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56. リンクの町


 オイバルの町の安宿で一晩過ごした後、アズライトは登録証を受け取りに向かった。

 途中ふと思い出してアウルの言った通り、街の東の入口によって草を刈った。東の入り口はギルドに近かったが、街のはずれであまり使われていなかったらしく、道のだいぶ奥まで方まで草が茂っていた。

 大した道具はなかったので手で引っこ抜くことになり、思ったより面倒な作業だったが、始めたものはなかなかやめられず、惰性で全部抜いてしまった。


 始めたのを少し後悔したが結局終わらせて、アズライトはようやく傭兵ギルドに入る。

 草刈り作業に時間がかかってしまい日は昇っていたが、しかしそれでも朝の時間のギルドは人が少ない。昨日大勢で騒いでいた連中もいなかったので、すんなり入ることができた。


 受付で登録証が欲しいと言うと「遠出するの?」と聞かれうなづくと、会得した顔で手のひらくらいの大きさの木の札を渡される。上部には紐が通されており、簡単にインクでかかれた名前とギルドのマークが焼き印で刻まれていた。初めて見る身分証を物珍し気に見ていると、ふと登録証の隣に数枚の硬貨とパンの欠片が置かれる。顔を上げると昨日のギルドの受付がニコニコとこちらを見ていた。


「窓から見ていたわよ。東の入り口の草を刈ってくれていたわよね。ありがとう。あの入り口非常時に使うから常時刈り取りを依頼しているのだけど誰もやってくれなくて。冬がおわって茂ってきていたから助かるわ」

「あ、ああ」


 昨日アウルの話題に夢中だった受付嬢が、アズライトのことをしっかり目にとらえていた。どうやらアウルの言っていた草刈りは、狼の尾の戦利品より効果があるらしい。不思議な気分で外に出る。紐でくくられた登録証はランクが上がるごとに字の色が変わったり、素材が金属になったりするらしい。

 昨日より詳しく親身に説明してくれた受付を後にしながら、アウルは不思議な気分と共に昨日別れたアウルが少々、空恐ろしく感じた。その気持ちを発散する相手もおらず、当てのない足は仕方なくリンクへ続く街道へ進んでいった。





 アズライトと別れてから夜まで走り続け、眠くなれば少し仮眠をとり、保存食を少し食べると朝日と共にまた走り出した。

 そしてまた疲れるまで走り続け、夜になれば眠る、そうやって進んでいくと、オイバル町を離れてから2日目の朝には一つの町が見えてくる。リンクの町だ。


 町と言ってもそオイバルと比べてだいぶ田舎寄りに近く、集落の建物は転々としており、街の入り口は田畑が広がっている。

 よそ者が来ることも少ないのか、俺のことを物珍しそうに見る人間もいた。まあ一人で子供がいるのが珍しいのかもしれないが。

 軒先に煙草をふかしている一人の老人に懐の乾物を差し出しながらリンクの町のことを聞いた。今の俺は、家族のお使いでそこらの薬草を収集する流れの薬売りの設定だ。流れと町に知り合いもいないこともあって少し訝しがられたが、腰痛に効く湿布の作り方を話題にしたら老人は一気にフランクになった。

 持ち合わせの薬草を配合を見せながらマダムの娘、パルラの家についてそれとなく聞いてみる。予想通り彼女は出産間近で年長の女性が親族にいないため、実家の母親が手伝いに出てくると聞いた。おそらくそれがマダムだろう。

 薬草が必要なこともあるだろうと売り込みたいと言えば、調合した薬をタダで渡したこともあって、老人は家までの道を教えてくれた。まあ場所は知っているのだが、今のマダムの状況を聞けて良かった。幸いというか、まだ子供は生まれていないらしい。


 パルラの家は町の中でも少しはずれで東側に山が面し、近くには川が流れていた。

家の前の小川にわたされた小さな橋を渡ると庭木の豊かな家が奥に見える。俺の記憶の中にある彼女の家である。

市場で手に入れた果実をかじりながら、家を眺めてる不審者になっていると、ちょうどそこから人間がでてきて入口で水くみを始めた。

 水瓶を持ち上げたところで相手も家の前に立っている人影に気づいたのか、こちらを見上げる。白髪の混じった黒髪を後ろにひとつに丸め、堀の深い鼻には鼻眼鏡をかけている初老の女性が緑の目でこちらをとらえた。


 うん。アズライトの時も同じように思ったが、懐かしい顔だ。

 記憶より少々若いマダムは、家の前に立っている見慣ない子供を訝しそうに見下ろしていた。

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