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54. 鍛冶師ギボン2

 洞窟のように奥まった住処を進むと、熊のような人物が入り口に背中をむけてうずくまっていた。


 向き合っている炉の紅い炎に照らされた肌は浅黒く皺が深く刻まれていいる。ドワーフ特有の長く伸びた縮れ毛うっとおしそうに後ろに荒く一結びにされていた。ギボンは炎に向かいながら金槌を振り下ろす手を止めない。作業中のこいつはたいてい来客がきても無視するので、そこらへんにあったひっかき棒で壁に立てかけていた盾を銅鑼のように叩いた。


ガンガンガンガン!!


 熱した金属を叩くよりも大きな打音はさすがに無視できなかったのか、それでも振り向かずに奥を向いたままギボンは怒鳴り上げる。


「今忙しいだ!用があるなら出直せ!」


 無視して俺も声を張り上げた。


「剣を作ってほしくて来たんだ!オイバルのギルドの紹介状もある!急いでいるから今話を詰めたい!」

「ああん?声からして人間にしてもチビのガキだろうが。戦えもしないガキの見栄に付き合うつもりはねえ!金を積むなら話は別だがな!」


「金はない!」

「帰れ!」


 一瞥もしないまま怒鳴り声だけで会話が続く。まあ話してくれているだけ紹介状があるおかげだ。しかたがないのでさっそく道中手に入れた物体を出しながら更に声を張り上げた。


「金はないが武器にする素材はある!あんた鉄鋼を求めてここで鍛冶仕事やってんだろ」

「鉱石の類はたりとるわい。子供に与えられんでも十分にある」


「残念だな。じゃあこの魔鋼石はあんたの兄のウィドンにやるわ」

「ウィドンは弟じゃ!まて、魔鉱石だと?」


 そこでようやくギボンは振り向いた。

 双子の弟とどちらが先に生まれたかを言い争っているのは相変わらずらしい。

振り向いたギボンの目は俺の手にあるさっき洗った土塊に目を向けた。見やすいように炉の光にかざしてやると、目の色を変えてようやく鍛金の手を止める。


 ドワーフは皆鍛冶が得意で、人生の多くをどれだけ良い作品を作るか日々競い合っている。今回訪れたギボンも多くのドワーフの例にもれずそのタイプで、鍛金に必要な場所や素材を求めて人間の街の近くに腰を下ろしている。

 傭兵ギルドに世話になった人生で、人の住んでるところに普段近づかないドワーフがなぜオイバルの町の近くを拠点にしていたのか、聞いたことがある。それで帰ってきた答えが素材になる鉱石を探すためだと教えてもらった。

 この近くには鉄鋼石の算出で有名な炭鉱があるしな。


 横にも縦にも大きな体が近づいて、持っていた俺の掘り出し物をそのまま手に取ろうとする。手ごろな大きさの塊を渡すと皺の中に光る目で鋭く角度を変えながら確認した後、どこで見つけたと聞かれた。俺が拾ってきた魔鉱石は魔鋼という特殊な金属の原材料で、普通の鉄より希少価値が高い。ドワーフの鍛冶師もあこがれの素材だ。


「この丘のあたりで見つけたぞ。見つけたとこにはまだまだまだありそうだった。魔鋼で武器を作ってくれるなら掘った場所を教える。」

「ばかな。俺が鉱石を求めてこの地域にてしばらくたつがついぞ見つけられなかったもんだぞ。見当が外れたと思っているところだ。それを紹介状をもらっただけの素人の人間が見つけられるか」


 そういわれたのでアズライトに持ってもらっていた、手に抱えるほどの魔鉱石を無言で指さす。

 アズライトは突然注目され、張り付いていた壁で更に固まっていたが、無言で手に抱えていた魔鉱石を見えやすくしてくれた。それを確認して顔をしかめたまま、ギボンはこちらに視線を戻す。


「それは運が悪かったな。こいつを見つけたところは上に花が咲いていた。葉のない、背の低い白い耳みたいな花だ」

「チッ、エルフの耳か」


 エルフの耳は俺が掘る場所の目印にしていた花だ。

 ドワーフとエルフは種族から仲が悪く、たがいに避けている。種族にまつわる物や似たいわれのある物もこれに同様で、嫌っているエルフの耳に似た花というだけで近づかない。そんなドワーフも多い。ギボンもあの花が生えているあの辺りは無意識レベルで避けていたようだ。名前もそのまんまエルフとついてるしな。


「あんたの弟ウィドンにもっていってもよかったんだが、剣を作るのはあんたの方がうまいだろ。魔鋼で剣を作ってほしいんだ。作って残った魔鉱石の残りはやるから頼むよ」



 弟のウィドンも実はここから少し遠いが、まあいけなくなくもない距離にいる。ギルドの紹介状はどちらにもきくけどギボンに頼んだのは今言った通り、彼が剣の製作を得意としているからだ。ウィドンも同じくらい腕がいいが、どちらかというと槍先の方が得意だ。性格は似たようなもの。

 槍は便利だが俺はあまり使わないんだよな。あとギボンの場所の方が近かったし。


 目の前のギボンは髭の生えた顎に手をかけて思案顔だ。だいぶ依頼の受理に傾きかけているギボンにあと一押しすることにした。


「この花のあるところに魔鉱石はあるとしたら、俺の出身の村でもこの丘に咲いていたより大きい群生地があったな。作ってくれたら俺の村も紹介する。村で見つけたならそこで武器でもなんでも作ればいい。森も大きいのがあるから燃料の木材もあるぞ」

「むう」


 なんかいけそうである。


 実際に魔鉱石を掘った場所を確認するために三人で実際に俺たちが掘っていた場所にむかい、他のまだ掘っていない地面でエルフの耳がさいている場所を掘ってみると、確かに魔鉱石が出てきた。


「言っていることは本当だったようだな。いいだろう、武器を作ってやる。それでどんな獲物がほしいんだ?」

「お、俺は片手剣がいい!これから背はでかくなるはずだから、大きめで、あ鞘はどうしようか」

「鞘は専門外だが簡単なもんなら作ってやってもいい。お前は?」


 当初の目的の通り、魔鉱石の提供で無事武器を作ってもらうことになった。金のない俺達にはありがたいことだ。さっそく武器の希望を聞かれる。アズライトも一緒に魔鉱石を掘ってきたし、無事に一緒に作ってもらうことになった。自分の武器を手に入れられることがわかって、アズライトは少し興奮気味だ。わかるぞ。武器ってロマンだよな。


「俺は柄はいい。全部斧みたいな刃にして、両手で振り回せるように刃の反対側にグリップつけた穴を二つあけてくれ。形でいうと半月みたいな形の。俺はまだ小さいから両手で振り回せるように、あと刃渡りをとにかく長くしてくれ」


そういうとアズライトとギボンにあきれた顔をされた。地面に枝でかいた想像図は俺の身長くらいの大きさの武器だ。


「そんなもので何をしたいんだ?」


ふたりの顔にそんな疑問が浮かんでいる。

なに、あるやつに致命傷を与えられればいいんだ。


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