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64. 作戦会議

 アズライトを説得した後、ギボンの工房に最後に挨拶をした。まあ毎日帰ってきていたので最後の調整を終えたところで侯爵領に行くことを伝えると、油ややすりなど武器の手入れ道具を渡された。

 ずいぶんサービスがいいなと思っていると、魔鋼の武器を作った数が少ないから道中でも使ってみて感想をしっかり覚えておけと言われた。「それまでに錆びさせたり折ったりしたら承知しないからな」と言われたが素直に助かるので有難くもらっておく。


 ギボンは引き続き魔鋼石を採取しては新しい武器を作る事に専念するそうだ。本当は魔鋼をしこたま集めてたくさん試作を作りたかったところを俺達の武器を作るのを優先してくれたらしい。


 長年停滞していた鉱物探しに急に成果が見られたギボンの工房は、俺たちが来た時とは大違いで忙しく稼働していた。創作欲求で仕事がはかどるのか、寂れて見えた鍛冶場の周りが日をおうごとにだんだん散らかってきているのが見えていたんだ。たまには掃除をしろよと言い残すと鼻で笑われた。まあ仕事にかかりきりになるとそのすべてがどうでもよくなるのはよく知っているのだけど。


 そしてむりやり手紙配達依頼をしぶしぶ受けてくれたアズライトには、オイバルを出るまで感謝し倒しお土産を約束し報酬を上乗せしてなんとか機嫌を取り続けた。


 親の手紙を渡すにあたって、俺の知る限りループ人生情報を使って一緒に対策を練った。とはいっても俺の知っている祖父母たちのことは上辺だけの事しか知らないので周辺証拠だけだ。


 今回行くのはとりあえず父の実家でケルンの街の商家だ。そこには父方の祖父母と叔父にあたる人が営んでいる店があるらしい。母方の実家も同じケルンにあるのだがそこには行かない。母さんの実家は生まれの場所ではそこそこの良家で、男兄弟は騎士になった人間もいるお嬢様である。それを商家の息子である父と恋に落ちての駆け落ちを決行し、俺の地元のミーシャ村に行きついた。

 心配した母が自分の実家にも便りを送ると言ったのだがそこは全力で父さんと説得して止めさせた。愛娘が駆け落ちした相手との子供が急に来られても金をせびる詐欺師と疑われかねない。なんだかんだいいとこのお嬢様が抜けないかわいらしい母である。


 これまでの人生で祖父母のいる実家と名前はわかっているのが、家を出た理由が理由だったので孫にあたる俺も積極的にかかわろうとしなかった。そのためのこの情報量の少なさである。

 俺のループ人生での戦略なんて今までの情報を積み上げるしか能がないのに、今回の事案では使える情報が全くない。よって起きることの想定と対策は特に重要だった。


…うん。だから決して自分が行くのが怖いからアズライトにやってもらうとかではない。決して。


 とりあえず大まかな計画としてはこうだ。

 いろいろ寄り道をして祖父母の住む街を訪れるのが遅くなった孫の俺に扮するアズライトが父親の実家アゲード家を訪問する。

 アズライトの髪は真っ黒なので染粉で少し脱色してもらい、父さんと似た色にして風貌を似せてみた。もし疑われた場合のため、念押しで髪色だけは母に似ている俺の色素の薄い髪を一房託す。どうやら父の家族は出ていった息子の懸想相手を知っていたそうだ。


 父の両親への手紙には俺が父ドロマイトと母セレネとの息子であること、俺が父さんに伝えた願い通り魔法を学べる場所の紹介を頼みたいという趣旨のことが書かれている。あと中身を見ずに渡しなさいと言われた包には体積にしてはやけに重みのある物体が金属音を微かにたてている。下手な勘繰りだが少し資金になる物が入っているのだろう。申し訳ないから見ないでいるけどどう考えても村ではついぞ見たことがなかった貴金属の音だった。


 アズライトもそれに少し思うところがあったのか、「俺に託して大丈夫かよ」と言ってきたので笑顔で頷いておいた。面倒なことを頼んでいる自覚はあるし、なんなら少しくらいちょろまかしてもいい。どうせ俺は使わない金だし。

 でもアズライトならそうはしないだろう。あれでいて案外懐にいれた人間には甘いのだ。前世で盗賊だった俺たちはもちろん略奪だりなんだりと犯罪行為を犯していた。だがアズライトは嘘をついて大金をだまし取るような詐欺はしなかった。まあもしかしたら単純に頭を使うのが苦手だっただけかもしれないが。


 素直にそう伝えると無言で殴られた。なぜだろう。


 ともかく祖父母の家に連絡を取れたら次のミッションだ。今度は親と約束していた定期連絡のため、俺がミーシャ村に出すための手紙をしたためる。なんとか祖父母の家にこれたこと、そして道中すこしトラブルがあって遅くなったがこちらは元気なこと、あとは村や兄弟の様子を尋ねる無難な手紙を作る。

 決して傭兵ギルドに登録したとか、自分の等身ほどの武器を手に入れたことなどは書かない。俺はちょっと冒険心のあるただの4歳児をめざすのだ。


 できた手紙をケルンの街からミーシャ村へ手紙を届けてもらえればいったん約束の定期報告は大丈夫だろう。もしアズライトが代わりに実家にいる間に魔法を学ぶ場所を紹介してもらったとしたら、ケルンを出たあと合流して途中で変わればいい。

 もしばれた時のことを考えて言い訳の手紙も一応アズライトに渡しておいた。でも使われないことを祈るのみだ。


 父の実家でいろいろと聞かれるだろうと思って、俺の家族のこともアズライトにはいろいろと話しておいた。途中で弟妹自慢みたいになってしまいうんざりした顔をしていたが、これでしばらくはごまかせるだろう。


「これ絶対途中でばれるだろ…?」な顔をしているアズライトを励まし、俺も侯爵領での用事が終ればなるべく早くそちらへ向かう、できるだけ実家にアズライトがいる段階で用事を終わらせ、祖父母に種明かしすることを目標にするからと言ってなだめた。

 もとはと言えば最初の定期連絡の条件に自分の実家の親にも一筆書いてもらい、一緒に送るよう決めた父ドロマイトのせいである。まだ子供の俺が変なところへ行ってしまわないように安全な策を練ってくれての結果なのでその気持ちはわかるのだが。


 家族の未来のためとはいえ、旅の出だしから親との約束を無視しまくった俺が怒られないように、アズライトにはぜひ全力で演じていただきたかった。


「ふと気づいたんだけどさ、これもしかしてギルドでお前がやったハッタリを今度は俺がやることになってるんじゃないか?」


 はっとした顔でつぶやくアズライトに無言でニコリと微笑むと、今度は遠慮なく殴られた。

左頬が二度の負傷でじんじんするが仕方がない。マダムの時ほど急いではないが、そうゆっくり寄り道できない理由もあるのだ。


 侯爵領ではもうすぐワイバーン狩りの季節になる。今度はそれに間にあう必要があるのだ。

 季節は夏になりはじめていた。

 

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