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59. リンクの町4

 起きるとベッドに寝かされていた。窓の外を見ると日は明るくなっている。真夜中から夜が明けたと言うことは、どうやら長く寝ていたようだ。


 おきあがろうとすると、チクリと四肢に痺れが走った。おそらく魔力譲渡の時、無理をしたせいだろう。

 わかってやったことだが、他人の魔力を流すとやはり体に負荷がかかるな。魔力回路的にも成長期はあまり無理をしたくなかったのだが、まあ知人のために使ったのなら仕方ないだろう。


 そうだ。パルラの容体は?マダムがいるから大丈夫だろうが、それでも心配だ。ベッドに落ち着きかけた体勢をまた起き上がり、ベッドから降りようとすると、ちょうどその時扉が開いた。


 部屋に入ってきたのは水刺しと布を持った上背の低い人影だ。この家には今、この年頃の子供はいないはずだ。

戸から顔を上げたその人物はアズライトだった。


「!おい!こいつ、アウルがおきだぞ!」


 アズライトはベッドの上で起き上がっている俺を見、一瞬止まった後、すぐ廊下に向かって大声で叫ぶ。すぐにバタバタと足音がしてしばらくしてマダムが入ってきた。


 マダムは俺の顔を確認した後、ずんずんベッドに近づいてくる。率直にいって勢いが怖い。後ろからマダムを呼んだアズライトも静かに部屋へ入ってきた。

 そのまま肩をつかまれマダムは体のいたるところを確認した。マダムさん。肩に食い込んだ指が痛いです。自分でも忘れがちだけど俺はまだ4歳児なんだ。


「アウル!体は?痛いところは?ああベッドから出てはいけません。安静にしていなさい」

「マ、マダム?」

「いいですか、今医者を呼びますから。アズライト、アウルをこの部屋から出さないようにお願いしますよ」


 さっき入ってきたと思ったらマダムはくるっと踵を返し、部屋からすぐに出ていった。

 嵐のようなマダムが戻ってくるまでの間、アズライトに小突かれながら聞いたのは、パルラの出産日の後のことだった。


 俺が疲労で倒れた後、それに気づいたマダムは慌てて、俺を休ませパルラに横並びに寝かせていたようだ。

 ちょうどその日、遅れてリンクの町にたどり着いたアズライトは俺と同じようにマダムの家を訪ね、慌ただしくしていたパルラの家は人手を求めていたらしく、マダムはアズライトにギルドの登録があることを知ってその場で臨時で雇ったらしい。

 ちなみに俺はあの日から三日間眠っていたらしい。驚いた。どうやら随分疲労がたまっていたようだ。


 アズライトは滾々と眠っていた俺の世話をしたり、買い出しを頼まれたりと、雑用を頼まれた結果、傭兵ギルドってのは町の職業斡旋所だったのか?と不満げに文句をこぼしていた。

 わざとなのか、俺が横たわっているベッドの裏を何度も蹴ってくる。マダムの家の備品なのでやめていただきたい。

 まあ戦闘を想像して入った傭兵ギルドならそう思うのも無理はないか。


 ついでに家を手伝う間にアズライトは俺ことアウルと知り合いだと漏らしてしまい、俺のハッタリ事件もあってどこまで言ってよいか悩んだ結果、マダムの質問にしどろもどろになった。結果彼は現在はマダム一家から口下手判定を受けているようだ。

 お前のせいだと追加でベッドを蹴られた。やはりわざとではあったらしい。


 アズライトと話をしているとマダムが医者を連れてきて、いろいろ、問診を受けた後、傷口の包帯の交換を行い、滋養のあるものを取って休むよう言われた。治癒師のいない地域の医療はこんなものである。


 予想外だったのはこのあと逃げ出せないベッドの上で、マダムに大説教を受けたことだ。

 無理をしないと言ったのに約束を破ったこと、自分を傷つけて魔術を使ったこと、その他自分を大切にしなかったことなど内容は多岐にわたった。

 貴方に何かあったらたとえ娘が救えたとしても喜べない。話してくれた妹や弟が同じことをしていたらどう思うかなどなど。しっかり俺に突き刺さる言葉のチョイスで繰り出される説教に、俺の心は普通に痛んだ。勘弁してほしい。


 ベッドにくくりつける係にベッドの反対側にアズライトもいたため、説教中の部屋に逃げ場はなかった。俺の説教中に詳しく事情を把握したアズライトには白い目で見おろされた。あれは間違いなく引いた目だった。


