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72. 侯爵家の訓練場

 それからは、訓練の合間をぬっては抜け出しては出会った裏庭でファリーダと会うようになった。


 二人でいるときには魔力の操作練習をしたり、侯爵領の森林軍について聞いたりしていた。

 ファリーダは魔力操作を精霊と契約してから魔力操作を習い始めたらしく、専門の教師もいるらしい。さすが代々精霊の契約者を排出してきた侯爵領は、積み上げてきた魔法のノウハウがあるのは良いなと思った。このクルトの邸宅にも敷地内に魔法の訓練場があるという。


 一般的に精霊と契約して魔法を行使する魔法使いは、俺のような魔術使いより魔力操作を厳密に操作する必要はない。

 必須なのは体内魔力を体外に出すだけで、他は精霊が助けてくれる。魔法陣を作成する必要がある魔術師とはそのへんの難易度が異なる。まあ精霊に契約してもらうこと自体珍しいので数は少ないのだが。

 俺はついぞ契約できたためしがないので本当にうらやましいことである。


 ファリーダもその例にもれず、魔力操作は必ずしも必須ではない。でも彼女が熱心に聞いてくれるのでつい俺も聞かれるままコツや身体強化についていろいろと話してしまった。


「よかったらアウルも訓練場来る?あそこは家の人しか使わないからいつでも空いているのよ」

「え、いや俺は部外者なんでだめでは?」

「いいのよ!ここでは魔法も出せないし。私も少し前より得意になった気がするから試したいと思っているの!」


 互いにすっかり気を許すようになったある日、ファリーダがその侯爵家の一族専用の訓練場に誘われた。

 正直侯爵家の家の訓練場はすごく興味がある。昔ファリーダといた時は、俺も彼女も一般的な兵士だったしもちろん階級が違うのでもちろん住む場所も別々だった。

 今もそれは変わらないが、俺がまだ子供なこともあってだいぶ警戒心がないのか、思いがけず気軽に誘ってくれたようだ。


 俺が入るのは正直まずいという思いがぬぐえなかったのだが、ファリーダの粘り強い誘いと結局好奇心に勝てず、最後に親戚は外出中という言葉に折れて少しだけお邪魔することになった。

 最悪邸宅の使用人にばれることは覚悟しよう。彼らはなんだかんだ侯爵家で一番年下のお嬢様に弱いし。


 ファリーダがいつも抜け出すのに使っているという隠し道を通ると、あるところから整えられた庭や回廊を横切るようになった。おそらく貴族の生活圏内に入ったからだろう。よく抜け道をみつけたものだな。


 そう思いながら使用人が普段使っているであろう低い木扉を通ると、その先には広場が広がっていた。

 地面は先ほどまで通った庭の草木や石畳があるわけではなく、赤土が敷き詰められている。奥の壁の近くにはいくつか的が用意されていた。ここが訓練場らしい。さすが侯爵家、敷地内なのにこんなに広い場所があったんだな。

 

 的が藁人間ではなく魔獣の絵が描かれているのがクルトらしい。

 反対の壁際には模造剣や盾が立てかけられており、ほかにもいろいろ備品があった。


「早く来て!いつもここからの距離で練習するの!」


 興味深くてついキョロキョロと見渡していると、ファリーダはもう射場に位置取って俺を呼んでいた。地面にはいくつか線が引かれており、距離が定められているらしい。彼女は屋根のある一番的から遠い線のかかれた場所にいて、汚れてもよい上着を簡単に羽織って、俺を呼んでいた。


 さいわい訓練場には誰もいない。ファリーダと俺がここにいるのがばれるにしても、しばらくは使えるだろう。


 ファリーダの後ろに陣取ると彼女は俺の位置を確認して魔力を練り始めた。ついでにとなりにいるはずの契約精霊コハクに話しかけている。魔法使いらしい初動を久しぶりに観察していると、詠唱が終わったのか、指先を前に出し、的に狙いを定めて魔法を放った。


ドゴォォォォン!!!


 ファリーダの得意な風魔法が的に命中する。轟音を立てて目標の的は砕け散った。的はここからだと随分小さくみえる距離だったのだが、余裕をもって届いていた。


 これがファリーダの騎士姫と呼ばれる所以だ。


 この威力のやつを王都の演習会でデモンストレーションの場で放ったことで貴族社交の中で話題になったらしい。子供ながら身長も高く、男装の儀礼服を着ての演出だったため、都の令嬢達のなかでいつのまにか騎士姫というあだ名がついていた。


 今回の兵舎でも前回の人生でも伝聞でしか知らないのだが、平民の俺にも伝わっていると言うことは結構な評判だったらしい。

 元々女性の憧れの的だったのだが、実際成長するにつれ戦場でも破格の活躍をするようになったので騎士姫という二つ名には実も伴ってくるようになる。


 今はまだ実践に出ていないのだが、目の前の威力を見るに今から彼女もそんな風に成長していくのだろう。


 今世で久しぶりに見る他人の魔法を感心しながら見ていると俺の反応が薄かったのか、ファリーダが不満そうにしている。

 十分すごかったので素直にそれを伝えると少し機嫌を直してくれた。美少女が怒る顔は普通にかわいかった。妹も母さんに似たらこんな感じに成長するかもしれないな。


「でも思ったより威力が強くなっていて驚いたわ。教えてもらった魔力操作のおかげかしら?」

「お嬢様の精霊魔法の精度が上がったのでしょう」

「もう、ファリーダと呼んでと言ったでしょう?まあいいわ。アウルは身体強化ができるのよね。せっかく訓練場にいるのだから実際に見たいわ。」

「いやあれは見せるようなものでは、それにお嬢様の魔法を見たあとでは大したことはないですよ」

「おねがい!お家の皆は直接戦うことはないからと教えてくれないの。見るだけでいいから!」


 魔力操作の訓練ばかりで俺自身魔術はまだ使いたくないため、気をそらすため身体強化の話をしていたのを彼女は忘れていなかったらしい。

 やるまでこの場所から抜け出せそうになかった。仕方ない。簡単に済ましてしまおう。そこらへんにあった刃がつぶされた短剣を拝借し、ファリーダの隣で構える。


 兵士の訓練でも使っているのでいつも通り体内魔力を操作し、的にめがけて腕を振って離す瞬間、身体強化を使って短剣を投擲する。

 力を上乗せした武器はまっすぐ破壊された隣の的に吸い込まれてトッと刺さった。もちろん魔術を使ったわけでもないので的が爆発することもない。さっきのファリーダの精霊魔法と比べると地味な結果だ。


「すごい!あんな距離を当てれるのね」

「ありがとうございます」


 それでも見た彼女は素直に喜んでくれた。変に才能を笠に着ることがないのも彼女が周りに好かれる理由だろう。

 この後彼女も短剣を投げようとしたので、慌てて止めることになったのだが。

 必死に彼女を止めていると、思わぬところから声がかかる。まさかさっきの爆音で使用人が様子を見に来たか?


「おやおや、ウチのお転婆娘は随分魔法が強くなったなものだな!」


気が付くと視界の外から野太い声の主が訓練場の壁にもたれかかっていた。

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