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06. 両親について


 俺の両親は少々特殊な馴れ初めだったらしい。いわゆる駆け落ちというやつだ。

 もちろん今の赤ん坊の俺が知る由もない。いままでの前世で村人の世間話から得た情報だ。

 この世界で田舎の村というのは、現代日本に増して閉鎖的である。出身ではない両親は、普通の村なら元からいる村人から距離を置かれてそうなものだ。しかし現在の両親は問題なく村に馴染むことが出来ている。なぜか。

 それは親父の技能と母の教養のおかげだ。父はとある商人の家で、文字書きと計算が出来た。母は育ちの良い令嬢で、父の生家が商いで出入りしていた家の出らしい。この村に住み始めたとき、村人には文字をかける人間がほとんだいなかった。そのため最初はかんたんな記録なんかを手伝っていたそうだ。そこからあれよあれよと事務作業をこなすうち、いつのまにか村長の仕事をするようになっていった。 あとは村も少々特殊なのだが、この世界では珍しい村でもないので割愛する。

 と、つぎはぎの情報をつなぎ合わせるとメロドラマになりそうな人生をすごしてきた両親。二人は熱い恋の結果か、大変仲がよろしい。

 自分の両親のことなのであまり想像したくはないが、俺にこれから弟妹が多くなるのはそのせいだと思う。


 結果村長になった親の家に生まれた俺は、ほかの家に毛が生えた程度には生活に余裕があり、俺は三歳まで健やかに育った。

 そして今までの人生において、責任感の強い親父は不作で村人の誰かが口減らしになるならと冬の前に自分の子供を森においていく決断をした。

 森への置き去りはどの前世でも俺の人生第一関門だ。いつものことだが、当面この三歳の区切りを目標に行動を決めていく。


 …実は父が森に置き去りにする事は回避できるのだが、今回の人生ではこれはナシだ。何度かやったことはあるが、一緒に置き去りにされる弟達の運命は変わらなかった。それを知ってから置き去りキャンセルは避けることにしている。

 直前の前世はどうしたかって?すさんでいたので放っておいてもらえますか?はい。


 前世の母はそのイベントの時どうしていたか。親父がいわゆる口減らしの話をしたとき、母は森において行くのは強く反対していた。母は愛情深い人だ。初めての子供や弟達を手放そうとはしなかった。最終的に親父は母を説得していたが、最後の夜、母は父が俺たちを連れ出すとき、部屋から出てこなかった。

結局父は母に同意を得ずにあの日一人で俺たちを置いていった。

 実際今までのやり直し人生で何度か頑張って村に帰った時の母は俺を抱きしめて離さなかった。だが抱きしめた両腕は飢えからやせた細腕で、その冬の飢えは等しく全員に降りかかっていた。それなのに信じられないくらいの強い力で。

 初めはやられた仕打ちに人間不信に陥っていた俺も、何度かの人生から情報を組み合わせて両親が俺を森においていった事情を知った。納得はできないまでも、理解はした。少し寂しいが俺にとってチュートリアルみたいになってしまっているので、むしろおとなしく森に行く籠の中で最近は両親に少々罪悪感を覚えるようになっている。だからあまり気に病まないでくれ母さん。

 まあ今までの人生はそんな俺の気持ちをを伝える余裕もなく働きまわっていたので、成人した後も両親とは距離が開いてしまったんだよな。今回の目標は「大事な人とコミュニケーションをとる!」だ。陳腐な目標だが、できることから改善していこう。


 そんな未来があるとはつゆ知らず、母セレネは今日も親父と仲睦まじく暮らしている。お腹には少しふくらみがあり、時折大事そうに撫でる光景があった。

 

 そう、もうすぐ俺に弟ができるのだ。




 …いや知ってたけど、親父、毎回手が早くないか?



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