61. 武器
ギボンのいる小高い丘を登り、薄暗い工房を訪ねると「遅い」と一言文句を言われ、すぐに完成した武器を二つ並べられた。
一つは長身の片手剣。スタンダードな形だが、使われている魔鋼特有の鈍い虹色が光の反射で浮かび上がっている。照らした表面が均一に光っているのはギボンの腕がいい証拠だ。
グリットには丁寧に滑り止めの蔦が巻かれており、木製の鞘も簡単だが一緒に並べられていた。傍目にも高品質のオーダーメイド武器にアズライトも興奮気味だ。
そして俺用の武器は希望通り、身長ほどもある半月上の金属の塊。柄はなく、斧の刃の部分だけを大きく縦に伸ばしたような形で、刃先だけがアズライトの片手剣と同じように虹色の金属が光っていた。ギボンが首を傾げながら作ってくれた注文通りの形の武器だ。
「お前の方はさすがに全部を魔鋼で作っては足りんから、大部分は鉄を使っておる。注文通り全部金属で作ってやったが、その代わり重いぞ。」
言外に「持てるのか?」と目で言われた。実際今の俺の身長が低いのだとしても、普通の大人が持つだけでも重そうである。
さすがに普通に持つのでは俺でも難しそうなので、身体強化をかけ、刃の反対側につけられた取っ手を両手で持ち上げた。
ずん、と効果音がでそうな出で立ちで、狭い工房の中で俺の剣立ち上がる。下の刃先は自重で地面に沈み込み、上の刃先は俺の身長を少し超えるくらいだ。
さらに詳しく見たかったのでいろいろ動かそうとすると、工房でふりまわすなとギボンが文句を言ってきたので、三人で外に出た。
工房の前の広場で改めて身体強化をかけ、持ち加減を確認しつつ、斧モドキを振り回す。どうしても重心が持っていかれそうになるので思い切り足を踏ん張りつつぶん回す。ある程度回転がついたところで工房の反対方向の林へ飛ばしてみた。感覚としては大きなブーメランを飛ばすのに似ている。
無事水平時方向に飛んでいった鉄塊は、まっすぐ木々の茂る林の中へ吸い込まれていく。緑の中へ消えていった武器の通過後、何の変哲もなく見えた動線上の大きな木の幹が大きな音を立てて倒れていった。
…うん。思ったより威力があったな。でもこれくらいの切れ味なら当初の目的も問題なく達成できそうだ。さすがギボンの武器である。
俺が回転し始める前から結構な距離を保っていたギボンは、轟音の倒木音が収まった後、物陰から出てきたあと、同じく隠れていた隣のアズライトにぼそりとつぶやいた。
「人間のガキってのはこんなバケモンみたいな力があるもんなのか?」
「あるわけないだろ。頼むからあいつを人の基準にしないでくれ」
失礼な奴である。せめてギボンは俺の腕がいいからとか言ってほしかった。ギボンの腕がいいのは本当だし、やはり少々危険な賭けをしてまで頼んだ甲斐があった。あとは扱う俺自身の技量が問われるのみである。
「アズライト!ちょうどいい。武器の慣らしに一狩りいこうぜ!」
「断る!特にその刃物持った今のお前とは絶対に嫌だ!」
まだ遠くに潜んでいるアズライトは俺に全く近づくことなく返事をした。ひどいな。ちょっとした遊びにさそう感覚だったのに。弟のオーシャンなら喜んでついてきてくれるぞ。
しかし俺はめげない。前回の人生でアズライト率いる盗賊団が少数ながらなぜ大きくなったのか。俺が身体強化を全員に教えて個々がそれなりに強くなっていたからである。
魔法を使える人間は殆どでなかったが、頭目のアズライトも例に漏れず前回身体強化は体得していた。
物陰から出ず自分の剣の試しもしていないアズライトを引きずり出し、身体強化の感覚を軽く教えた後、試し切りをしに森へ繰り出す。
そういえばギルドへ訪れた時に壁の張り出しに、人を襲う狼の群れの討伐依頼があったな。たしかオイバルの商工会から出てたやつ。ちょうどいい。それを探しに行こう。
ギボンは俺が投げた武器を回収して刃こぼれを確認し、他に試して不具合があったら調節してやるから行ってこいと送り出してくれた。
「じゃあ行ってくる」
「おいアウル引きずるな俺は行きたくない!」
「大丈夫だアズライト。お前身体強化はほぼ出来ているから。後は実践あるのみだ」
「そういう問題じゃない!」
新しい武器に慣れるには何事も経験である。俺も新しい武器に早く慣れたいし、狩りは複数人でやった方が成功率は上がる。それだと言うのに、なぜアズライトは文句を言っているのか。
ちなみに武器と呼んでばかりだと面倒なので、俺の斧もどきには名前を付けた。斧みたいだが柄はないので、前世にあった刃物にちなんでウルアックルだ。鞘には入れられないのでグリットの部分に革紐を通し、背中に担ぐ。
紐は持つときに邪魔だから後で紐をつける用の穴をあけてもらおうかな。
さっそく出てきた改善点を記憶しながら、嫌がるアズライトを引き連れて腕慣らしの狩りに俺たちは森へ入っていった。