 いろいろと耐えきれなかった俺は、心配と意識そらしの下心もあってパルラのことをおずおず聞くと、幸い体調は快方に向かっているらしい。ほっと息をつく。

 荒療治の後、短期間なら治癒魔法が使えるようになった(!)マダムが少しずつ治癒魔法をかけたおかげもあって、今ではすっかり歩けるまでになったという。

 それにしてもマダムがマダムが治癒魔法が出来るようになったのはすごいことだ。血縁限定だそうだが、孫が生まれたマダムにとっても有用なスキルだろう。


 俺も無理した甲斐があったというものだ。内心そう思っていると心を読んだかのようにマダムに睨まれた。

 首をすくめるとため息をつかれ、と思うと急に姿勢を正し、マダムが深々と頭を下げる。


「あの、マルバ、さん?」

「アウル、遅れてしまいましたが、私の娘、パルラを助けてありがとうございます。おかげで私の大切な家族は救われました。遅くなりましたが、改めてお礼申し上げます」

「い、いいんだマダム。顔を上げて、ください。俺がやりたくてやったことだし、それに俺にも妹がいるし、そしたらパルラが俺の母さんと思えば動かずにはいられなかった」


 隣のアズライトは黙って俺の言葉を聞いていた。足がびくりと動いたのは、ベッドに突っ込みを入れようとしたらしい。アズライトは傭兵ギルドでの俺の行動を知っている。ネタバレしたハッタリについても。

 知っていてなお、ツッコミをこらえてくれてありがとうございます。頭を上げないマダムのに向き合ったまま、旧友に感謝した。


「それでもです。お礼になるかわかりませんが、私にできることがあれば言ってください」

「そのためにやったわけでもないんだが…できれば、ひとつお願いしてもいいだろうか」


 急なマダムの謝礼にとまどったが、おそらくここを逃すと次はない。

 そう思った俺は、人の好意にかこつけるのに罪悪感を覚えつつ、当初の目的だった傭兵ギルドの紹介状を頼んだ。マダムはその申し出に驚き、少しためらいながら最終的には請け負ってくれることになった。

 主にためらった理由は俺の年齢のようだが、魔術を使えることを見たこともあって、了承してくれた。

 一応年齢に関しては傭兵ギルドと同じく低身長を言い訳にサバを読んだが、信じてくれたかは疑わしかった。

 アズライトにはマダムの見えないとこで背中を小突かれた。痺れの残る体に痛い。


 傭兵ギルドを知っているのは、アズライトから聞いたと言うことになっているらしい。同じ日に登録したことはぎりぎり黙ってやったと後でアズライトにまた文句を言われた。ありがとうございます。マダムは俺が彼女を仕事場の通称で呼んだことにもアズライトから教わったのだと納得してくれた。

 マダムは紙とペンをパルラの旦那に頼むと、その場で紹介所をしたためすぐにサインしてくれた。


「紹介状は書きましたが、私は娘の様子をもう少し見たいので、今ギルドまで案内はできません。念のため鳩便でギルドにいる弟の方にも送って話を通しておきますね」


 言外に一人では信じてもらえないとマダムは考えているようだ。まあその通りだしな。でもおかげで目的だったギルドへの連絡もしてくれた。


「ありがとうマダム。俺は物をなくしがちだから助かる」

「ふふ、あなたにもできないことはあるのですね」

「そりゃあね」


 本当に出来ないことばかりだ。今回も行き当たりばったりだったし、本当に万能な人間ならこんな何回も死に戻りしないだろう。

 ちなみに物忘れがち発言の際にアズライトにまた殴られた。背中が痛いぞ。お前もう叩きたいだけだろ。


 鳩便はこの世界では信用のある連絡手段で、確実に今日には傭兵ギルドに届く。これで一週間の仮免許のタイムリミットはひとまずクリアだ


 俺もパルラが心配だからもうしばらくリンクにいると言うと、マダムは「当然です。あと五日は休んでいただきます」と強めに言われた。

 魔力も回復したし、自分で治癒かければすぐ直るんだけどな。でもマダムの顔が怖いのでおとなしく従っておこう。


 そういった流れでアズライトと一緒にしばらくリンクの町に滞在した。

 その間、当然のようにマダムは家にとまらせてくれた。義理堅い人だ。その間、部屋から出る許可が出た後に改めてパルラにもお礼を言われたり、産まれた赤ん坊に会わせてもらったり、家事を手伝って山で猪狩りをしたりして過ごした。

 そしてマダムの指定の日もすぎ、頼んでいた武器もできる予定日になったので、俺たちはリンクの家に挨拶をし、オイバルの街へ戻る道に足をはこんだ。


 リンクのつじつま合わせが出来たし、ギボンの武器もできているはずだから、戻るのが楽しみだな。

 数日前に離れた場所にむかって、マダムに報酬をもらった後も初仕事に文句を言い続けるアズライトと今度はゆっくり歩を進めた。


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