。下手に動く遊びをするとライアンが魔力ありきの遊びをやりたがるため、寄合所にいる間俺は専らおとなしい遊びのグループに逃げていた。手遊びやごっこ遊びの類だ。結果謎に女の子には可愛がられる。なぜだ。お礼におぼろげな記憶で作った花冠を渡すと更に幼女達に囲まれて、教えを請われるまま花冠を作り続けた。おとなしい組がみんな花遊びに夢中になったので、そのあとの寄合所の庭の花はまたたくまに摘みつくされることになった。すまない、野草。まあ雑草だしいいだろう。
きゃいきゃいする女児とプラス幼児に男子達の間に少々険悪な空気が流れかけたが、陽気なライアンの一声で外で鬼ごっこが始まった。気がそれて助かった。ありがとうライアン。
単純なもので外遊びに参加した子供たちは夢中で走りまわっている。
あ。
ライアンが魔力操作を使ってる。
俺より強く使えてるわけじゃないがあれから無意識にライアンは操作能力を上げていっていた。そんなに目立つほどではないが4歳児にしては圧倒的な身体能力だ。鬼になったライアンはあっという間に逃げ惑る子供を次々と捕まえていった。今度は逃げる方に回っているのだが、あいつ5メートルくらいの木の枝に上ってやがる。当然鬼は届かない。
ライアン、それ俺と一緒のときによくやるやつじゃないか。俺なら登ってついていくけどそれは本来同年代に求めるものじゃない。案の定いっしょに遊んでいた男子達は諦めてライアンのいる木から離れていった。友達いなくなるぞライアン。
初めは自分の独壇場で調子に乗っていたライアンも、みんながいなくなって心細くなっていたらしい。木の上で見るからに寂しそうな顔をしている。しょうがないので俺がライアンを迎えに立ち上がった。俺が近づいていくと明るい顔をしてなぜかさらに上の枝に登っていく。なにやってんだあいつ。
いつもなら俺も登って迎えに行くのだが、今日は不特定多数の目がある。よってやらない。といってもあんな所にいるライアンを見られてもちょっと問題だ。
俺は地面に転がっていた石を拾いライアンのいる枝の根元に狙いを定めた。体の隅々に意識を巡らせながら魔力を流し、期を見て石を投げる。2歳児の腕から投げられた投石は狙いを違わずライアンのいる枝に命中し、衝撃で枝ごと奴を落下させた。予想通りの流れにタイミングを合わせて俺は落下するライアンに向かって飛び出す。空中でいい感じにライアンをキャッチし、落下しながら空中で下半身に強化を重ね、地面との衝突の衝撃を緩和する。
はじめての空中キャッチだが、うまくいったようだ。
過去の自分が培った技術を体は幼児ながら使えたことに満足していると、流れで姫抱きにしていたライアンがキラキラした目でこっちを見ていた。
これはめんどくさい顔だ。これは新しい遊びを見つけたような眼をしている。
いまにも質問攻めをはじめそうなライアンに、危機感を感じた俺はさっさとライアンを地面におろし、女子たちの囲いに逃げ込んだ。
囲いの外でライアンがうるさくしていたが、無視して子供の社交を深める。前世からの人見知りを直していく重要な時間だ。俺はそうやって一番の幼馴染を無視して、その日は花遊びで1日をやりすごした。
後日詰められたライアンにまたこつを教えるはめになったけれども。