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68. クルトの兵宿舎

 その日兵宿舎に集められた少年兵は俺が最後だったらしく、隊長ぽい兵士が軽く自己紹介するとその後さっそく訓練が始まった。


 と言っても通達の通り、戦闘のために集められたわけではない。武器を持たされるわけでもなく当然鎧を着たりもせず、訓練は城壁の周りをひたすら走ると言うシンプルな体力作りだった。


 引率の兵士が先だって走り、その後ろにぞろぞろと一回り背の低い少年たちがついていく。13歳以上の男子ならばある程度体はできてきているが、筋肉はまだついて来ておらずひょろひょろの体格のやつが多い。ちなみにその中でも俺が一番小さかった。年齢の差はいかんともしがたいな。


 そしてとうぜん歩幅も体力も違い、更に常日頃から鍛えている兵士に全員がついていけるわけもなく、城壁を一回りするごとに少しずつ引き離されている人が増えてきた。


 俺はまあついていくことが出来るのだが、ただでさえ背中に変なものを背負っているチビなんて目立ちそうなので、身体強化も使わず控えめに走った。初日から目を付けられるきっかけをつくるのも面倒くさい。

 周りの速さを見ながら速度を調整し、日が暮れる前にその日は終わった。俺が兵宿舎についたのは午後だったので、時間としてはあっという間だ。でも一緒に走った少年一同はヘトヘトで壁に持たれたかかって息をついていた。


 日が暮れてから全員にパンと簡単なスープが配給され、食事を済ませると敷地内に並んでいる宿舎のひとつに押し込められる。

 今日俺と同じく集められた5人くらいは、その中でも奥の方の古い建物に案内された。期日的に最後の方に来たからだろう。


 中に入ると、二段ベッドが所狭しと並べられた空間に、それ以前に集められた少年達が既にいた。俺たち新人は狭い部屋の中でも更に狭い空いた寝床に押し込められる。


 ベッドが一人一つあるわけでもない。自然とせまい木の板に薄い布が敷かれただけの質素な寝床が今日の休息所だ。幸い寒い季節はすぎていたので凍えることはない。初対面ながら俺たちはぎゃあぎゃあ言い合いながら自分の場所を確保した。


 走り込みで疲れ切った少年たちはしかし、新しい環境になかなか寝付けないのか、一人が修学旅行の布団のテンションでひそひそと話し始めた。


「あーつかれた。これ明日もあるのかよ」

「なあなあ、お前はどこからきたんだ?俺らは南のアライ地区から一緒に来たんだけど、お前はちがうよな」

「俺は東の方、おふれがあったんだけど、ちょっと知り合いのことで出稼ぎにでてて、帰ってきたところだったからおくれたんだよな」

「なんだろなこの招集。俺なんて兄ちゃんは正規で招集あって、どっちもとられたから家の働き手がいなくなるって母さんが怒ってたぜ」

「なー俺の家も。なあそこのなんか背負ってるちびお前は?」

「ん?俺?」


 布につつんだウルアックスを壁に立てかけ、俺も休む準備をしていると、話していた子供たちに話しかけられた。一人の先輩少年に上から「うるせえっ」と言われたので、みんな一斉に声を潜めたが、そばかすのある一人は声を潜めてそれでも話をやめようとしなかった。


「おまえだよ。誰も知り合いいないんだろ。お前はどこの地区からきたんだ?」

「俺は西の壁際からだよ。ブラッドの息子のジャズパーだ」


 西側からだと言ってジャスパーの名前で自己紹介すると、西の区域に近い奴らの中には少し鼻を鳴らす少年もいたが、ほとんどはあまり土地勘がないのか、へーと特にリアクションもなかった。

 どうやらジャスパーを知っている地域の人はおらず、身代わり作戦もばれなさそうた。運が良かった。


「兵隊には秘密だけどよ。俺はまだ十二なんだ。でも外よりもこっちの方が食えるらしいから招集された人のふりして入ってやったぜ。だけど他よりごはんが特別いいわけでもなかったな。走るのも疲れたし」

「お前嘘ついてんのかよ。ばれたら怒られないか」

「別にいいだろ。ばらすなよ」

「明日も走るのかな。やだな」


 実は俺以外の人間でもこっそり入っている人間もいたらしい。意外とガバガバだなと思ったが、傭兵ギルドに正規兵が募集をかけていたし、今はとりあえず人がほしいのかな。


 俺もその口なのはほぼばれていると思った方がいいかもしれない。まああいつみたいにわざわざ言い出すことでもない。つっつかれるのも面倒なので黙っておいた。


「そういや噂だけど、今度の討伐はザハルガットの騎士姫も一緒に行くらしいぜ」


雑談をしていたうちの誰かが放った何気ない噂話。その一言に、眠気に耐えながら一座にとりあえず参加していた俺の頭は一気に覚醒してしまった。


げえー、この時期はあいつ、ここにいるのかよ。

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