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57. リンクの町2

 見知らぬ人間だが、子供ということもあって俺が近づいてもマダムに警戒の色はなかった。

精いっぱい愛想よく挨拶すると、マダムは静かに答えてくれた。入口にあった老人同様薬売りをしているという紹介にま、大した荷物もない子供だが丁寧に対応してくれる。


 浮浪者みたいな子供だろうが誰だろうが態度を変えないのは相変わらず人間のできた人だ。


「薬草を集めながら薬を売っているんだ。なにか困ったことはないか?もってる薬なら売れる」

「そうね。いま困っていることは特にないけれど、もうすぐ身内に子供が生まれるの。妊婦か赤子によいものはあるかしら」

「それならこれだな。むくみの軽減に腰痛にはこれ、せき止めもある。あとはお守りも」


あらかじめ用意していた懐の薬草に、さっき爺さんに煎じて残った粉の残りなど、最後に何気ない風を装って魔石の欠片を見せた。

魔獣の雹赤熊からとって村で少しずつ使っていた欠片の一つである。


案の定マダムの顔色がかわった。さすがだ。普通魔石なんてただの村人が持つものではない。なにげなくマダムの距離が近づいたがそ知らぬふりをしておいた。


「これを、どこで手に入れたのですか?」

「なにって村のお守りだよ。子供とか、体の弱い人につけるといいんだって。別にこれは俺の家族にもらったものだから、どっかから盗ったりしてないからな」

「そういうわけではないのですが、そうですね良くない聞き方をしました。すみません」


 自分から晒しておいて申し訳ないが、少し怒ったふりをして答えると、マダムもそれを悟ったのか、気まずそうに謝ってくれた。

本当に礼儀正しい人だ。


「私の名前はマルバと言います。仕事の関係で少しそのお守りと同じものを見たことがあるのです。とても珍しいものなので驚いて失礼をしてしまいました。あなたは、その」

「アウル」

「アウルですね。もしよろしければアウルのお守りを少し貸してもらうことはできますでしょうか。子供が生まれるまで、娘にお守りを持っていてほしいのです。もちろんお礼はいたします」

「いいよ。俺にも妹がいるし、お金はいいけどそのかわりこの町で薬草をとってもいいかな。いろんなところで採集しれるんだ」

「もちろんです。ちょうど娘の家の裏は森ですので、頼んでみましょう」



 しれっとマダムの本名を教えてもらったあと、魔石を一定期間貸し出すことになった。

 代わりにだした要求はマダムの娘、パルラの家はリンクでも少し山に面した場所なので、するっと受け入れられる。よし、話の流れで数日この町で過ごす口実を手に入れたぞ。


 家に招かれて俺の妹の話をしながら、ついでに家の奥にいたパルラさんにもあわせてくれた。椅子にすわって編み物をしていたパルラさんも、母マダムからの紹介で快く家に向かい入れてくれる。


 子供時代というのはこういう時警戒されなくて便利だな。そんなことを思いながら話をして、後から帰ってきたパルラの旦那にも話を通してくれた。彼は少し訝し気な顔をしていたが、今は出産の手伝いに来たマダムがこの家の決定権を握っているらしい。

わかるぞ、マダムの有無を言わせないオーラは人を従わせる何かがあるよな。傭兵ギルドでもそんなかんじだった。


 夕食もごちそうになり、採集したいものやこの時期獲れる動物の話をすると「アウルは何でもできるのですね」と微笑まれた。どうやら子供らしい誇張表現だと思われたらしい。獲物の中に熊と猪が入っていたからだろうか。

 数日ぶりに柔らかいベッドで眠ると翌日は宣言した通り、裏山で本当に採集をする。

出かけがてら「狼には気をつけろよ」と声をかけられた。うん、まあ気をつけるよ。最近倒した狼を思い出しながらぬるい返事をしてしまった。


 リンクの山は故郷の森ほどではないが、豊かな森だった。傭兵ギルドに登録してるなどとはもちろんマダムの家族に言っていないので言い訳の通り、薬草を本当に採集した。


 途中で沢を見つけたので、冷たい水に少しつかり、小魚を取る。そこらに会った蔓で獲った数匹をまとめて次の場所へ移動する。


 こんなことをしていると冬の間の森のことを思い出すな。弟妹の世話をしながらの生活は大変だったが楽しかった。久しぶりに妹の話もして少しミーシャの村が懐かしくなってきた。やはりできるだけ早く帰ろう。


 そう思いを新たにしながら日が暮れる前にパルラの家に帰ると、帰るのが遅いと少し慌てられた。

どうやらマダムは俺が昼くらいに腹を空かせて帰ってくると思っていたらしい。しまった。村の基準で動いていたからまた他者の目を忘れてしまっていた。山で軽く食べ物を軽く食べたのだが申し訳なく、多めに出された夕食はありがたくいただいた。セレネ母と違った味付けて美味しい夕食だった。


「俺にも妹がいるからたのしみだ。弟もいるけど女の子も可愛いから」

「あら、まだ生まれてくる子供の性別はわからないわよ。アウルは女の子がいいのかしら」

「あ、ああ、そうだった」


夕食の会話で赤子の話題になった際、つい子供の性別をもらしてしまい、食卓をかこんだ大人たちに首をかしげれてしまう。

そうだ、まだ子供は生まれていなかった。女の子だと知っているのは俺だけだった。

妹のことを話していたので俺が勘違いしたことになってなんとかごまかせた。



次の日も魚を取ったり、言われた通り昼過ぎには帰って薪割を手伝ったりしていると家の方が騒がしくなる。


パルラが産気づいたようだ。


産婆が呼ばれ、夫よりおたおたしていなかった俺は布を用意したり、湯を沸かしたり自然とお産を手伝った。ちなみにマダムが頼んだ通り、もってきた魔石はパルラの首にかけられている。


なんだかんだあって夜までかかったお産は、無事終わった。生まれたのは女の子だ。


直前はさすがの俺もドキドキしていたが、大きなトラブルもなく、一家に安堵の空気が広がる。

夜まで続いたお産は、終わってみれば俺の妹の時に似ているようにも思えてきた。もしかしたら今回は別に危篤状態にならないかもしれない。それそれで少し俺の予定的に困るが、今は親子の安全が一番だ。マダムも手伝った子供を悪いようにはしないだろう。


そう思い俺も一息つこうとしたとたん、家の様子が変わり、産婆があわただしく部屋を行き来しましはじめた。

なにかと思って思わずパルラの休んでいる部屋に向かうと、マダムの大きな声が響いてくる。娘に声をかけるマダムの声には珍しく焦りが混じっていた。


みるとパルラの顔は血の気がなく、真っ青になっていた。

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